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五幕~桜色の希望! の巻きっ!~

 十二月三十一日――深夜。

 国会議事堂は新たな年を迎え静まり返る日本とは思えない光景が繰り広げられていた。街全体が華やいだ喧騒を一時的に休み、数時間後から活気を取り戻す合間の時間に議事堂内の敷地にバババッバババッ! と銃声が鳴り響く。江戸前仕置人の兵がイエローとブルーの仮面を捨てた仕置人を容赦なく狙撃する。マジックロッドを持ち群がる赤マント達は議事堂を破壊し、内部に侵入しようと銃撃と爆撃を繰り返す。弾の雨が芝生の上に弾け、反逆者である御堂と藤原は江戸前仕置人とアメリカの赤マントの双方を倒し、ノンがプロビデンスに侵入する経路を確保していく。議事堂のあちこちで火災が起こり、その対処と御堂・藤原の間段無く繰り返される攻撃に楓も辟易しコンピューターのプログラムを構築し直し、通信手段の回復に努めた。その間も江戸前仕置人の兵は赤マントと共に無残に命を散らして行く。

「何だこの状況は……」

 三竦みになる議事堂内部に戻る冬彦は謀反を起こした赤桜の迎撃に向かっていて交戦している。

「貴様等―――っ!」

『……』

 よく知ったはずの御堂・藤原のペアは冬彦の思う以上に連携の取れた動きをしていて、容易に決定的な一撃を与える事が出来ない。その間、ノンは議事堂内部に侵入し地下神殿プロビデンスを目指す。半壊する国会議事堂は外からは純装を展開したバリアで常にカモフラージュしている為に、どんな騒ぎを起こそうともバリアが解かれない限りバレる事は無い。再度の爆発が数箇所で起き、その隙に御堂・藤原は逃げた。

「奴等……十手バトラーがいない時期を狙いやがったな……。部隊を戻すにも、こうも入り乱れた状態じゃどうにもならん……」

 白マントであったノンの襲撃に乗じてアメリカ軍が混じり国会議事堂は様々な思惑で混沌を極める戦いに突入している。

 すでに半壊状態の議事堂内部にも結界が破られた事により多数のマジックロッドを携えたアメリカ兵がプロビデンスを目指し各通路を死も省みず蹂躙していく。

「……? チィ!」

 背後に現れたアメリカ兵を始末し議事堂内部に走る。

 内部に侵入したアメリカ軍の数はおよそ百。その全てはただ桜脈のあるプロビデンスの最下層へと向かい直進しかせず、ダメージを受け過ぎたら江戸前仕置人を道ずれに自爆した。こんな事を続けていればアメリカ軍は十数分もすれば消え去るが、通信網も遮断される戦闘区域の十手バトラーにとっては視界も悪く死の蔓延で思考も止まりどうにもならない状況である。その最中、爆煙の中を無我夢中で駆ける冬彦は敵も味方も区別せずぶつかった敵をなぎ倒していく。

「――ん? 電波が復活したか?」

 ヘッドセットに雑音が鳴り、声の低い女の声が聞こえた。

「楓か?」

「えぇ、通信網を遮断されたからプログラムを書き換えて一時的に使えるようにした。反逆者は御堂・藤原の両名で間違いないわね?」

「あぁ、裏切り者の主犯はテンプレ学園の2人。それと長身の女が一人。いつもの白マントの女だったが顔はわからん――邪魔だ!」

 シュパパッ! と五円が乱れ飛び襲い掛かる敵を銭投げで仕留める。

あえて楓には今まで自分達を邪魔していた女がノンだとは言わなかった。

「アメリカの目的は桜脈の奪取からの世界統一。私は総力戦でプロビデンスを守る。議事堂は奴らにくれてやるわ」

「外部に結界を張りすぎていたのを逆手にとったか。外部の兵を戻していたら時間も、かかるし更なる侵入者を許すかもしれん。今は内部の戦力で持ちこたえるしかない。まさかここまできて反乱とはな……」

