7.アリーとバロウ5
アリーとバロウの話の最終話です。
「お前は一体市場で何をしていたんだっ!!?」
アリーは夜遅くに家に帰るとアリーの父親に怒鳴られた。アリーの母親はアリーを心配そうに見ているが何も言わない。どうやら父親はアリーの帰りが予定より遅すぎた為、何かあったのかと思い市場に行ったらしい。そこでメノアの父親達からアリーとのやり取りやバロウの事を聞いたらしく、今こうしてアリーに怒っているとの事だった。
「…悪口を言われたから言い返しただけだよ。それと彼がアスランの悪口を言っていたのは本当だけど、私の事は助けてくれた。だから私にとって悪い人じゃないよ。」
バロウはアリーを助けた訳ではないと否定したが、アリーが救われた事に変わりなかった。だがアリーの言葉に父親は納得をするどころか、不機嫌さを増した。
「アスランの悪口を言うような奴がまともな訳ないだろう! 金輪際二度とその男と会うな! それから明日になったら、お前が市場で傷付けた人達に謝罪をしろ。二度と人の事を悪く言うんじゃない!!」
父親の言葉にアリーは呆然とした。
「…謝罪? どうしてよ、私はずっと悪口を言われていたんだよ。それに対して言い返しただけじゃない! お父さんは娘の私よりも、メノアさん…他の子の方が心配なの?!」
傷付いた様子で話すアリーに、父親はため息を吐いた。
「何を小さな子供みたいな事を言っているんだ。そんなに悪口が許せなかったのならもっと早くに言えば良かっただろう?」
その言葉に、アリーは表情を歪ませた。
「っ〜〜、私はずっとお父さん達に嫌だったって言ったじゃない!! でも何もしてくれなかった事を忘れたの?!」
「なっ…!」
「ちょ、ちょっとアリー?!」
大声で怒鳴るアリーの姿に両親は唖然とする。アリーは憎しみを込めて両親を睨み付けた後、悲しそうな顔をした。
「…何もしてくれなくたって、せめて私の味方でいて欲しかった。」
「…アリー。」
母親はアリーの様子に思う事があるのか気不味そうな顔をした。父親はただアリーの豹変ぶりに驚いているだけのようでアリーの気持ちが伝わっているのかは分からない。
「村の皆もアスランの事が大好きで、皆アスランの味方だった。でも2人は、お父さんとお母さんは私の家族なのにどうして私の味方をしてくれないのかなって、何よりも不満だった…でもやっと分かった。2人はアスランの味方だからって理由じゃなくて、ただ私を軽んじてただけなんだね。」
アスランの悪口を言うバロウを庇った事への非難だけならまだしも、メノア達に謝罪しろと言ってアリーを気にかけない様子に、アリーはアスランだけではなくて両親にも蔑ろにされていたのだと感じた。幼馴染、家族、距離が近い相手にアリーは蔑ろにされる運命なのだろうかと、内心で皮肉に思った。アリーの言葉に両親は驚愕した。
「っ、な、親に対して何を馬鹿な事を言っているんだ!!?」
「そ、そうよアリー! そんな訳ないじゃない、落ち着きなさいよ。」
「…もういい、今から私はこの家を出る。」
「何だと…?!」
アリーの声は落ち着いていたが、その落ち着いた声色から放たれた家出宣言に両親は固まった。
「私、明日この家を…村を出るって決めてたの。だからお父さんとお母さんに話をしようと思ってた。でももういい、今すぐ出て行く。荷物を纏めるね。」
アリーはそう言うと自分の部屋に早足で向かった。部屋について早々、着替えや私物、アリーの資金、目に付く必要だと判断した物を乱暴に鞄に詰めていく。
「っ、ふ、巫山戯るなっ!! そんな事は許さんぞっ!!」
「馬鹿な事は止めてアリー!!」
父親が怒鳴りながらアリー部屋の扉を乱暴に開けたが、アリーは振り向かずに荷物を纏め続ける。母親は父親の背後でアリーを止めようと声を上げた。
「っ、アリー!! いい加減にし…!!?」
「っ!?」
父親の眼前に突如鋭利な刃が突きつけられた。反射的に後退った父親の視界には、片手で小型のナイフを握り鋭く睨みつけてくるアリーの姿が映った。娘から向けられる殺意に、父親は勢いをなくして背中に冷たい冷や汗を流す。
「っ、あ、アリー…。」
「邪魔しないで。」
子が親にナイフを突きつける。恐ろしい光景に母親は呆然とし、真っ青な顔でアリーを見つめた。
