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第一話 御伽話

 とりあえず話が決まったので、ゆったりとお喋りタイム。お世話になる以上、色々とお話ししておかないとね。


「そういえば、ロシェルって伯爵様のご子息なんだっけ?」


「ああ、そうだ。三男なんで跡目は関係ないけどな」


「ふむふむ。あれ? そういう場合ってどうなるの?」


「どうって俺がか?」


「うん」


 貴族の風習は良く分からない。庶民だったら兄弟のうち弟は家業継がずに独立するのが普通だけど、どうなんだろう? 私の所はは弟と二人なんで、宿屋は弟が継いで私はいつか誰かとけっこ……うん、考えるのはやめよう。


「そうだなぁ、 どこかに婿か養子に出されるって所かな」


「え? 勝手に決められちゃうの!?」


「家が家だからな。まぁそういうもんだ」


「そっかぁ。世知辛いね」


 ロシェルがふと寂しそうな顔をしたので、この話題はやめることにした。さて何の話をしようかなぁと思ってたら、くぅーとお腹が鳴った。ロシェルが私の顔を見ると笑いながら言う。


「そろそろ昼頼むか」


 くっ! 心の中で反論してから、冷静に切り返す。


「もうそんな時間なのね」


 だから笑いをこらえるのはやめて。恥ずかしくなって食事のメニューを見ると、トロアとは違って海産物のメニューが多い。リアノスの街はノースセリア川の河口にあるので大きな港もあり、新鮮な魚介類が豊富に手に入る。

 私の故郷のトロアは、ここから内陸の方だし近くに川があるわけじゃないので、魚料理と言えば塩漬けの保存食を使ったものくらいしか無かった。


「やっぱりトロアとは違うのか?」


「結構違うかな。あっちだとまず魚は無いし。あーでも私は好きよ。昨日も魚料理食べたし」


「トロアの方だと肉中心だろうしな」


「でも結構ソースとか拘ってるし。お客様にも評判良いんだから」


「それは楽しみだな」


「楽しみって……あ、そうか。うん。楽しみにしてて」


 はたから見れば恋人同士? まぁ使用人になるから作るのは当たり前なんだろうけど。とはいえ楽しみにされるのは嬉しいので、素直に応えた。ロシェルの方も注文が決まったみたいなのでウェイトレスを呼んで注文した。私は折角なので魚料理を選ぶ。


「そういや、アリシアは魔術はどのくらいまで使えるんだ?」


「魔術? うーん、人と比べるのは良くわからないけど……そうだ、ちょっとそのコップ貸して」


「あぁこれか?」


 ロシェルから、飲まずに放置されてたジュース入りのコップを受け取り、目の前に置いた。意識を集中して精霊の光を見る。初心者だとぼんやりと浮かび上がってくるものだけど、私の場合は慣れているので、どっちかというとぱっと切り替わる感じだ。手をかざして沢山ある光の中から青の光を選んで、コップの中に凝縮させていく


「聖霊よ! 凍らせて!」


 ぱきぱきという音を立てながら、ジュースが凍っていった。


「おおっ、これはすごいな」


「ふふん。どうどう? まぁすっごく疲れるんだけどね」


「なるほど、これなら入学金免除も分かる」


 ロシェルが感心したかのように頷きながら言う。私としても褒められるのはやっぱりうれしい。ちょっと舞い上がって、触媒無しでここまでやるのは大変なんだから。とおどけてみた。ちなみに触媒を使うと光の絶対量が増えて制御しやすくなる。

 話していると丁度ウェイトレスが食事を持ってきた。


「これおいしいっ!」


 流石は首都。作り方が見るからに凝ってそうな料理に舌鼓を打つ。今度一人できたら作り方教えてもらおうと決心した。


「お気に召したか?」


「うんうん」


 ロシェルの方は牛肉のソテーみたいだった。ちょっと欲しかったけど我慢する。全体的に見てやっぱりこの店はおしゃれだ。泊まってる宿屋の食事はもっと大雑把なのでリアノスの街がって訳じゃないんだと思うけど。


「そういや、その実力あれば、別に学院に来なくても就職するなり、冒険者になるなりは簡単だと思うんだが、どうしてこっちに来たんだ?」


「んー、もっと魔術の勉強がしたいってのもあるんだけど、それ以上にフラーマについてもっと調べたくて」


「フラーマっていうと魔女フラーマか?」


「そうそう。御伽話の悲劇のヒロイン」


 この国に住んでるならみんな子供の頃に聞いたことがある御伽話。昔この地にあったと言われるたった一代で滅びた王国の話だ。その国を建国した青年に寄り添っていたのが魔女フラーマである。ちなみにリアノス王国の王族は、御伽話によると彼の末裔らしい。


「何か気になることでもあるのか?」


「実はあれって三部作じゃなくて四部作だっていう話を師匠から聞いたことがあるの。しかもその中身が北西の森の話」


「四部作っていうのは初耳だな」


 昔から、北西の森から魔物たちが湧き出ているとも、北西の森に分け入るほど魔物が凶暴になるとも言われているので、私としては御伽話にその秘密があるのかもと思ってたりする。


「魔術なのに目的は学術的な話なんだな。確かにエルニス学園の書庫に紛れ込んでるかもしれないが」


「魔術と書物は切り離せないから。封印されてたら普通の人は読めないし。それにもし幻の話を魔女フラーマが残したのなら、確実にそれは魔術に精通してないと読めないと思う」


「なるほど確かに面白いかもしれないな」


「そうそう。なので学園で実力を上げながら研究したいなと」


「実力か、そういえばエルニス学園の生徒の何割かは冒険者活動をやりながら学園に通ってるって知ってるか?」


「うん。今泊まってる宿屋の主人から聞いたわ」


「学園の入学まで十日もあるし、お互いの実力の確認がてら一仕事するか?」


「あ、それいいかも! 久しぶりに思いっきり魔術使いたいし!」


「まぁ、飯食べたらまずは学園だな。手続きの書類もらって帰らないと」



 食事を終えて学園に二人で戻ることにした。そして受付の建物の目の前。相変わらず人はいない。というか入学手続きやってる人って他に居ないのかな? 疑問に思ってロシェルに聞いてみた。


「あぁ。大体は街に住んでるから、もっと前に終わらせてるからだろう。大体家の方で全部終わらせてしまうしな」


「なるほどねー」


 廊下を歩いて受付の場所に着いた。受付嬢が私たちを見たとたんにニコニコとしだす。多分予測してたんだろうなぁ。ちょっと、いやこれ結構恥ずかしいんだけど……。


「お帰りなさい。ロシェルさん、アリシアさん、何かご用ですか?」


「付き人の登録の書類をもらえるかな? 物は屋敷に送って欲しい」


「了解しました。アリシアさん良かったですね」


 受付嬢の満面の笑み。


「ははは……えっと、彼にお世話になることになっちゃいました。とりあえず、よろしく願います」


 頭を下げると、受付嬢は「ふふふ」と笑って立ち上がる。


「アリシアさん、ようこそエルニス学園へ」



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