「あの二人には監視もかねて常に私の部下をつけさせていたけど、組織の人間以外と接触する事は無かった」

「とにかく、各ゲートを閉鎖して侵入者をプロビデンスへと近づけさせるな! ここが橋頭堡だぞ!」

「わかったわ。……どうやら例の女が来たわね。貴方は桜脈の守護を優先しなさい。桜脈がアメリカに渡れば世界は過去から変えられるかもしれない。あの次元へ繋がるエネルギーを使いこなす者が現れたら人類はたった一人の存在に支配される」

「わかっている。死ぬなよ」

 貴方がね……と呟いた楓はサブモニターに映るプロビデンス内に入る冬彦を見据える。

 そして、教鞭十手を取り出し議事堂を破棄する覚悟を決めて言う。

「議事堂内部全通路を閉鎖して外部からの侵入を遮断するのと同時に敵を一掃するわ。デスコンクリート注入!」

 デスコンクリートとは神経性の毒を含んだコンクリートである。

 七カ国会談時に招待国が反旗をひるがえした時用に仕込んでた罠でこのまま通路に流せば友軍すら殺すはめになる。それを思うオペレーターは躊躇しながら進言した。

「し、しかしそれでは味方も被害が」

「いいのよ。どうせ私しか生き残らないシナリオなんだから」

 司令室に影が走り、三人のオペレーターの首が飛んだ。そして鮮血のおびただしい教鞭十手をペロリと舐めると、デスコンクリート注入ボタンをタッチし、地下のプロビデンスへ向かう。通路上部から噴水のように湧き出るデスコンクリートは国会議事堂内部を埋め尽くして行く。そのコンクリートの神経性の毒は大いに効果を発揮し、アメリカ兵や江戸前仕置人の面々を行動不能にしながら呑み込んでいく。やがて、国会議事堂内部は黒いコンクリートで埋めつくされ彼等は生き絶える。身内全員の犠牲を伴って外部からの侵入をシャットアウトした故に決戦の舞台はプロビデンス内部へと移行した。





 プロビデンス内部に突入する冬彦は数もだいぶ減っているアメリカ兵を倒し、友軍を入口の警護に当たらせる。しかし依然として混沌とする状況下でバーバラとノンの姿を確認できない以上、何が起こってもおかしくないと肝に命じて遠くで爆発音がするプロビデンスの白い床を駆けた。瞬間、曲がり角を曲がったと同時にイエローの閃光が足元に迫る。

「――下と上かっ!」

 ガッ! キインッ! と足元の攻撃と刹那の時間差で頭上から迫る青いオーラの十手の一撃を防いだ。両者は距離を取り、構える。そのイエローとブルーの男女は無論、御堂と藤原の二人であった。白い房が鮮やかに揺れる雪化粧を突き出す冬彦は尋問をするような口調で言う。

「どこで貴様等はノンと接触していた? 戦闘中の接触だけでここまでの計画は練れないだろう」

「たくさん接種したぜ。敵と呼ばれる存在にな」

 不敵に笑う藤原は短い髪を逆立て、くるくると十手を指で回し言う。

「アメリカとはつるんでいまい。……まさか、十手バトラーが全滅してお前達だけが生き残ってたのは……?」

「ご名答」

 その御堂の答えが冬彦の推測を確かなものにした。

「やけに強くなっているかと思いきや、ノンとつるんでいたからか。始末する為に白マントに戦いを挑んだはずなのに、仕置人達は自分達のリーダーと戦わなくてはならない。いい実戦になったものだな」

 多少、口元を引きつらせ言う。底知れぬ殺気を感じた御堂は腰を沈め逆手で十手を構えながら、

「貴方が七カ国会談でもし何かをしでかしてたらバーバラ大統領もあの時点で反抗するつもりだったでしょうね。ノンさんは議事堂周囲で警戒してる時にアメリカスパイの動きが活発になったと言ってたから」

「あの代表共は自国に帰還した時点で負けているんだよ。戦力の増強に時間をかけている間に俺が世界を閉じる。まさかお前達もこの日を決起の夜に選んでいたとは皮肉だったがな」