「…さようなら。追ってきたらただじゃ済まさないからね。」
アリーはそう言うと、動かなくなった両親を素通りし、乱暴に玄関の扉を閉めて家を出た…。
◇◆◇
「えっ、アリーちゃんどうしたの?」
「こんばんは、レコさん。」
レコは何の連絡もなくやって来たアリーに驚きながらも玄関を開けた。
「あら、大きな鞄ね。何処かへお出かけするの? でもこんなに遅い時間に大丈夫なの?」
「レコさん、私はこの村を出て行く事にしました。」
「…えぇっ?!」
レコは驚いて目を丸くし声を上げた。
「ど、どうしたのアリーちゃん!? も、もしかしてご両親と喧嘩でもしてしまったの?」
「お元気で過ごしてくださいね。」
レコの質問には答えずに、アリーはお辞儀をすると背を向けて歩きだした。
「え、まっ、待ってアリーちゃん!!」
レコは慌ててアリーを呼び止める為に声をかけると、アリーは立ち止まって振り向いた。
「私、レコさんの事は嫌いじゃないですけど、貴方の孫のアスランの事は大っ嫌いなんです。だから、アスランが戻ってきても仲良くなんて出来ません。今まで黙っててごめんなさい。」
アリーの言葉を聞いて、レコが固まるのを見た後にアリーは再び歩き始めた。遠くなるアリーの後ろ姿を、レコは呆然としながら見届けていた。
◇◆◇
「こんなに遅いと、すぐ近くの街で一旦休むしかねぇな。」
「…ごめんなさい。」
アリーはバロウに気不味そうに謝罪するが、バロウは気にした様子を見せなかった。市場での出来事からバロウはアリーを気に入ってくれたのか、一緒に村を出ないかと誘った。急な誘いにアリーは戸惑ったが嬉しくもあった。元々アリーは村の中で孤立しているようなものであったが、アリーがメノア達に反抗した事で今まで以上に住みづらくなる事はアリー自身も予想していた。反抗した事に後悔はないけれど、このまま村に居続ける事は不安だった。
「あの、これ貸してくれて有難うございました。」
アリーはそう言うとナイフをバロウに差し出した。親に何か言われたり、メノア達が何か言ってきた時に脅し用で持っておけと言われて渡されていたナイフだった。流石にそこまでしなくてもいいのではと思っていたが、結果的に大いに役に立ってくれた。
「そのナイフはお前にやるよ。いざという時に自分の身を守る為に使え。」
「えっ、でも…。」
戸惑うアリーに、バロウは真剣な表情をした。
「お前ももう分かっているだろうが俺は嫌われやすいんだよ。つまり敵が多いって事だ。だから、俺と一緒にいるだけでお前に危害を加えようとする輩がいるかもしれない。」
アリーは戦いの技術を何も持っていない。バロウは戦えるが、アリーを必ず護れる訳ではない。だからせめて、いざという時の為に護身用に持っておいた方が良いというバロウなりの配慮なのだろう。
「…それとも、やっぱり嫌われ者の俺と一緒に行くのはやめておくか?」
そう言って、意地悪な笑みを浮かべたバロウに、アリーは少し黙った後に笑った。
「…バロウさん、貴方はもう知っていると思いますけど、私も結構嫌われ者なんです。」
アリーの言葉にバロウは目を見開いた後、おかしそうに笑った。
「ぷっ、ははっ、確かにそうだな! それじゃあそろそろ行くぞ、アリー。」
「っ、はいっ!!」
今まで村の中でしか過ごした事のないアリーが、村の外の世界へ旅立つ。しかもアリーを導くのは、性格に癖のあるバロウだ。不安がないと言えば嘘になるけれど、アリーはバロウの手を取り村を出る事に迷いはなかった。
その後、アリーはバロウに敬語を使わなくなり、バロウはアリーに自分の胸の内を明かすようになり、2人は親密な関係となっていった。アリー達は村から遠く離れた街を居住地にし、アリーは小さなカフェで調理の仕事に就き、バロウは金次第で何でも請け負うギルドの仕事に就いた。バロウは相変わらず嫌われやすい存在ではあったが仕事で成果をしっかり出す為、同僚達は表立って攻撃してくる事はなかった。それにアリーと付き合うようになった事でバロウなりに敵を作らないように気をつけるようになり、以前よりも性格は丸くなった。その影響もあってかバロウを慕う人達が少数ではあるが出来た。
