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第03話 芽生えた感情


実にお久しぶりです。

5か月以上更新が無かったですね。すみません、生きてます。

それではどうぞ。

 気が付くと、そこは見知らぬ世界だった。


 緑に囲まれて、目の前には少し大きめの小屋がある。

 山の中かと、智也は思った。

 こんな澄んだ空気で、非現実的な出来事が起きているなんて…智也は思えない。

 ぽかんと辺りを見ていると、少年がぼんと智也の背中を叩いて笑いかけてくる。

「じゃ、改めまして。おれの名前はショウハ。こっちがねぇちゃんでミン」

「よろしくね、えっと…」

「あ、智也」

「そう!よろしくねトモヤ!」



 ニコニコ笑う2人。

 どう見ても似ていないのだが、まあ兄弟ってこんなものだろうか。

 そういえば、従姉弟の鈴原家は何となく似ていた気がする。眼がくりっとして大きかったり、ちょっと2人して童顔だったり。ちょっとした表情まで。

 何でこんなに俺は、ほんの僅かしか出会っていない従姉弟の事を、ここまで覚えているのだろうか?

 ああ、1人っ子で淋しかったのかな。

 何で1人じゃないのに、1人になろうとするんだろう…なんて、昔の自分は思っていたのだろうか。

 智也は、自分の子供っぽさが少し恥ずかしくなった。


「わー!トモヤかっこいい!!マント?剣!勇者って感じだな」

「は、マントに剣?…うわっ」

 ショウハに言われて、智也は体を動かした。

 それだけで分かる、背後でふわりと衣服が揺らめいた事が。そして、腰のあたりが妙に締め付けられている。重い…。

 みるとそこには。

 立派な剣。ファンタジーの主人公のように鞘にささって、何だか綺麗にも見えた。別にそこまで豪華ってわけじゃないのに、智也は夢みたいに感じて思わず身惚れた。

 よくよく見れば、自分が防具をつけている事にも気付く。何と言う勇者装備。


 鋼色に輝く防具。

 背後で翻る青色のマント。

 腰で異様な存在感を見せつけている剣。


 たったこれだけで、智也はクラリとよろめきそうになる。

 本当に、本当に俺は主人公…勇者、この世界を守る人間なんだと。

 その責任感が、防具以上の重さで圧し掛かって来た。潰される。

 横で笑っているショウハとミンに、智也は申し訳なく思う。ふがいない奴でごめんな。もっとイイ奴が選ばれれば良かったのに。この世にいるらしい神をちょっと殴りたい。お願い一発だけ、ね?


 と、その時だ。




「勇者様が来られたぞおおお!!!!」




 近くの小屋の戸が音を立てて開き、智也は思わず息を呑んだ。

 しかしショウハとミンは、いたって普通です、みたいな表情で笑っていた。なんだこれ。

 あっという間に、智也たちは人々に囲まれた。


「いやー、本当にここで待って居れば会えるなんて」

「神のお告げは本当だったんだな」

「ショウハ、ミン。怪我は大丈夫かい?違う世界に飛ばされたんだろう」


 次々飛び交う訳の分からない会話に、智也はただ目を丸くしてその場に座り込んでいた。

 とりあえず、2人に聞いてみる。

「どういうわけだ?」

「ごめん、まだ説明してなかったもんね。皆さんすみません、一旦静まって貰えますか?」


 ミンの言葉で、人々は静まる。

 それを見て、ミンは智也の眼を見て話し始めた。


「えっとですね。

 私たち、実は親が亡くなったんです。で、この小さな小屋で住んでいるんです。生活は、色々お手伝いとかしながら、ここにいる村の皆さまが助けてくれるので、生活は出来ています。

 そんな毎日を過ごすある日、私たちの村全体に、神様からのお告げが聞こえたんです。この世界は、神様が時々お告げをしてくるんです、おかしいでしょう?でも、それだけここは神様に近い世界。穢れの無い世界…だったんです」