「そんなものはわかるわよ……」

「何故わかる?」

 チラッと隣を見る御堂は十手を落としそうになっている藤原にアイコンタクトをし、

『――仲間だからさ』

 その言葉に冬彦は溜息をつき笑う。

「二人には次の未来を担う人間として期待してたが、俺を邪魔した以上死んでもらう」

「この十手は未来と過去の貴方に不幸をもたらしたかもしれないけど、私と藤原は自分の持て余す能力を発散させられて救われた。それだけは信じて」

「お前はノンを愛していたな。周囲からレズだと言われ、学業が出来すぎ孤立していたから誰でも受け入れるノンに惹かれていたのか?」

「そうよ。まぶしい太陽のようなノンさんは私の全てを変え、勇気をくれたから」

「どうりでな。だから常に俺に殺気を向けていたのか」

「貴方を一人にはさせない」

「そうか。お前達は一人で死んでいくんだ」

 ヒュ! と振られた十手は地面のコンクリートを砕き、細かい石と砂煙が舞い上がる。

『!?』

 通路の視界はホワイトアウトし、感覚で相手を探るしか他者を認識する術は無い。不意をつかれた二人にとってそんな悠長な時間は存在せず、絶望的な一撃が真下から迫る。

(……)

 鈍い音が一瞬響き、冬彦は雪化粧を持つ力を弱めない。

 やがて静寂を取り戻すように砂煙が晴れて行く。

 確実に仕留めたはずの二人は生きており、冬彦の繰り出した十手を黒い十手を構えた少年が防いでいた。

「奇襲で来たか優斗。その様子だとノンに力を分け与えられたか」

「まーな。俺は未来のうんがら仮面の監督らしくて必要だったみたいだ」

 ほくそ笑む優斗は自分が復活した経緯を語る。

「俺は文化祭が終わった後、ノンに瀕死にされたが楓の十手の力で死の淵から生き返った。生き返った俺は未来での自分を知り、自分の人生の主題を確信した。その最中、ノンにまた襲撃され殺されると思ったが今度はお前を助ける為に力を貸して欲しいって事だった」

「……」

「始めは迷ったぜ? 殺された女に頼みごとをされるんだからな。でもノンは俺の作品を誰よりも理解し買ってくれてた。それに俺は冬彦を助けたいって泣きながら地に頭をこすりつける女を見てノンの真意を感じ、助けなきゃならねーと思った。……だから俺はノンを助ける。熱い物語は昨日の敵が今日の仲間はテンプレだからな」

 ゴクリ……と息を飲む冬彦は赤いハッピを着た小さな江戸前少女を思う。

 そして一つの思いで繋がる三人の男女を見据え、

「未来を知ってそれに乗るか。案外単純なんだな」

「未来を知って嫌な気持ちにもなったが、ノンのおかげで未来への迷いも無くなったともいえる。やらなきゃならねーのさ俺達は」

 その覚悟のある瞳に冬彦は動じた。かすかな変化を感じた優斗は長い金髪の髪をかき上げる。じっ……と黙る二人の少年は視線の火花を散らす。

「一つ言うが、この何層か先にある最下層の桜脈ってのが不穏な感じになってるぜ」

「何故わかる?」

「俺はオーラを感知する力があってな。このままだとバーバラに世界全体を支配されるぜ? まぁ、敵は奴だけじゃないが」

「チィ……もうバーバラが地下に到着したのか」

「あぁ。おそらく奴は間違いなく桜脈を使うはずだ。って待て冬彦」

 瞬間、冬彦の喉元に青い十手が迫っていた。激烈なオーラを込めた雪化粧が唸りを上げ、藤原は壁に食い込む人形と化す。そして迫る御堂に対しても容赦なく攻め立て、攻撃を回避したと思った御堂の先にいた優斗は不意をつかれ意識が沈む。完全に無慈悲の鬼と化す冬彦に対し何も出来ない御堂も地面に顔をつけたまま最後の力で声を振り絞る。

