第一章 一話
チャイムがなり授業の終了をつげると同時に優斗がLabコンを取り出す。
「閉鎖空間」
その声とともにまた未来との二人っきりの空間が始まる。
「あんたさぁ……」
いきなり優斗に呼びたされたことに未来は呆れてやれやれと首をふる。
「私も昨日初優勝したばかりでいろいろと忙しいのはわかるよね?」
このLabはあくまでも限定空間に転移するだけで時間は経過する。
詳しい理論は分からないが限定空間に転移するというよりも自分の目に新しい空間が見えるようになるというのが正解らしい。
「分かってる。だから今日はこれだけをいいに来た」
何だろうと全く分からないような顔をしている未来とは裏腹に全身を強張らせながら今日言おうと決めた言葉を頭の中で繰り返す。
そして深く深呼吸をしてからいう。
「俺がJLABで未来のことを越えたら俺のお願いをひとつ聞いて欲しい」
これが今日一日かけて考えた告白ではなく告白に限り無く近い言葉だ。
「え?全く私に得する要素がないんだけど……」
「いいだろ可愛い弟のお願いを聞いてくれたって」
こうゆう時ばかり弟という立場を使ってしまうとは優斗自身自分がかなり憎い。
「まぁいいけどさ、私に勝つなんて限り無く遠いね」
未来が不敵に笑いながら優斗を挑発する。
「約束は守って貰うからな?」
「もちろん、女王の座にかけて誓うわ」
これで未来と優斗の約束が結ばれた。
後は優斗が未来とのバトルに勝ち「付き合って欲しい」と伝えるだけだ。
それがどれだけ難しいことかは優斗自身が一番理解していれと思う。
「私はいつまでも上で待ってるから、優斗は必ず上にきなさいよ」
少し厳しくどこか優しいような目で未来が優斗を見る。
「必ず上にいってお前を越えてやる」
「そうだ、優斗との約束の代償に優斗がJLABで私を越すまでリアルでもLabでも会わないって約束してもらおうかな」
「いや、それは……」
「なに?出来ないの?」
正直未来に会えないのはかなり辛い。
それどころか未来に会うのが俺の人生唯一の楽しみであり生き甲斐だ。
「あんたにはそろそろ姉離れが必要だからね」
未来が少し寂しいそうな目をしながらはなす。
「いつも私の側にいて優斗は励ましてくれたり笑わせてくれたり本当に嬉しかった。でもね優斗は私に依存し過ぎなの。私はこれから自分のことで忙しくなる。そうしたら必然的に優斗と会う時間も少なくなるし話す時間も少なくなる。姉離れをするなら今が一番いいのよ」
未来が少し涙目になりながら言う。
その姿に優斗は男としてみてもらえるなんて喜びはどこかに引き飛び何も言えなくなった。
「もしかしたら一番依存してたのは私なのかもね。親にも兄弟にもみんなに優しくされなかった私が一番優斗を求めてたのかも。本当にごめんね」
未来はついに泣き出しポロポロと大粒の涙を溢す。
「私は今日であなたの姉を卒業するわ。私と優斗の関係は今日でおしまい。さよならよ」
未来はそういうとLabコンを取りだし現実へと戻ろうとする。
「いやだ……そんなのいやだっ…」
「お願い……私の為でしかないけど聞いて。姉として最後のお願いを」
未来が優斗を泣きながら抱き締める。
「いやだよ……未来お姉ちゃん……」
優斗の未来を呼ぶ名前が昔の呼び名になる。
「本当にわがままでごめんね。……ばいばい」
そういうと未来は優斗のおでこに静かに優しいキスをして現実へともどった。
「おい橋本大丈夫か!?」
限定空間から戻った優斗に担任の鈴木が慌て駆け寄る。
「……大丈夫です」
まだ真っ赤な目を擦りながら何でもなかったかのような顔をして見せる。
「ならいいんだが……」
全然優斗が大丈夫ではないのは鈴木もわかっていたが一人にして欲しいというのを感じその場を離れた。
「未来お姉ちゃん……っ」
誰も居ない教室で優斗の泣き声だけがひたすら響き続けた。
「ニュースです!!昨日女王の座を勝ち取った赤髪選手が失踪しました」
泣き止みやっと家に帰った優斗が聞いたのはそのニュースだった。
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