起床
理想の彼氏が欲しかった。優しくて、一緒にいて楽しくて、私を絶対に裏切らない。そんな彼氏を。
―――私は手に入れた。
――月曜日。
寝起きで開ききらない眼をこすりながら、ぼんやりした頭で今日の予定を考える。あの書類の締切と係での打ち合わせ、それから・・・
仕事の予定はほとんど会社のカレンダーに記入しているので、スケジュール帳はほぼ白紙だ。いつもはそれで事足りるけれど、今日のような休み明けは思い出すのに時間がかかる。
「おはようございます、美里」
抑揚はあるけれど、感情のない声がかけられる。
明らかに男性のその声は、一人暮らしの部屋では聞くはずのないものだ・・・普通なら。
「おはよう、ディアス」
挨拶を返し、ベッドから降りる。洗面所に行こうとして、ふと足を止めドアの脇に立つその姿を見る。
「どうか、しましたか?」
少し首を傾げて聞いてくる。長身の割に威圧感がないのは細身だからか。さらさらした黒髪越しに無機質な眼がこちらを見ている。
その容姿に満足を覚えながら、指示を口にする。
「朝はベッド脇にきて起こすこと。私が起きたら、挨拶しながら軽くキスをすること。明日からよ。」
妙齢の女性が彼氏に向かってこんな台詞を口にするなんて、喧嘩でもして感情的にならないと普通はないだろうな、と思いつつ反応を見る。少しの間をおいて、返答がある。
「・・・記憶しました。午前の管理時間はそれに合わせて調整されます。よろしいですか?」
「いいわ。それと、これから洗面所に行くからタオルを持ってついてきて。タオルを差し出すタイミングを覚えるのよ。」
「・・・かしこまりました。タオルをお持ちして洗面所で待機します。」