「……本当の敵を倒す覚悟はあるの?」

「あるさ。お前達の手を借りるまでもない。この始末屋家業は俺一人で請け負う」

「そう……その覚悟があるならもう行っていいわよ」

「お前もとっとと逝けよ」

 三人を倒した冬彦は最下層に辿りつき、桜の大池に飛び込んでその下に隠される桜脈に向かう――。

「がっ――はっ!」

 突如、背後から頭をとび蹴りされ桜の花弁で埋め尽くされる大池に飛ぶ。

腰をひねり背後を振り向き様、追撃をしようとするその相手を銭投げで吹き飛ばす。

「ぐっ……冬彦」

 腹部に五十円玉をくらったその赤毛の少女ノンは失血が激しい腹を抑えながら強い思いを込めて大池に落ちる冬彦を見据えた。その熱いまなざしに答えられない冬彦は黙ったまま沈んでいく。バタリ……と倒れるノンは意識を失う。

 そして冬彦は桜の滝が流れる桜脈に再びたどり着いた――。





 激しい音を立てて桜の花弁一枚、一枚の清純さが流れる桜脈を見上げた。

 この次元を超えるだけのエネルギーを扱う事が出来れば、世界の王になれる。

 銭形平次の生み出した正なる象徴の花弁は黒く染まる事によって正邪の力を得て、更なる清濁合わせた力をその人物に与える。江戸時代から拡がった銭形一族の血筋の末裔である自分の存在を代表してただ一心に桜脈を見据える。雪化粧を持つ手の力は強まり、何かを覚悟するように背後を振り向いた。

「出て来いバーバラ。貴様等が今更コソコソとしているのは滑稽でしかないぞ」

 ズズズ……と空間が歪み赤い法衣を着た普人十手を携える大柄な老人が現れた。

「会談以来だのう左冬彦。これからもアメリカとの良き関係を構築して行こうではないか」

「あれだけ鬼瓦市内で暴れ回ってくれてどの口が言う。ここまでの状況になればもう第三次世界戦争は避けられないぞ。まぁ、戦争の前に全ては決するがな」

 クックックッ……とバーバラは顔をシワの深い顔をクシャリとしながら笑う。取り立てて殺気は無く、その殺気の無さがこの老獪なる老人の不快感を際立たせていた。どう攻撃されても対処出来るよう感覚を最大限に発揮しながら話に応じる。

「若いわりには組織の長として良くできた奴じゃろうが、何よりも怖いのが十手のパワーに目覚めた事と人間用に十手を生産させた知能。流石は自分専用の十手を生み出した銭形京介の息子」

 感傷に浸るように遠い目でバーバラは銭形京介を捕らえた日を思い出し、対面する父と子の姿を思考の中で嘲笑いつつその遺児を見据えた。そのまま多少の雑談をし、この老人はやけに部下の全てを失ったにも関わらずのんびりと話す事を不審に思い始めた。話を切り替えるように言葉で攻める。

「これ以上の手が無いと詰んだと同時に自爆ばかりしていたのは拷問で話をさせずアメリカが暗躍してるという証拠を出さない為か?」

「君がするのは拷問ではなくただの破壊。暗躍してるかどうかなどはどうでもいい問答無用の虐殺行為。他者の命などどうにも思ってない悪そのもの」

「江戸前仕置人の大義の前に敵の生命など知った事では無い」

「大義か。わざわざ会談を開き、その帰りに不意打ちを仕掛け世界を支配するのが大義なら日本人は一人残らず消えてなくならねば困るな」

「どういう事だ? 不意打ちなど俺は指示した事は無い」

 その表情、言葉、体温、脈拍に嘘偽りが無い事を悟るバーバラは会談後のアメリカ政府専用機襲撃事件を語る。成田空港特別格納庫で帰還用の政府専用機が襲撃され一部の人間だけは日本から脱出させ、バーバラ達は日本に残り鬼瓦市の調査と壊滅に乗り出した。その日本側の犯人の名を聞いて、冬彦は冷静に真の悪を心の中央に定める。

