朝食
「どうぞ」
しっかり泡立てた洗顔料を綺麗に洗い流したところで、ディアスがタオルを差し出す。
それを受け取り、顔にあて少し息をつく。
「ありがとう。私は化粧をするから朝食を用意して。メニューは昨日教えたとおりよ。」
「はい」
キッチンへ行く後ろ姿を横目で追い、また一つ息をつく。一から十まで口で言うのもなかなかに面倒だ。まぁ、最初はそんなものか・・・
部屋に戻り、適当に化粧をして適当に服を選ぶ。汚れると嫌なので、着替えるのは食事の後だ。
居間に行くと朝食が綺麗に並べられていた。ご飯、お味噌汁、小さな鯵の開きに卵焼きが二切れ、レタスとトマトのサラダ。
洗顔してから30分も経っていないのにきちんと用意されている。
「いただきます」
手を合わせて食べ始める。一口づつ咀嚼していく。
「ご飯の量が多すぎるわ。お味噌汁も半分にして。魚はもう少し火を通して。卵焼きはもっと柔らかく。サラダにマヨネーズを足して頂戴」
せっかく作った朝食をこんな風に言われたら、私なら二度と作らないだろうと思われるような感想を次々と挙げていく。本来なら自己嫌悪に陥るところだが、今の状況ではなにも気にすることはない。
「・・・確認しました。『もう少し』と『もっと』は火にかける時間はどのくらいがよろしいですか?」
「・・・そうね、両方とも2分にして。食材の厚さや大きさ、温度によって違うから、それはその都度データベース化しておいて」
「かしこまりました。分類して保存します」
かなり多めの食事を苦労して食べ終え、食器の片付けを言い付けた後に部屋で着替える。
何の変哲もないブラウスにスカート、大きめの通勤バッグ、鏡に映る平凡な私。
・・・ようやく、私は私のままでいられるんだ。
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