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第八話 前哨戦※

 リアノスの西の街道を、六頭の馬が土煙を上げながら走っていた。

 今回の掃討戦に参加するのは、アリシア、ロシェル、ハンス、カーナの四人に、たまたま鈴鳴り停に居合わた二人の合計六人だ。大きなウォーハンマーを背負っている方がアーベック。ハンスと同じような弓を持っている方がロベルトという。

 ちなみに、この中で学園生はアリシア、ロシェル、カーナの三人で、ハンスとロベルトは専業冒険者。アーベックはどちらかというと傭兵らしい。


 ハンスを先頭に、アリシア、ロシェル、アーベックの三人、その後ろにカーナと荷物を載せた馬が続き、しんがりをロベルトが担当している。




「ロシェ!お尻が痛いっ!」


「がまんしろっ」


 私はロシェにしがみ付きながら叫んだ。大体街の娘に馬なんか乗れるわけないじゃないっと言いたい。しかも私の服装はいつもの仕事着だった。そう、マリーさんが仕立ててくれたチェインドレスは、仕事着の中に着込む細かい鎖を編み込んだ肌着だったのだ……。絶対マリーさんフェチ入ってるよね。しがみ付く以外にやることもないので、集中して周りの精霊の状態を確かめ、何ができるかをリストアップしていく。


 精霊魔術は御伽話のように、羽の生えた妖精のような生き物が至る所に居て、風が吹けば風の精霊が、火を焚けば火の精霊が現れる。というわけじゃない。どっちかというと光る小さな粒子が集まって霧みたいになってる感じ。その光の粒1つ1つが精霊であり、彼らに願いを込めることで魔術を使う。まぁ解りやすく言えば、赤い光を出す精霊達に集まってもらって火をつけるとかそんな感じ。学園の精霊魔術の講座は、精霊を見たり操ったりする事ができたら初級合格レベルなんで、入学金免除は伊達じゃないのよ?



「お出迎えらしいぞ!」


 アーベックが背中のウォーハンマーを取り出して肩にのせながら叫ぶ。

 丁度ハンスが足跡を確かめた場所に差し掛かろうとした時だった。前方に十数匹のゴブリンの群れを一匹のオークが追い立てていた。流石に気付いてるらしく、ゴブリンたちが団子になってこちらに向かって走って来ている。ハンスとロベルトの矢で数匹倒れるが勢いは止まらない。


「それじゃ任せたわねっ。がんばれ男の子っ!」


 カーナがそういうと、荷物を載せた馬を制御しながら脇にそれていく。


「私、男の子じゃないっ!」


「それよりアリシア!何かできそうかっ?」


「えっと、今なら足止めがおすすめっ!」


「よしっ!それじゃ群れの真ん中に頼む!」


「分かったわっ!っていうか先頭じゃないのっ?無茶いうなぁ」


 ぼやきながら片手を空にかざし精神を集中させる。足元に突風を当てるつもりだったが、中央ってことで空気の塊を足元に凝縮させる事にする。ゴブリンの移動速度から出現させる場所を決め、空色の精霊の濃度を濃くしていく。精霊魔術は効果が具現されるまでに時間がかかるので、偏差射撃のような計算と精密な制御が必要だ。


「精霊よ!壁になって!」


 掲げた手に集まった光がはじけると、群れの真ん中を走っていたゴブリンたちが一斉に足を取られて大地に叩き付けられた。後ろを走っていたゴブリンたちも仲間にぶつかり転げまわる。一つの塊が一瞬にして分断され、大混乱に陥った。


「おおーすげぇ」


 倒れたゴブリンに止めを刺しながらロバートが驚嘆の言葉を発する。アーベックの方を見れば、彼は混乱してる群れを突っ切り、勢いのままにウォーハンマーをオークの顔面に叩き込んでいた。オークだったものが一瞬にしてただの肉塊に変わる。

 ロシェの方も流石なもので、私を守りながら槍で一振りごとにゴブリンを処理していく。十分もたてばもう動いてる魔物の姿はなくなっていた。




 ハンス、ロバート、ロシェの三人が魔物の遺体の調査や足取りとかを調べている間ぼーっとしてると、アーベックが暇してるのに気づいたのか近づいてきた。


「見事だった。ただの町娘だと思ってたが、俺の目が腐ってたようだ」


「いやいや、私は先頭の足止めをしようと思ってたもの。それを群れの真ん中に指示したのはロシェよ?先頭だけだったらすぐに立て直されたと思うし」


「謙遜するな。咄嗟の判断でそれに答えたのはお前だろう」


「えーと……ありがとう?」


 なんだか気まずい。


「あ、ほらなんか終わったみたいよ」



 ロシェが呼んでいたので皆集まる。


「なんでこいつらが居たのかはまだ保留だな。とりあえずは残りを探して片付けるぞ」


「ねぇロシェ、これ放置して向かうの?」


 死体を指さしながら言う。


「今はどうにもならないからな。全部終わったら衛兵に通達して処理してもらうさ」


「ふむふむ。ってことは追跡再開?」


「馬も疲れてるし、武器の刃先もボロボロだ。一キロぐらい離れてから、今日はもう野営の準備だ」


「ロシェル。鈍器はいいぞ。手入れもほとんどいらんし連戦も可能だ」


 アーベックがウォーハンマーを薦めていた。ロシェのイメージが崩れるからやめて欲しい。


「そんな馬鹿力は無いからなぁ。遠慮するよ。それじゃ出発しよう」



 ロシェの合図に先ほどと同じ隊列で動き出す。まずは安全な場所を求めて移動だ。日が陰るまでに野営の準備を整えないといけない。ちなみにカーナはみんなが怪我なくて暇だとか言っていた。うん、放っておこう。


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