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第二話 魔物の影

 学園を出て西門の方に向かう。今日から屋敷に泊まっても良いらしいので、宿屋に荷物を取りに行くことにした。


「鈴鳴り亭か」


「うん。私のお父さんの知り合いで、こっちに来た時はいつも泊めてもらってたから。えっと場所は……」


「場所は大丈夫だ。鈴生り亭は結構行くからな」


「え? そうなの?」


 意外な回答に首をかしげた。旅人向けの宿屋って、あまり貴族が行くような店じゃないような……。実家の店でロシェルみたいな身なりの良い人は会った記憶がない。


「あそこは依頼の斡旋をやっていて、それ目当ての学園生も多い。俺も助っ人に呼ばれたりすると、たまに顔を出すからな」


「なるほどね。世の中って狭いなぁ」


 民家が建ち並ぶ小道を抜けて、中央広場と西門を結ぶ大通りに出た。静かだった空気がざわめきで満たされる。そのまま西門の方に向かっていると、左手に鈴の彫り物をレリーフにした看板が見えた。ここが鈴鳴り亭だ。先を歩いていたロシェルが扉を押し開く。


「いらっしゃい。ってか騎士様じゃねぇか。えらいタイミングがいいな。ハンスの野郎から聞いたのか?」


「良く分からないが、話はこの子の方だ」


「は……? いや、ちょっと待て。なんで一緒にいるんだ?」


 憮然としたロシェルに、面食らったようなマスターの顔。二人の注目がとても気まずい。


「えーっと、色々とありまして」


 今日起きた事を説明すると、納得したのかマスターに大声で笑われた。しかし騎士様ってニックネームなのかな? 後でロシェルに聞いてみようとほくそ笑む。

 とりあえず二人を残して部屋に向かう。しばらく滞在する予定だったので荷物を整理しないと。といっても私の荷物は多くない。換えの下着に上着が一着、師匠から頂いた魔導書に数冊の本。あとは手鏡などの小物が数点くらいだ。大きな肩掛け鞄にに積めて一階への階段を降りた。

 一階ではロシェルとマスターがカウンター越しに話していた。昼過ぎなせいか私たち以外に客の姿は見えない。なんか長くなりそうな気配がしたので、ロシェルの隣に座る。


「街道に魔物の影だと?」


「あぁハンスが先ほど慌てて戻ってきてな。確かめに行くって言うから馬貸してやったのよ」


「駐留所に連絡は?」


「ここ来る前に連絡したら、しばらくの間街道の見回りを増やすだとよ。調査依頼持ってきたんで馬貸したらさっさと行っちまいやがった」


「ハンス待ちって事か」


「何かあったの?」


 深刻そうに話をしてるのが気になったので、ロシェルに聞いてみる。


「あぁ、ハンス……友人がトロアからこっちに戻るときに魔物の群れの影を見たらしくてな」


「えっ!? トロアに魔物がっ!?」


「落ち着け丁度中間あたりだ。とはいえ、この辺りまで着てるってなるとあまり楽観は出来ないけどな」


「トロアの周りの村とか、少し魔物が現れただけでも結構被害でるのよ? 討伐隊はすぐに出るの?」


「うーん、どうだろな」


「ハンスの野郎が戻ってから考えるってとこかねぇ」


 緊急事態だと思うのに、二人の態度がなんか煮え切らない。思わず強く言ってしまう。


「被害が出てからじゃ遅いと思うんだけどっ。さっさと人集めていくぞっ! とかないのっ?」


「そうだな、こういった小規模な討伐については国から冒険者の方に依頼がでるんだが、現地を調査して魔物の規模や、目的地など難易度や必要経費を踏まえて報酬金額を精査し、上からの承認を貰わないと、依頼自体が出せないのさ」


「調査自体は依頼じゃないの?」


「調査依頼は簡単に下りるんだ。距離や調査日数を元に自動的に金額が決まるからな」


「流石騎士様、国の事情に詳しいな。流れ的には、噂からまず調査。国が調査結果から依頼作成して俺らみたいな斡旋業者に通達。で受ける連中が決まれば国に報告して、そいつらの足、食糧、飲み水を用意。んでやっと出発って訳だ。まぁこまけぇことは国か俺がやるから、お前らは依頼見つけた。受けた。さぁ出発でいい」