 その大犯罪者の名は鬼瓦楓――。

「……あまり表情が変化しないな。君は君の部下の真の姿を知っていたのか?」

「ある程度は……な。次元を超えてまで過去に来る人間には世界を破壊するか、世界を支配するかの二通りしかない。銭形の因果律なのか知らんが、禁忌を犯した二人の女から学んだ事実さ」

 自嘲するように微笑む冬彦にバーバラは本心を言っているなと確信する。

「やはり未来からもう一人来ていたか。しかも会談で君の補佐をしていたあの黒髪の女……。我々の人魔旅団は世界連合を監視する為の外部組織として結成したが、日本の動きを監視する為に作り出していたのは知っているだろう。人魔戦争で崩壊から立ち直ったと思いきやアジア諸国の経済発展に押される中の情勢で虎の子の軍事力で負けるわけにはいかないのだよ。ここで負けたらアメリカは自尊心を無くし二流国家に陥るからのう」

「それでどうする? たかが普人十手程度では俺には勝てないぞ。部下の援護でここまで来れたようだが、ここでチェックメイトだ」

「ワシの心配は無用だよ。プロビデンス内からは全てワシ一人の力でここまで来たからのぅ。アメリカ軍の特殊部隊の命を全て使い左目の視力と、腎臓が消失したが桜吹雪の一端の力を得た。精鋭十人の命とワシの命を持ってして未来の悪の枢軸には消えてもらう。これがアメリカの大義」

 じわっ……と赤い法衣に桜色のオーラが展開する。着ていた法衣を脱ぎ捨て、上半身裸になり左肩の桜吹雪が怪しく発光した。一部の力とはいえ目の前の桜脈のエネルギーを吸収している為、限定的な力ではなく桜吹雪の力の全てを使える状態にある。有り余る力の流入に耐え切れず、おびただしい血を吐いた。

「……予想よりも厳しい呪いだのぅ。意識をいつまで保ってられるかわからん」

「バーバラ……お前はアメリカの大統領としてこれから新しくなる世界の王に君臨するんじゃないのか? そのままじゃ死ぬぞ?」

「すでにワシは老人。十手が支配する新しい世は次の世代に託した。ワシの二十年に及ぶアメリカ合衆国大統領の影響力をなめるなよ。……そろそろ話は終わりだ。準備は整った」

「何の準備だ?」

「マヒルートの遺伝子を組み込んだこの身体をコントロールする力だよ銭形冬彦」

 ゆったりと午後の紅茶を嗜むように笑うバーバラは指を噛み親指から血を絞り出す。

「京介の断罪も君を人質に取るのもワシが日本に意見をした結果。銭形親子である君の人生はワシが握っていたのだ。いずれ起こる世界の危機の為に未来の君が生み出した十手を使う相手が過去の君だとはな。事実は小説よりも奇なり、か」

「小説なんぞその老眼で読めるのかよ。自分の都合のいいように考えて読むのか……」

 桜脈と一体化し、桜の濁流となるバーバラは縦横無尽に空間を駆け回り冬彦を翻弄する。冬彦はオーラを全開にして目に留まる万物全てを消失させるほどの多彩な攻撃を繰り出す。だが、実体の無いバーバラの攻撃にはコアを潰さない限り何をしても通じない。今は互角に渡り歩いているが、体力のあるうちに突破口を開かないとバーバラの養分として吸収されてしまうだろう。

(……何て思っていたら愚の骨頂じゃ)

 あえて力を冬彦に合わせていたバーバラは一気に力を倍加させ正面から特攻する。十手を突き出しそのまま突き破ろうと構えるが、それをどうにも出来ないのは重々承知だった。二つの桜のオーラが空間内に弾け、冬彦は楓の顔を思い出す。

「まさか楓と死ねないとはな……人生上手くはいかないもんだ」

バーバラは勢いのままブオオオオッ! と冬彦の身体を突き抜けた。桜色に包まれる空間は鮮やかさと死が重なり合う刹那の匂いを強くかもちだし、静寂を取り戻す。その上空で静止するバーバラは肉体が消失したはずの冬彦が無傷で生きている事に違和感を覚える。

