14.勇者の元下僕と勇者の恋人2
アリーとリリアンが会話する話です。バロウもいます。
「…久しぶりですね、アリーさん。」
リリアンは少し緊張した様子でアリーに挨拶をした。
ブルーノと会った日の夜、アリーはバロウと相談してリリアンの話を聞く事にした。但しバロウを同席させる事、リリアン1人で来る事、明るい時間帯に会う事。そしてアリーの働く喫茶店かバロウの職場の近く、2人の知人が傍に居る場所にする事。この全ての条件をリリアンが受け入れないのならば話を聞くのは辞める事にした。
アリーはマスターとサヨに事情を説明した。2人は協力すると頷いてくれた為、喫茶店の窓からは見えない奥側の席を話の場として使わせて貰える事になった。
次の日、喫茶店にダンが訪れた。念の為アリーは厨房から出て行かずにサヨに伝言を頼んだ。ダンはアリーの提案する条件を受け入れてその場で頷いたらしい。リリアンはアリーが出すであろう条件を予想していたのかもしれない。ダンはリリアンが喫茶店に行くであろう日時とおおよその時間帯を告げるとすぐに出て行ったそうだ。
そして約束の日、アリーとバロウが喫茶店の中で待っているとリリアンがやって来て、今に至る。
「こちらの席へどうぞ。」
アリーが自分達が座る席に案内すると、リリアンはチラッとバロウに目線を送った後に席に座った。バロウも何も言わずにリリアンを見ている。
アリーとリリアンは互いに向かい合って座る。バロウは椅子をアリーの後ろに立ったままリリアンを見下ろした。
「…大丈夫だとは思うけど、アスランに変に思われない為に出来るだけ手短に話します。まず、私と会ってくれて有難う、アリーさん。」
「…いえ。」
リリアンは軽く頭を下げた。アリーは表情は変えないまま返事をした。
「ブルーノ…貴女と話した男から聞いたと思うけれど、私達はアスランにアリーさんを見つけた事を話すつもりはありません。」
リリアンはアリーが居なくなった後、レコとアリーの両親、メノアと村の人々の事を簡単に話した。そしてアリーを探す為に旅に出てからの、アスランの言動についても話した。
「…1人だったアリーさんよりは大分マシな状況かもしれない。でもアスランの下僕だったと、貴女が言いたくなる気持ちは分かったつもりです。だから、もう私は、私達3人はアスランの味方は出来ないと思ったんです。」
「…ハッ、つまり今度はお前らが勇者アスランの下僕になったって事か?」
「っ…、アスランに居場所がバレないように暫く行動する時は気をつけた方が良いと、改めて伝えます。まだ暫くはこの街に私達は滞在する予定です。」
バロウは失笑しながらリリアンを嘲笑う。リリアンはバロウに苦い顔をしたが何も反論せずにアリーを見ながら忠告した。
「…話は分かりました。でも、貴女が私と話したい事はそれだけですか?」
今回の話はリリアンがアリーと話したいという事で時間を作った。今の話の内容だけだと他の人達でもいい内容だ。リリアンがアリーに話したい事は何かを知りたくて、アリーは催促した。
リリアンは一瞬気不味そうな顔をした後、意を決したようにアリーを見た。
「…初めて貴女と会った日、私は嫌な態度をとりました。貴女に指摘された通り、私はアスランの幼馴染というだけで貴女に嫉妬し、気に食わないと思いました。貴女の人柄がどうかなんてどうでも良かった…ごめんなさい。」
「!?」
リリアンはそう言って頭を下げた。アリーは目を丸くして驚く。
「…赦してくれなくても良い。私がただ、貴女に直接謝罪をしたかっただけです。」
「…それだけの為に態々来たのかよ。」
バロウは呆れたような声を出した。
「…ええ、そうよ。そんな事の為に、と呆れられても仕方ないわ。」
バロウの言葉と態度にリリアンは一瞬眉を顰めたが、すぐに苦笑いしながら答えた。
「……貴女はこれからどうするのですか?」
そんなリリアンの様子を暫く眺めていたアリーが質問すると、リリアンは予想していなかったのか目を丸くした。
「貴女はアスランの恋人ですよね? もう愛していないのですか?」
「っ、それは…。」
リリアンは困ったような顔をして黙り込んでしまう。アリーとバロウがずっとリリアンの答えを待っていると、リリアンは気不味そうに口を開いた。
「アリーさんを見つけた事は秘密にすると決めただけで、まだ今後の事も、アスランとの関係をどうするかも、答えは出ていないの…。」
「はっ? おいおい、まだアイツが好きなのかよ。」
「っ…。」