幸せな事ばかりではないが順調に時間は過ぎて行き、アリーとバロウが出会ってから2年以上が経過したある日、アスランが魔王を倒したと世界中で発表された。街は魔王の脅威が去った喜びとアスランへの歓声で賑わった。アリーとバロウはアスランを讃える民衆の中で静かにお互いの顔を見合わせた。バロウは何を思ったのか苦笑いをした後に、アリーにプロポーズをした。アリーは驚いた後、嬉しそうに頷いたのだった。
「俺さ、アスランの事はマジで嫌いなんだわ。」
アリー達の家に着くと、バロウが唐突に話し出した。
「あんな奴、魔王に殺されちまえば良いって、思った事が何度もある。」
「…私も、それは何度も思った。」
バロウの言葉に、苦笑いしながらアリーも同意した。勇者が魔王に殺されてしまったら、魔王は人間を皆殺しにしてきただろう。アリーは当然死にたくなんかない。でもアスランに会いたくない、アスランが居なくなれば良いと思う気持ちも強かった。だから一番の理想は、アスランも魔王も相討ちで一緒に死んでくれる事だったが、魔王が倒され、勇者の勝利で終わった。
「けどよ、さっきのアスランを讃える声を聞いても全然苛立たなかったんだよ。俺さ、もうアイツに死んで欲しいとは思わなくなった。いやまぁ、つまりどうでも良くなっちまったんだよな。」
「え?」
時間が経過してアスランへの嫌悪が薄れたのだろうかと思いながら、アリーが不思議そうにバロウを見ると、バロウは少し恥ずかしそうな顔をした。
「アスランはいけ好かない偽善者だがアリーと会うキッカケをくれたし、魔王をブチのめしてくれたからアリーと今後も一緒に居られる…絶対礼なんか言わないけどな!」
どこか投げやりに、そして恥ずかしそうに話すバロウに、アリーは驚きながらもとても嬉しそうに笑った。
「ふふっ、確かにそうだね! 私もアスランのお陰でバロウに会えたし、これからもバロウと一緒にいられる。もしアスランに会う事があったら、それについて感謝くらいはしても良いかも。」
「…おいおい、俺と結婚するなんて聞いたらアイツ絶対に面倒くさいぞ。アリー、お前態と言ってねぇか?」
「…確かにね。今のは純粋な感謝のつもりだったけど、面倒な事になるかもね。」
からかう様に言うバロウに、アリーは今気づいたとばかりに目を丸くした。アスランがバロウの事を覚えているかは分からないが、もし覚えていたらバロウとの結婚は強く反対されるだろうと思う。
「それにアイツと今後会う予定でもあるのかよ。まぁ、大事な幼馴染を探してここまで来る可能性がないとは言わねぇけどさ。」
「…今度村に戻ろうと思うの。両親に結婚の報告をしようと思ってね。」
バロウは驚いて目を丸くした。アリーと両親の仲は不仲になったに等しい。それなのに会いに行こうとするアリーの意図がバロウには分からない。けれど何処か楽しそうな様子のアリーに、両親への義理だの仲直りする為だの、そんな甘い理由ではないのだろうと感じたバロウは、仕方がないと言わんばかりに態とらしく溜息を吐いた。
「はーぁ、俺が一緒に行ったら流石に面倒くさいだろうからな、村までは付いて行くが家には1人で行く、って事でいいか?」
「うん、有難うバロウ!!」
アリーがバロウに望む事を自分から言ってくれた事に感謝をしながら、満面の笑みでアリーはバロウに抱きついた。魔王を倒した今、近いうちにアスランが村に帰ってくるかもしれない。アリーの中にはアスランに会いたくないという気持ちは確かにあるけれど、その一方でもし会う事になったなら…
「…バロウの言っていたアスランの仲間達にも会えたなら、自己紹介をするのも良いかもしれないわね。」
意地悪そうに笑うアリーに、バロウもニヤリと嫌味な笑みを浮かべるのであった…。
アリーとバロウの出会い話完結です。アリーの性格が悪くなった、もしくは元々の性格がこうだったなど様々な感想があると思いますが不憫な立場でしかなかったアリーはバロウに救われました。この後第1話に繋がります。バロウの過去についてはバロウ視点としての話ではなく、設定の説明として何処かで載せようかなと思っております。次回はアスラン達勇者一行の話を書く予定です。
ここまで読んで下さり有難うございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです(*^^*)




