第六話 カルナート家の屋敷
屋敷に戻ると、知らない顔が出迎えた。きっと先ほどは会えなかったサラって人だろう。歳は私とマリーさんの間くらいだろうか。少し明るめの栗毛の髪をポニーテールにしている。ちなみにマリーさんは暗めの栗毛で、編み込んでアップしたあと左肩に流してる。面倒くさそうだ。ついでにソーニャは金髪の長い髪を後ろで束ねてる。
「お帰りなさいませっ。お食事で来たらお呼びしますね」
慣れた手つきで上着を脱がす。
「俺は部屋に戻ってる。何かあればサラに聞くと良い」
そういうとロシェは先ほどいた部屋に入って行った。ロシェの部屋かと思ってたら、実は執務室という所らしい。
「貴女がアリシアね。二人から話は聞いてるわ。食事作るの手伝ってくれる?料理得意みたいだしトロア料理も知りたいし、期待してるわよっ」
「はいっ。と言っても貴族の方の食事には使えないような」
「料理人が作ってるわけじゃないし、私達も同じもの食べてるんだから変わらないわよ」
「そうなんですか?」
「そうなんです」
サラさんが手を腰に、私の目線まで屈んでおどけた様に言う。うん。マリーさんはお母さんタイプ。サラさんはお姉さんタイプと見た。ソーニャは……私の方が年上のはずなんだけどっ。
基本的に食事は、昼夕の二食だ。ちなみに上流階級の人は朝も食べるらしい。まぁロシェは面倒くさがって食べないらしいけど、サラさん曰く私達に合わせてるんじゃないかなぁとの事。今日の夕食はひよこ豆とマッシュルームのクリームスープと、鶏の中にに香草を詰めてグリルした物。あとはパンと葡萄酒だ。
「サラさん、この鶏って……」
「市場で買ったわよ?……なんだと思ったの?」
「なんでもないです」
人数分のお皿に取り分けようとするとマリーさんに止められた。
「まずはロシェル様の分だけよ。私たちは後で食べましょう」
そう言ってワゴンに一人分の食事を載せると、食堂の方に行ってしまった。
「サラさん、別々なんですか?」
「んーまぁほら、お店みたいなものよ。食堂で食事作ってもお客様とは一緒に食べないでしょう?」
「うーん。でも、なんかさびしいですね」
「お?ロシェル君と一緒に食べたい?つまり玉の輿狙ってるのかな?」
「いやいやいやっ、そうじゃなくてですねっ」
「ふーん?」
「あーちょっとお手洗い行ってきますっ」
「了解~。ついでにソーニャちゃん呼んできて~」
「はーい」
お手洗いから戻るとき、執務室の前の廊下から中庭を通して食堂が見える。中でロシェが食事をしていた。後ろにマリーさんが控えてるが話してるようには見えない。ただ機械的に口に食べ物を運んでいるように見えた。
台所に戻ってしばらくすると、食堂の方からマリーさんが現れた。
「サラ、スープは温まってる?アリシアさん、ソーニャ、食事を控室の方に運んで頂戴」
「「「はーい」」」
ばたばたと食事を運ぶ。席に着くとソーニャが、皆に飲み物を配る。
「今日はアリシアちゃんが一緒に働くようになったお祝いって事で、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「ありがとうござます!」
女性が三人集まればとかいうけど四人だ。そりゃもう姦しい。今日会ったばかりというのに何故か私がロシェを狙ってるとか、それよりソーニャはどうなの?とか。久しぶりにすごく賑やかな食事だった。
ただ、途中さっき見た風景が頭に浮かんで、ちょっとずきっとした。
~ リアノス北西 ~
「ゴブリン10数匹、オーク3匹。こんなもんかねぇ……。場所的にはここからさらに北西に1、2キロぐらいか?よっしゃ!これだけお土産持って帰れば大丈夫だろ。日が暮れる前に離れるかね」
西の街道から数キロそれた場所でハンスは息を吐いた。足跡から魔物の種類と数をある程度把握できたので現在の場所や、移動先の方向などの調査内容を細かくメモしていく。
「しっかし、この時期にこれだけの魔物の規模は珍しすぎだろ。なーんか変な事が起きてないと良いけどなー」
最後に周りを見渡すと彼は野営をするため、馬首を街道に向けて走り出した。