 何故私たちの村だけなんでしょうね?と笑うミンの表情は、少し暗かった。


「神様は言いました。

 直にこの世界は穢れる。眠っていた力は起こされ、悪用されてしまう。しかし、ここにはそれを掬いだすモノが現れる…と。そこで神様に、私たちの名前が呼ばれたのです。ね、やっぱりどこかおかしいけど、本当に…、勇者が現れたんだ…」


 微笑むミンは、心から安心した…という表情だ。

 ただ、智也的にはこの“王道”っぷりがなんとも非現実的な雰囲気を醸し出していて、正直実感がわかない…感じもする。しかし、確かに自分は選ばれて、装備をした姿でここに居るのだ。

 ここで自分は、ドラゴンの遺伝子ロボットを…殺さなければならない。勇者、勇者…。


 俺には、やっぱり…。


 智也は今さら、不安がっている事に腹が立つ。だったらあの時断れば良かったのだ、ごめんなさい、出来ませんと。しかし智也には、その勇気はなかった。

 弱い奴、智也は拳を握った。






「ぎゃあ!!」

「いや、な…、ああああああああああ!!!!」






 どさ。

 周りから人が遠ざかる。智也たちを避けるのではなく、何かから逃げるように。

 一瞬で、悲鳴と共に鉄臭い…独特の匂いが漂ってきた。それに智也はぐらりと眩暈がした。キツイ。

「逃げてトモヤ!このままじゃ危ない」

「畜生…、あいつら!!」

「……え!?」

 ショウハとミンが、智也に声を掛ける。しかし智也は見てしまった。


 無残に切り裂かれた人の死体を。

 そこで立っている2人の男を。


 返り血を浴びる彼らは、まるで、人形のような…普通とは違う何かを感じた。

 何が起きたのかは分からないが、智也は、本能的に感じた。

 ああ、こいつらがロボット。ドラゴンの末裔…。

「はは。本当にここに集まってた。ササの眼の力も大したもんだ」

「…ま、騒いでたら分かるさ」

 人間の声に聞こえても、何かが違う。確かに感情はこもっていても、何かが違う。しかし智也は、妙な感情を抱いていた。

 何故そんな事が出来るのか。おかしい。おかしい…!!

 それを止めるために自分は呼ばれたのに、何を今さら動揺しているんだ。

 さあ動け、動け!!


「ああああああああああああああああああっ!!!!」


 叫び声を上げて、走り出す。

 智也はそれを見た。智也ではない。走り出したのは…、ショウハだ。

 ショウハは速い。俊足。あっという間に彼は2人の男に近づき、拳を振り上げた。

「――――!!!!」

 しかし、呻き声を上げたのはショウハ。確かに速かった、なのに彼らはそれ以上の速さで、ショウハをなぎ倒した。気が付いたらショウハは地面に転がっている…まさにそうだった。

 ミンはそんな彼に駆け寄ると、光を放った。ゆっくりと、ショウハの負った傷が癒える。彼女は治癒能力の使い手らしい。

 そんな2人に興味を示さず、男たちはまっすぐ智也を見た。

 動けと命令しても、智也の体は動かない。ビビっているのだ、このいきなりの展開に。

 違う、いきなりではない。あれほど説明を受けて、いずれこのような展開になると分かっていて、それでも動く事は出来ないでいるのだ。


「お前、ゆーしゃ、って言うんだろ?」


 1人の男が尋ねる。


「…これが?なら安心だな。結局回りの奴らがやられてるだけだし。こいつは動かない」

「そーだな!そーだ!じゃあわざわざ見に来る必要無かったかもな!!」


 なんて楽しそうに笑うのだろう。智也は思う。

 体が震えた。分かっている、怖いのだろう。

 怖い?

 怖い…だと?

 そこで智也は理解した。違う、この震えは恐怖で無い!



「…そうだ、俺は……」



 怒っているのだ。

 この理不尽な展開と、意味不明な襲撃者達に。

 そして自分の弱さに。


 ああ、俺は勇者になれるかも。正義の心が恐怖を超えたから。

また更新が遅くなるかもしれませんが

よければお付き合いください。

前作の“王道”よりはキャラは少なめですが

その分濃いキャラクターがまだまだ登場します。早く書きたい…w

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