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ディーと私  作者: 真月
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回想

プラットホームに入ってくる電車を眺め、乗り込む列に混じれば否応なしに詰め込まれていく。


毎朝のことで慣れたとはいえ、進んでやりたいことではない。


いつもの車両に乗り、いつもと同じ景色を見ていると、自然と頭はいつもと違うことを考え始める。



脩司は幼なじみだが、私が一人暮らしをする頃にはそこそこの研究者として名を挙げていた。


詳しい専攻はよくわからなかったが、人間工学の関係というのはわかった。


人間工学というのは、人間に関する全ての研究、らしい。


体がどう動くか、どう認識するか、果てはどんな感情が生まれるかまでその範疇だそうだ。


一般的には労働や作業において、ミスを減らしたり効率を上げることに使われている。ユニバーサルデザインというのが有名な単語だろうか。



その分野で脩司は大学院を出て研究室に入り、順調に成果を上げて準教授になった。


そして予てからの夢に着手したんだそうな――――それが、ディアス。


マスコミには“ロボット”とか“アンドロイド”とか呼ばれるのかもしれないが、脩司は“高性能なパソコン”といっていた。曰く、


『アレはまだそんなレベルには達してないよ。せいぜいが高性能なパソコンだ。』


直にディアスの性能を見た者としては、ロボットにどれだけのレベルを求めているのか訊いてみたいが、ともかくも彼は海外の大学の協力などを得て幾つかの試作品を作った。


そして、ある程度のハード環境(からだのじゅんび)が整ったところで今度はソフトの開発(のうのなかみ)に取りかかることにした。


こちらは分野が分かれるそうで、脩司は直接には関わっていない。


ただ、将来的に対人仕様になるため、出来るだけ多くの経験(フィードバック)が欲しいらしく適当なモニターの斡旋を依頼してきた。


もとより研究一筋の朴念仁、しかもトップクラスの研究成果とあって、その辺の人間には頼めない。そこで白羽の矢が立ったのが私だった。




最初に話をされたときにはおとぎ話を聞いている気がしたが、室長さん―ソフト開発の責任者―に『女性の欲しいものは女性にしかわからない!』と力説されて、ついその気になって頷いてしまった。


言質を取った、とばかりにすぐさま契約書を見せられて細かい説明を受けたがその内容がまた驚愕だった。


一つは研究室で契約したマンションに移ること。――――専用のマンションがあることに驚いたが、セキュリティを考えれば当然かもしれない。


それにまだディアスはある程度の電化製品のマニュアルしかインストールされていないため、個人宅にあるものは使えないかもしれないからだ。


そしてもう一つ――――契約保証金の支払いだ。理由はいろいろつけられたかもしれないが、室長さんがぶっちゃけてくれた。『持ち逃げ防止よ。』


確かに高額だった。それなりに貰っている私の年収を軽く超えていた。


眼が点になる私に更に口がふさがらなくなるような発言をした後、他の理由も教えてくれた。


ハードに関しては私が使用することで劣化するのは避けられず、メンテナンス費用は折半になること。


ソフトに関してはある意味、私専用の仕様になってしまうのでフィードバックを取った後は“使い捨て”になってしまうこと。


この理由から契約終了後も保証金は戻らず研究への寄付金として扱われること。


これですぐ署名(サイン)する人がいたら見てみたい。考え込む私に『とりあえず現物でも』と脩司が見せてくれたのがディアスだった。



 

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