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プロローグ

「どうしてこんなにするのっ?」


 思わずカウンターに身を乗り出して、受付嬢をきっと睨んだ。首都リアノスの街にあるエルニス学園に無事受かり、意気揚々と入学手続きをしに行ったもの、提示された金額に目を疑ってしまった。よくあることなのか、彼女は特に気にした様子もなく手元の資料を指さす。


「えっと、案内にあったと思いますが……。アリシアさんの場合、成績優秀者として入学金免除が適用されますが、教材費等の費用は別途かかることになっているんですよ」


「いやほら、それは解るんだけど、教材がこんな高いとか思わないじゃない?」


「上質な教材を使用していますからね。エルニス学園の名前は伊達じゃありませんから」


「何とかならないのかな……?」


「アリシアさんはトロアの出身ですよね。まだ入学式まで十日以上ありますし、一度帰ってご両親と相談されては如何ですか?」


「どうしよう……」


 崩れるようにしゃがみこんだ。確かにトロアの街までは乗合馬車に乗れば三日で着くけど、親の反対押し切って出てきたので結構厳しいかなと思う。そもそも貴族か大商人御用達の学園だしなぁここ。

 どうすべきか迷っていると。後ろから足音が近づいてきた。首だけ動かして見てみると、一人の青年が居る。私より二、三歳くらい上だろうか。カジュアルな服に腰に剣を帯びた、精悍な感じの青年だ。彼は彼女の方を見て言った。


「どうしたんだ?」


「あ、ロシェルさん。この時期恒例の話ですよ」


 受付嬢が苦笑まじりに答える。


「なるほど、ということは入学金かな?」


「いいえ、入学金は免除対象の方ですし。教材費の方ですね」


「へぇ。それは凄いな」


「ロシェルさんは付き人の登録ですか?」


「いや、たまたま通っただけなんだが」


「そうですか? この娘とかどうでしょう? 結構掘り出し物ですよ」


「あのなぁ……」


 青年が、苦笑しながら私の方に顔を向けたので、じっと睨んでみた。


「なによぉ」


「そう睨むな。それより少し話さないか?」


「この状況でナンパ?」


「そういう訳じゃ……、いやそうかな」


 どうしたらいいか迷って受付嬢に目を戻す。彼女はいたずらっぽく微笑むと、私に向かってウインクした。


「悪い方では有りませんよ? また後でお越しくださいね」


 受付嬢が出口を手を向けて一礼した。私は勢いつけて立ち上がると青年と向き合う。


「私の名前はアリシア。トロアの街の宿屋の娘よ」


 じっと青年の目を見る。


「俺はカルナート伯爵家の三男、ロシェル・カルナートだ」



 私はロシェルに連れられて、学園のそばにある喫茶店に入った。オープンテラスのあるおしゃれな店だ。ロシェルが言うには学生のみならず教員にも結構人気があるらしい。メニューにみかんのジュースがあったのでそれを注文した。飲み物と言えばワインとかしか無いのでこの時期はうれしい。実家の宿屋でも冬から今の時期にかけてお客様に出してる季節限定メニューだ。


 出されたジュースは、井戸水で冷やされていたのかひんやりとしていた。甘酸っぱい味を堪能しながら話を切り出す。


「それで、どうかしたの?」


「いや、入学金免除を受けたと聞いたからな。学科は何なんだ?」


「精霊魔術よ。基本理論は抑えてたし」


「へぇ。よい師についてたんだな」


「でも入った後がこんなにお金かかるとは思わなかったし……」


「まぁエルニス学園は何するにも高額だからな」


「うん。やっぱり庶民には辛いのかなぁ」


 窓の外を見て一つため息。エルニス学園の建物が見える。なんだか遠くに感じる。今は学園が休みの期間なので閑散としているけど、いつもは結構混んでるんだろう。


「市民税も地方より高いしな」


「え、要るの? 私トロア出身よ?」


「いや、成人したらトロアとか関係なく必要だろう」


「あーそっかー。忘れてた。今年成人するんだった」


 来月には十五歳になる。学生で税金いるとか思ったりするけど、普通の町で十五歳とか、すでに働いてる歳だものね。頭を抱えながら唸る。どうあがいても借金地獄だ。といってもまともに貸してくれるようなところも思い浮かばないんだけど。


「上級受けるなら貴族の身元保証が必要だが、まぁそこまでは考えてないか」


「ちょ、ちょっと待って。私そんなの知らないわよ?」


「そもそも上級まで受けようというのが殆ど居ないからな」


「そっか、私初めから詰んでたんだ……」


 糸が切れたかのように机に突っ伏した。


「ふむ。そこでだ」


「なに?」


「アリシアは宿屋の娘と言ったな。どんな仕事を手伝ったりしてたんだ?」


「えっと一通りかな。食事作ったり、給仕したり、清掃したり、洗濯したり?」


「なるほどな」


 ロシェルが考えるように腕を組むと、少し間をおいて口を開いた。


「どうだ、うちに雇われないか?」


「雇うって使用人メイドさん?」


「ああそうだ。それなら俺が身元引受人になろう。給金も出すぞ」


 身元引受人ということは付き人として登録するということで、学園での必要経費をロシェルがすべて払うということを指している。


「え? ちょっと待って。本当にいいの? 初めて会ったばかりなのに」


「そうだな。経歴とか身元はは学園が保証してるし、屋敷の方も人手が足りなくてな。それに優秀な人間がこんな理由で挫折するのはあまりに惜しい」


「えっと、褒めてくれてありがとう?」


 頬が熱くなる。ロシェルが私を見て笑った。


「まぁ返事は早めにな。明日また……」


「まってっ! えっとお願いします。で良い?」


 上目使いにロシェルを見る。不安が無いわけではないが、きっとこれはチャンス。ロシェルがにやりと笑って私に片手を伸ばした。


「いいだろう。そのかわり上級突破しろよ?」


「もちろんよっ!」


 手を取るとギュッと握りしめた。


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