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俺はうつ

 俺は中学生。


 二年生に上がってから、自分のクラス、教室には一度たりとて足を踏み入れたことがない。


 不登校――じゃない。学校には毎日欠かさず通っている。


 いわゆる保健室登校というやつだ。


 思春期真っ盛りの騒がしい同級生たちから隔絶された、白い部屋の中で一人、本を読むなどしている。


 サボり――じゃない。正当な理由があって保健室で休んでいる。


 俺は病気なのだ。不治の病。毎日薬を飲んでも死ぬまで完治することはない。


 うつ病という。


 何かを面白いと思う気持ちも、悲しいと思う気持ちも、全く湧いてこない。


 俺の心の中はいつも、夜の海の水平線みたいに、暗く沈んだまま動かない。


 自分がうつ病がだと分かったきっかけは――何だっけ。テストの点が悪かったんだっけ。体育で滑って転んだからだっけ。


 あいつにズボンを下げられたからだっけ。あいつに傘を折られたからだっけ。あいつにドロップキックされたからだっけ。あいつにベランダに押し込まれたからだっけ。あいつにトイレのスッポンを舐めさせられたからだっけ。


 似た病症に適応障害というのがある。適応障害というのは、目の前に克服できない障害物があって、それが原因で憂鬱気分に落ち込むもので、だいたいはその障害物を除去すれば解決する。


 無理強いされる勉強を諦めてみるとか、あたりがキツイ営業グループから外してもらうとか、引っ越しするとか、転校・転職するとか。とにかく障害物から離れる。そうすれば笑顔も取り戻せる。


 うつ病は違う。憂鬱気分になる原因が()()()()()()()。最初から憂鬱フィルター越しに世界を見ている。だから環境を変えるだけでは効果が薄い、どうにもならない。天賦で授かった性分なのだ。


 事実、今こそあいつらと離れられているが、沈んだ気分は変わらない。


 俺はうつ病になるべくして生まれてきたのだ。


 ――ということを精神科医とカウンセラーから教えてもらった(うつ病になるべくして……ということまでは言われていない。俺の感覚だ)。お医者様がそう言うのだからそうなのだろう。


 こんな事情があるから、俺が保健室に入り浸って(もはや棲んでいる)いても、先生たちはガヤガヤ言ってこない。見て見ぬふりをしてくれている。


 授業はぼちぼち受けている。特別学級の教室を借りて、最低限の国数英社理を教えてもらう。一人だけで。授業の残りは宿題ということで、すぐ保健室に戻ってくることができる。


 体育の授業は出ない。別の日に先生と二人きりで体操なんかをしてカリキュラムを補う。文化祭・体育祭など行事の類は準備のころから参加しない。クラスのやつらも俺がいない方が都合が良いだろう。


 こんな具合で、俺は特別待遇で中学校生活を過ごしている。これからもずっとこうなんだろう。高校に行っても大学に行っても就職しても、周りに配慮してもらいながら生きていく。


 甘えなのかもしれない。けれど仕方ない。だって『病気』と診断されているのだから。


 俺は悪くない。


 なんてことを考えながら、今日も保健室のベッドに寝転んで本のページをめくる。


 俺の絶対安寧の地、まさに天国。誰にも侵されることはない。


 そう思っていた。

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