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ディーと私  作者: 真月
10/18

昼食

ほぅ、と一息入れるとお昼間近になっていた。かなり集中していたらしい。


目立たないように伸びをして、周りに声を掛け、席を立つ。


廊下側のドアを開け、突き当たりをめざす。化粧室に入ると、絵里子がいた。


「おー、お疲れー」


「お疲れー。おじさん臭いよ」


「おやじだからいいんだもーん」


妙齢の娘が化粧を直しながら言う台詞ではないと思うが、中身を知っている人間としては決して否定できないので黙っておく。


用を済まして絵里子の隣に立つと、化粧道具をポーチに仕舞いながら話しかけてきた。


「メール送ったけど、見た?」


「ううん、見てない。携帯に?」


「うん携帯に。お昼どうかな、って。」


「そっかごめん。気づかなかった。」


その時ちょうど、昼休憩のチャイムが鳴る。2人で顔を見合わせ、


「「社食行こっか。」」 声が重なった。




この社屋には2階に社員食堂がある。


健康管理を気遣う人事が優秀な栄養士さんを見つけてきたおかげで、味、ボリューム、カロリー、早さと申し分ない。


ネックは値段だが、社員には会社から補助チケットが配られるのでそれほど懐も痛まない。


もっと値段設定が安かった時は、近くの大学生っぽい子もいたりして大変だったが、今では会社の人の友達らしい娘がちらほらいるくらいだ。




カロリー順にA,B,Cとある日替わり定食のAを選び、チケットを渡してトレイを持って席に着く。


私のメインは豚の生姜焼き、絵里子は鶏唐揚げの甘酢あんかけだ。


「「いただきまーす。」」


早速食べ始める。美味しい。本当に美味しい。この会社に入って良かった。


「今日は携帯に気づかないくらい、仕事、切羽詰まってたの?」


絵里子がサラダをつつきながら尋ねてくる。


「そうでもないかな。月曜だから、先週からのまとめとか。午前中はずっとパソコン見てたから、社内メールならすぐ気づいたけどね。」


そう言うと、形の良い眉を寄せながら


「社内ラン使ってるものは、全部システム部の監視対象でしょ?プライベートのこと、あんまり乗せたくないのよね。」


なんてことを言ってくる。


「まぁ、よっぽどのことがなければ警告なんてされないだろうけどさ、休憩の時にネットでエロサイトとか見てる人、人事とか怖くないのかな。」


と、返してみる。いるのだ、本当に。さすがに勤務中にはないが休憩時間とかに。後ろからは丸見えなのに。


「もう諦めてるんじゃない?お互いに。確実にログは取られてると思うけどね。なにかあった時に証拠~ってずらずらっと出されて、はい終わり、でしょ。」


辛辣なことを言って唐揚げを摘む。絵里子はかなりの毒舌家だ。




そのまま食べながら、ランチの美味しいお店情報や取引先の話などをしながら最後に残したデザートの杏仁豆腐をつついていると、近くから声が聞こえてきた――元彼の。


一瞬で味がしなくなる。絵里子の声が遠くなる。冷や汗が出て。手が震えて。怖くて、逃げ出したい――――


「…里、美里?大丈夫?気分悪い?」


気づくと、向かいに座っていた絵里子が隣に座って覗き込んでいた。しまった、気づかなかった。


「ごめん、大丈夫。ちょっと食べ過ぎたかも。もう平気。」


笑いながらそう言う。ただの腹痛。そう見えるように。


「…本当に平気?薬飲む?」


「平気平気。薬も持ってるし。私って胃腸が繊細だから。」


おどけたように言うと、若干呆れながら、絵里子は引いてくれる。


そのまま席を立ち、トレイを手に持ち、後ろの席に座ってこちらを見ていた男性社員達に会釈した。


そして、その中にいた元彼に眼を会わせ、にっこり笑う。


さっきの絵里子に向けたのとは違う、綺麗に見える余裕の笑みを。


「何か?」


そう問いかけると、少し見た後、


「いや別に。」


と言いながら、ふっと目を逸らす元彼。


笑顔のままその場を離れ、トレイを返しながら、強く思う。


(私はこんなことには負けない。絶対、あなたには負けない――――)







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