入浴
食後にミルクティーを入れて貰って、リビングのソファで寛いでいた。
テレビをつけて眺めていると、後片付けを終えたディアスがやって来てこう言い放った。
「美里、お風呂が沸いています。入りましょう。」
「ん、はーい。…って、えっ!?」
思わず、二度見してしまった。
こちらに差し出された手と顔を交互に見る。
「…どういうこと?」
まさか一緒に、と軽くパニくっているわたしに、
「入浴時の介護をするように設定されています。」
とんでもない初期設定を告げてきた。
この家のお風呂場は広い。
マンションにもかかわらず、湯船で足が伸ばせる。
更には洗い場も同じくらい、ドアや壁には手すりが取り付けてある。
他の水廻りは普通なのに、なぜお風呂だけ戸建てのように充実しているのか疑問だったけれど…
この理由はあんまりじゃない!?
もちろん、拒否しました、全力で。
そして、一蹴されました。
「成人女性への入浴時の介護に関するデータ集積は、重要項目の一つに設定されています。変更できません。」
この台詞を繰り返されて、この時ばかりはディアスが機械であることに歯噛みする。
いくら家電だって、我慢できません、室長さんーーー!
入らない、という選択肢はあり得ない。今から外にも行きたくない。
無理矢理一人で、とも思ったが、相手は腐っても精密機械だ。
設定されたことにエラーが出たら、どんな障害が起こるかわからない。
眼を瞑って息を吐く。
「わかったわ。入りましょう…」
観念した。
結果から言えば、かなり気持ちよかった。
脱衣所で服を脱ぎ(一応後ろを向かせた)、入浴着らしい薄いバスローブを羽織る。
抱き上げられて浴室に入り、シャワーを掛けられ浴槽に入る。
浸かったまま頭と顔を洗われ、美容院とかエステをやっている気分だった。
その後洗い場で入浴着の上から全身を優しく洗われる。
シャワーで流しながら、軽くマッサージをされ、本気で寝そうになった。
全裸で隅々まで洗われなきゃいけないのか、と戦々恐々としていたが、本当に介護の作業のようだった。
クレンジングなどの細かい動きはまだまだで、自分で洗うところも多かったけれど、最初に考えた程の恥ずかしさは無かった。
お風呂から上がり、本当のバスローブを着てリビングで一息つく。
お疲れ様でした、と言って出された冷たいハーブティーをグラスの半分ほど一気に呷る。
丁寧にタオルドライされた髪にディアスがドライヤーを当ててくれる。
到れり尽くせりだなぁ…
色んな意味でディアスから離れられないかも、と至福を感じる頭の隅で考える。
相手は機械。機械はいつか壊れる。
あんまり甘えると、無くなった時にその穴が埋められなくなる。
でもこれは機械。壊れる以外に離れることはない。
だから、今だけは。
暫くの間は、このまま…