「なんかやきもきするなぁ。そうしてる間に襲われたらどうするのよ!」


「まーほれ、乗合馬車や小隊が襲われたら護衛の仕事、村が襲われたら衛視の仕事ってところかねぇ」


 マスターが豪快に笑った。なんか納得いかないんだけど。


「ロシェ、もし討伐の話になったら私も着いていきたい」


「あーそうだなぁ。まぁ入学式までは間に合いそうだし問題ないか。マスター、二人予約しといてくれ」


「おうよ。了解した。しかし若いねぇ」


「普通の感覚だと思うんだけど……。あ、そうだロシェ、私旅用の道具とか何も持ってないんだけど、どうしたらいい?」


 ふと思い出してロシェに聞く。こっちに来たのも乗合馬車だし、夜は馬車の中で雑魚寝してからなぁ。護衛の人が外で見張りとかしてたし。食事もおいしくないけど塩漬け肉とか出たし。


「今日は遅いし、明日にでも……。いや俺が時間が取れないな。それに女性の方が良いか」


「用事?」


「あぁそうだ。マスター、カーナは部屋にいるか?」


「今は学園の研修室にでもいるんじゃねぇか? フィールドワークから帰ってきたばかりとか言ってたしな」


「戻ってきたら、アリシアの旅支度を手伝ってもらえるよう伝えてもらえるか?」


「あー確かにカーナの奴ならうってつけだな。戻ったら俺から頼んでおく」


「すまないな」


「いや思い出したんだが、こいつは知り合いの娘だからな。俺から頼む方が筋ってもんだろ」


 いや忘れないでよ。ちなみに元々は鈴鳴り停にお世話になりながら学園通う予定だった。まぁ学園にかかる経費は私の想像をはるかに超えてたんだけど……。


「えっと、ありがとう」


「気にするな。さて、そろそろ帰るか」



 鈴鳴り停を後に東へ、学園を過ぎ、教会地区あたりから北に向かう。しばらくレンガ造りの厳かな建物に囲まれていたが、高級住宅地区に入ると、急に視界が開け王城が姿を現した。


「おーすごいっ」


「あとは堀沿いの道を北にまっすぐだな。近道は別だが慣れるまではこの道が解りやすいだろう。それに景色が一番映えるしな」


 おおっ。なんかデートっぽい! こういうさりげない所は女性にもてるんだろうなぁと思いつつ、思ったことを聞いた。


「そういえば、伯爵様の家って東部の方にあるんじゃないの?」


 たしかカルナート伯爵領はリアノス王国の東端でローヴァン王国に接していたはず。ローヴァンとは今も武力衝突を起こしてると、実家でお客様から聞いたことがある。


「リアノスに帰る度に王城に泊まるわけにもいかないだろう。こっちにも屋敷があるさ。まぁ維持のためだから使用人が三人しか居ないけどな」


 使用人はマリー、サラ、ソーニャの女性三人で、一番下のソーニャは私と歳が同じくらいらしい。女性だらけってのにちょっと安心した。っていうかロシェってばハーレムじゃない。


「そうなんだ。あ、でも勝手に使用人雇えるの?」


「父上から屋敷の管理を任されてるから大丈夫だ。さっき言った通り使用人増やすのは予定してたんで問題ない」


 二人組の衛兵と何度かすれ違う。全員違う人らしいので、結構な人数が見回りをしているのだろう。すれ違い様ロシェルに敬礼をして、ロシェルも返していた。


「物々しいね」


「まぁ私兵を門の前に張り付けるわけにもいかないからなぁ」


「なるほどねぇ。なんか敬礼されてたけど?」


「あぁ俺は士爵だからな」


「え? ……えーーっ?! つまり騎士ってことよねっ? ……あれ? マスターに騎士様って言われてたけど? ……っていうかなんで学園にっ?」


 思わず捲し立ててしまった。


「三男とはいえ伯爵家だからな。成人したときに叙爵した。エルニス学園は成人後に通う学園だから、何もおかしくはないだろう。学園を卒業するまでは予備隊員みたいなものだ」


 ロシェルが言うには、どうも交代制で城に詰めているらしい。暇そうで良いなぁとか思ったのは秘密だ。


「だから学費については気にしなくて良いぞ。とはいえ屋敷の仕事はしてもらうがな」


「ありがとうお父様っ!」


「誰が父親だ、誰が」


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