バロウは再び呆れたような声を出した。リリアンは苦い顔をして黙り込む。アリーもバロウと同じ事を思った。
「…私は恋人になる前から、アスランの仲間としてずっと一緒にいた。ずっと私達は支え合ってきた…。今のアスランの態度に思う所はあるけれど…でも、決めきれない所もあって…。」
考えも言葉も纏まらず、ただ頭に浮かんだ事を話しているように見えるリリアンの様子にアリーは思い直す。
リリアンは最初からアスランの事が大嫌いで、好きだと思った事がないアリーと違って、アスランの恋人になるくらいアスランを好きになったのだ。それに魔王討伐の旅の中でアスランとの良い思い出も沢山あるのだろう。だから結論をすぐには出せないのかもしれない…。
「…まだ時間があるのなら、今度は私の話を聞いてもらえませんか?」
「アリー?」
アリーの言葉に、バロウは疑問を浮かべてアリーを見た。
「リリアンさんの謝罪は素直に受け入れます。あの時私は言い返してますし、こうして謝ってくれたのに赦さない、だなんて言う程の事でもありませんから。」
「…有難う。」
リリアンは少しホッとしたような表情をした。
「ただ、アスランの事ですけど…私の為を思って黙ってくれようとしているのは分かりましたが、今回はやり過ごせても、何れアスランに見つかる可能性はありますよね?」
「そう…ね。でも、次の場所に私達が移動した後にアリーさん達が別の場所に移動すれば見つかりにくいと思いますけど…。」
「見つかりにくい、というだけで確実ではありませんよね。それに、アスランのせいで引っ越すなんて嫌なんです。」
アリーの指摘にリリアンは言葉を詰まらせた。
「アスランには貴女という恋人が出来て、仲間も出来た。それに、村の人達や世界中の人達から感謝されて愛されている。使いっ走り程度の下僕な私に、そんなに拘ってくるなんて思わなかったんです。」
アリーとアスランが村で再会する可能性はあっただけで、確実ではなかった。アスランと再会しなくても、アリーが村から居なくなったと知って驚く程度で終わると思っていた。
再会して、アリーが今までの恨みを吐き出してもアスランはショックを受けてアリーと縁を切るだけだと思っていた。現に、アスランと別れてすぐにアスランはアリーを追ってこなかったから、アリーの予想通りだと思って油断していた。
だからアリーもバロウも、アスランの事など気にせずに、ずっと住める場所を探して今のこの街に辿り着いた。職場に恵まれ、生活環境も悪くないこの街を移動したくなんてなかった。
「…でも、此処に居続ける以上は何れアスランに見つかります。それに、私達も…。」
「アスランの傍にずっと居る訳ではない、と言いたいのですよね?」
「…まだ、分からないけれど。」
リリアンは曖昧な返事をした。
リリアン達はもうアリーを見つけており、ここから先のアスランとの旅は無意味なモノとなる。
旅を続ければリリアン達は今後もアスランがアリーを見つけられないように誤魔化し続ける事になる。友人でもないアリーの為だけに、リリアン達がずっと旅に付き合う選択はしないだろう。
アスランがアリーの事を諦めるまで、リリアン達が旅に付き合うという選択もある。しかし、今のアスランの様子を聞いている限り、アリーの事を諦めるとは到底思えない。
そしてもう一つは、リリアン達がアスランと離れる選択をする事だ。だが、この選択をすればほぼ確実にアスランとの関係は良好なモノではなくなる。どんな言い訳をしてもアスランとの仲に亀裂が入る事になるだろう…。まぁ、すでにリリアン達はアスランへの想いが変わっているのではあるのだが。
「…。」
「私とアスランの問題だけでなく、貴女達とアスランの今後についての問題もある訳ですよね?」
それが分かっているからこそ、リリアンは中々決断出来ずに悩んでいるのだろう。
アリーは黙り込むリリアンに口を開いた。
「そこで、私から提案が…協力して欲しい事があります。」
「えっ…?」
アリーは目を丸くするリリアンを見た後、バロウを見た。
「バロウにも手伝って貰いたいの。」
「…何か思いついたのか?」
バロウの質問に、アリーは少し面白そうな顔をして頷いた。
「まだ時間は大丈夫ですか?」
「え、えぇ…。」
リリアンは戸惑いつつも、微笑むアリーに頷いた。
アリーとリリアンが話す回は次で終わりそうです。長引くかもしれませんがそれでも5話にはならないと思います。
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