第01話 出会ってぶつかって
お久しぶりの方も、初めましての方もこんにちわ。
なーおといいます。
このお話は“王道”は禁句の続編となっているのですが
特に読まなくても大丈夫…、なはずです。
でもよろしければどうぞです。
では、また“王道”ワールドを書いて行こうと思うので、よろしければお付き合いください。
今日、俺は新たな生活に臨もうとしている。
心の中で喝を入れ、目の前にある家のチャイムを鳴らそうと手を伸ばす少年…森原智也がいた。
春休み中の出来事だ。
父が海外に転勤することになった。もちろん父一人じゃ淋しいから、母も一緒に行くことになった。ただ智也の弱点は英語。海外なんか死んでも行きたくない。…というわけで、従兄弟の家にお世話になる事になったのだ。
もう少し前、従兄弟の姉が結婚して新しい家を建てて暮らしているらしい。そこの智也は住むことになった。
しかし彼には一つ、問題があった。
姉の方はいい。兄の方が問題なのだ。
その頃あの家庭はどこかおかしくて、決まって兄は自分に対して八つ当たりをしていた…気がするのだ。幼いながらにもそんな雰囲気は感じられて、別にいいのだが……。何だか気まずい。自分のせいで苦しんでいたのかと思うと、なんだか複雑な気分になるのは確かなのだ。
「はぁ」
スッとため息をつくと、なんだか体が軽くなった気がした。それはいい意味でのため息ではなかったのだが、まぁつかないよりはマシなものだ。そんなことを呟いていると、チャイムに反応した家の住人が出てきた。
「はいはいどちら様ーって、ひゃぁ似てる。和也に超そっくりじゃん」
「あ…、知らない人?」
出てきたのは、智也の知らない男の人だった。多分何と同じぐらいの年。なんだか溶けてしまいそうなほど綺麗で、澄んでいて、俗に言うイケメンだと、智也は思った。
そんな人が何故ここにいる?姉の方は結婚をしているはずだし、兄は……、え。まさか!?
「まぁ入ってよ。君の家族全員待ってるよ」
「…お邪魔します」
そわそわしながらも、智也は家の中へと足を踏み入れた。
「久しぶりねー、智世よ。覚えてる?あ、こちらが私の旦那さんで高那 宗太郎さんよ。私ももう高那、なのよねぇ…」
久しぶりに会う智世を見て、智也はなんだか懐かしく感じる。そういえば家の表札は高那だったような、何で思いつつ宗太郎も見た。うん、なかなかの男前。優しそうだ。
なんてほっとしていると、バタバタと階段を駆け降りる音が聞こえてきた。
「智也、じゃん!やっぱり来てたんだ」
「あ…、和也さん」
バッと智也は席を立った。急にピリリとした空気に変わるのを感じて、智也は心を凍らせた。ドキドキする。彼の機嫌を損ねたら、自分はこの家で苦しい思いをしなければないない、そう考えて。
ゆっくりと近づいてくる和也を感じで、智也は身を強張らせた。
スッと彼が手を上げた。
ぽん。
「でけぇなお前、久しぶりじゃん」
「…………え」
呆然。
自分の頭に、和也が手を乗せていた。そして優しく笑って久しぶり、と。
その時、昔と何かが違うことに気が付いた。そうだ。昔は智世と和也は仲が悪かったのに、今は何事もなかったかのように接している。智世はなんだか解放された笑みを浮かべているし、和也は纏っているオーラが温かいものに変わっている…気がした。
ああ良かった。
これなら、俺はここで楽しくやっていけるだろう。
和也の方を向いて、智也は久しぶりと言った。
初めて、彼の眼を見た。
最初に出てきたイケメンは刻と言って、ワケアリで居候しているらしい。和也と刻は20歳で、今は大学などには行かずにバイト(和也は近所のスーパー、刻はホスト系)をして、居候代を払っているらしい。
そんな温かい空間で、智也はアスの入学式に向けて眠りに就いた。
のちに、とんでもない展開に呑まれることも知らずに。
智也は豊丘高校に通う2年生となる。
転校初日の印象はすごく大切で、比較的真面目な性格をしている智也は結構真面目に、考えていた。
両親とは仲が良く、ごく普通に生活をして来た智也にとって、なかなかこういう変わった立場になることは珍しいことだ。それが妙に緊張を呼び、うぅんと通学路を歩きながら彼は唸る。
ふと、頭の衝撃が走った。
「った!!」
ごつ、と鈍い音を立てて頭に振ってきたそれは、一冊の本だった。
表紙裏表紙と題名は無く、智也がパラパラと中身をみるとそれは真っ白だった。唯一その本に描かれているものは、表紙の白と黒の羽の絵だけ。後はちょっとぶ厚いノートみたいだった。
ただ紙はまるで本を触っているときみたいな…感触がする。なんて不思議に思いながら、智也は本をまじまじと見つめた。
すると、遠くで声がした。
まるでそれは虫が飛んでいる時の羽音のように小さく、けれどよく耳を澄ますとそれはやっぱり人間の声だった。
何故?なんだか上から聞こえてくる。
そう思い智也は空を見上げた。
そして、唖然とした。
空から少年と少女が、降ってきていたから。
「うわああああああああああどおおおいいいいいてええええええ!!!!」
「きゃあああああああああっ!?」
「な、何で人が降ってきてんのさあああああああ!!」
見事に衝突。
智也は2人分の衝撃を感じ、そのまま地面へと倒れこんだ。アスファルトの生温かさをじんわりと感じ、むっと智也は眉を顰めた。意味が分からない。何なのこの状況。
それが、本の世界を開くきっかけだった。