「どういう事だ? ワシの一撃は確実に誰かを屠ったはず……」

 ゆっくりと息を飲み込んだ冬彦は、桜の花弁が舞い落ちる空間にいる事を確認し、ピンク色のジャケットを着た長い黒髪の女の柔らかい匂いに安らぎを覚える。

「楓……?」

 絶対絶滅の中、冬彦を包む暖かさが死の一撃から身を守った。

 わけがわからない冬彦は呆然と死の淵にいるボロボロの楓を抱きかかえていた。

「楓っ! どうして!?」

「……怪我は無いわね。もうすぐ全ては終わる。奴を倒すのよ」

「まさか……俺がお前が桜吹雪に取り付かれた欲望の悪だと思っていたのは勘違いだったのか? 俺はお前と心中するつもりで、世界を鎖国しようと……!」

「貴方、未来と同じで自分以外の為に働き過ぎなのよ……」

 そして――楓の命は尽きた。

 言われた言葉はお前の最後の行動じゃないかと思いながら涙を一筋流し、上空でたたずむバーバラを見上げる。そして顔を拭い、弱き者から戦士の顔に戻して言う。

「暴走する楓は俺が地獄へ連れていく予定だったんだがな。桜吹雪の呪いで世界から十手を消すという行為の中で」

 焦燥の顔で楓の頬を撫でる冬彦の目的は、自分の命をもってして桜吹雪を使い世界に楓が広めた十手の技術を桜脈を消す事で銭形の異能力を世界から無くし、世界を一人の存在に支配されないありのままの世界にする事だった。それを知るバーバラは瞳を閉じ、深い顔のシワを更に深めた。

「……誰にも気づかれず、誰にも理解される事なく世界の全てに桜吹雪を刻もうとしてたのか。君のような若造が」

「そうだ。全ての罪も罰も左冬彦が担う。後の事は御堂と藤原が対応出来るように成長させてある。全てが終われば十手の悪夢からは世界は解放され、銭形の全てが終わる。そうなれば人が人としてどうなりたい、どうありたいかの各々の大義によって世界の在り方は変わり始めるはずだ。それが銭形の末裔である俺のこの世に対する意思であり摂理だ」

 それが、現代の左冬彦が全世界に対して出した答えだった。

 やはりな……という顔でバーバラは冬彦を見た。

「そんな事は君のような若者のやる事ではない。老いたワシがせねばならん事だ。私の最後の力をもって人間が十手を使うのを死守する。この桜脈さえ無ければ君以外の人間は十手の力を扱えまい。全ては世界の平定の為……君を殺す」

 頭上の悪夢が冬彦に降り注ぐ。桜の花弁の鮮やかさも死を宿すものでしかなく、ゆっくりと冬彦は瞳を閉じる。

(こいつのコアは今までの戦いの中で見切った。こいつに取りこまれたらせめて道ずれにしてやる……)

