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ディーと私  作者: 真月
8/18

元彼

3階の自動販売機でカップのカフェオレを買って、また階段を登る。


最初は、ここへ登って来るまでに上がってしまう息を誤魔化すために買っていたものだが最近はそうでもなくなった。


・・・階段を使う理由はちっとも変わっていないけれど。


エレベーターを使わない理由は簡単だ。会いたくない人がいるかも知れないから。


嫌なことから逃げるなんて子供みたいだが、大人になれば逃げられない事の方が多いのだから、逃げられるときは逃げてもかまわないと思う。


事実、私は彼から逃げることで自分を取り戻したのだから。





少し前まで私たちは付き合っていた。多分。あの関係がそう呼べるのなら。


最初に映画に誘われるまで、彼には全く興味がなかった。


わざわざ接点のない私の席に来て、他の人のいる前でメールアドレスを渡し、週末の約束を取り付けようとした時、周りの目が気になってつい受けてしまった。


何度か食事をし、一緒に遠出もするようになった頃、『魔法の言葉』を言われた私は彼と別れたいとは思わなくなっていた。


そしてそれ以上の関係を求められたとき、疑うことなく受け入れたのだ。


だから気がつかなかった。


彼が、自分の純潔と引き替えに、私の純潔も望んでいたことを。


結果的に私はそれを叶えてあげられなかった。


その私にかれは罵声(ばせい)を浴びせてきた。


(けが)れている』と・・・


しかしその時、私は怒ることも別れることもしなかった。


泣いて謝ったのだ。『ごめんなさい、こんな女でごめんなさい。』と何度も。


それからは彼の一挙手一投足に怯え傷つきながらも離れられない日が続いた。


心身共に疲弊して、ベッドから起きられないようになって初めて、何故、という疑問が起きた。


何故、こんなに怒られなきゃいけないのかな。

何故、私がいけないのかな。

何故、私は幸せじゃないのかな。


私はそんなに悪いのかな。

私だけがそんなに悪いのかな。

私だけがそんなに悪いのなら、彼はどうして一緒にいるのかな。


そんなに嫌なら一緒にいなければいい。

そんなに辛いなら離れればいい。

そんなの、こっちから願い下げだ!


その日の夜の電話で、彼が別れ話を切り出したとき(その時期には毎日のように別れ話をしていた)、私はいつものように謝るのではなく、『そうだね、そうしようか。』と返事をした。


彼にとっては予想外だったらしく(しばら)く絶句した後、『本当にいいの?』と何度も確認してきた。


『うん。あなたが私の事を嫌いなのはよく分かったから。もういいかなって。』


そういうと、『・・・分かった。それじゃ。』と言ってあっさり電話を切ってくれた。


その後多少のごたごたはあったが、憑き物(つきもの)が落ちたようにすっきりした私にそれほどのダメージはなかった。


夜も眠れるようになり、仕事や生活にもそれなりにやる気を出せるようになった。




彼は私を自分の都合のいいように作り替えようとした。


でもそれは私にはちっとも幸せではなくて。


私は自分が幸せになりたかったから、あの状態から戻ってこれた。



・・・結局の所、私は自分が一番大事な人間なのだ。



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