就寝
髪を触られていると、眠くなってくる。
お風呂上がりの身体が温度を下げていくのに連れて、とろとろと心地よい眠気が私を包んでいく。
「美里、眠いのですか?」
髪を整えていたディアスが、その指を首筋に伸ばしてそう聞いてくる。
「分かるの?」
「体温、脈拍、呼吸数共に下がっています。時間帯から推測して、睡眠を欲している可能性が一番高いと判断しました。」
ディアスの声が聞こえる。
「うん、そうね、眠い…」
「美里、睡眠を取るのであれば、ベッドの方が適しています。ここから移動しますか?」
耳に心地よい声は、子守歌のように私の意識を拡散させる。
「うん、運んで…」
眼を閉じたまま、両手を差し出す。
「わかりました、抱き上げます。」
微かに駆動音がして、脇と膝の下に腕が差し入れられる。
近づいた首に手を廻すと、そのままぐっ、と持ち上げられる。
その落ち着き先に些か戸惑ってしまった。
「立て抱っこ…?」
「先程の体勢から安定する抱き方を選択しました。大丈夫ですか?」
耳元で囁かれる声に対して、全く甘さのない口調と内容。
思わずくすくす笑い声を立ててしまう。
これじゃ恋人じゃなくてお父さんだ。
「美里?どうしました?」
「ううん、何でもないわ。ベッドに連れて行って。」
首にぎゅう、としがみついて甘えた声を出す。
でも自分で分かる。今までの男に媚びる声ではなく、親に甘える子供の声だ。
「わかりました。」
目を閉じて、運ばれる振動を感じる。
子供の頃、記憶に残らなかった親の愛情。
当たり前だ、その時はきっとぐっすり眠っていたんだから。
それを今、再び味わって、泣きたくなるような幸せを感じる。
「下ろします。」
静かに言われて、そっと下ろされる。
離れていく腕が心許なくて、思わず掴んで引き留めてしまう。
「美里?」
「寝たかどうかは分かるんでしょう?」
「医療用ではないので、厳密には分かりません。現在であれば、身体機能が一定以下となった場合、睡眠に入ったと判断します。」
「あぁ、突然死とかあるものね。…でもそれなら問題ないわ。私が寝付くまで、手を握っていて。」
そう言うと、ディアスはベッドの脇に膝を着いて、私の手を両手で握った。
「おやすみなさい、美里。」
「…おやすみなさい、ディアス。」
私好みのイケメンに、ベッドまで運んでもらっても身体の関係に煩わされることなく、手まで握っていてもらえる。
なんて幸せなんだろう。
そんなことを考えながら、眠りに落ちていった。