もうオーラが出ない痛んだ身体に活を入れるように雪化粧を強く握った――刹那。

「――!」

 何故か冬彦の耳に鼓膜を破るような男女の叫び声が聞こえる。

 シュパパアアアアアア! と螺旋を描く四つの星が空間を流れた。

 赤、黄色、青、黒――の流星が冬彦の前に降り注いだ。

 正邪純装を展開する四人の男女が現れ、その赤い幼い少女が叫ぶ。

「アチシは江戸前仕置人ノン! 悪人はビシバシしばいてやるわ!」

 突如現れた四人の先頭にいる大人びた少女のノンは粋に名乗りを上げる。

 すると、背後にいる黒い捕り物姿の優斗がイラついた顔で言う。

「おい、ノン。決め台詞あんだから勝手に名乗るな。ったく全部やりなおしだ」

 言い合いになる二人を藤原は止めに入り、それを無視する御堂は冬彦に近づく。

「ご機嫌いかが?」

「……お前達は、後一時間は目覚めないほどの一撃を叩き込んだんだがな……」

「残念でした。貴方に勝てない事なんてわかってたから常にオーラを防御に使ってたのよ。最後の最後でおいしい所をいただく為にね」

「なるほどな。俺もそれに気付かないという事は焦りがあったというわけか」

 その限界を超えている冬彦の前に四人の江戸前仕置人が集まる。

 覚悟を決めた連中の思いを汲み取るように冬彦は、

「細かい事は全部後だ。まずはあの桜脈と融合したバーバラを始末する。奴を倒したいなら俺の指示通り動け」

 すかさずノンは質問する。

「倒す算段はあるの?」

「奴のコアは把握済みだ。そこを一点突破でブチ抜けば勝てる――来るぞ! 十手の房に力を込めろ! そして放て!」

 空を舞う死霊の如きバーバラは捕り物姿の五人に迫る。

 冬彦の指示を受けた四人は十手の房に力を込めて十手を放つ。

 柄の房はゴムのように一気に伸び、四本の十手本体が絡みつくようにバーバラを拘束した。ギギギッ……とバーバラを縛り上げ、四人は大物を釣り上げた漁師のように歯を食いしばりその場で耐えた。

「死んでも離すなよ」

 マジかよ……と思う全員は冬彦の一撃にかける。

 着物の袖をさぐる冬彦はおかしいな? という顔をしてふと顔を上げる。

「投げる小銭が切れたからよこせ。五秒バーバラを抑え込む力を残して銭にありったけのオーラを込めろ。俺の為に五十円を寄越せ。早くしろ」

 その暴君さながらの毒舌の嵐に周囲は笑い、優斗はやれやれといった顔で、

「別に五円でいいだろーがよ。かつ上げじゃねーんだぞ暴君ハバネロ」

 優斗の文句と全員の魂がこもる五円と五十円が冬彦の右手に収まる――。

「――銭投げ」

 バババッ! と放たれる銭の群れがバーバラの中央部分にある内部のコアを捉えた。

 しかし、不敵に笑いながら何も感じないように止まる事無く接近してくる。

「その程度ではコアまでは突破しないぞ? 無駄なあがきはよせーーーっ!」

「無駄玉か。そんな無駄玉は後、五円を中心に百枚はあるぜ――」

 バババババババッ! とマシンガンのように銭投げはバーバラのコアである桜脈を性格に攻撃していく。焦るバーバラの心を写す鏡のように三十枚を越えたあたりでコアにヒビが入り始める。とどまる事をしらない無慈悲の銭投げにノン達は勝利を確信した。

「なっ……やめろ――お前に任せるわけには――」

「桜吹雪がある存在を俺は認めない。桜吹雪は呪いの根源そのものだからだ」

 ヴオオオオオオオオッ! という怨霊の慟哭のような声と共にバーバラは全身に身に纏う桜の花弁を散らしながら消失していく。桜脈そのものだった存在は桜の滝が流れ行く先の次元の狭間に落ちて消えた。

「終わった……予定は狂ったが、全ての事はこれで終わりだ。桜脈が無い以上、もう俺以外誰も十手は使えない」

 地面にへたり込む優斗は天を見上げながら呟く。

「何だ? お前以外使えないならお前が王になんのか?」

「十手は捨てる。こんなものは争いの種にしかならん」

 言いながら冬彦は次元の狭間のある崖の先に向かう。

すると、倒れていたノンが起き上がってくる。

「冬彦。あの女はどこへ行ったの? アタシはずっとあの女を追ってたのよ」

「それはどの女かしら?」

『――!?』

 全員の耳に魔性の女の声が響き、冬彦は次元の狭間に雪化粧を落としてしまう。

 ゆっくりと次元の狭間の崖の下から桜脈の力を宿したピンク色の髪の長い少女が現れた。

 その少女は桜脈を正邪純装して完全に桜脈を自分の手足として扱っている。

 桜色の翼を背中に生やす鬼瓦楓の復活と同時に、一人の少年が次元の狭間に落とされた。

 江戸前仕置人のリーダー。左冬彦は次元の狭間に落下する。

 悪魔の少女は自分の全てから湧き上がる力に狂喜し、微笑んだ。


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