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Out of Reference   作者: あめたす


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3/7

第3話:ギルドの受付嬢


「……Now Loading…」


「うわあ……すごい活気だ。ねえカイ、あそこで売ってる串焼き、一本食べてみないか?」


「……レオン、悪いけど僕はそれどころじゃない。今、この街の『描画限界』を調べてるんだ」


商業都市ログス。

広場の中央で、カイは巻尺を握りしめたまま、行き交う人々を凝視していた。

レオンが指差した串焼き屋の店主は、3秒に一度、全く同じ角度で肉をひっくり返し、隣の客は5秒に一度、全く同じタイミングでジョッキを煽っている。


「完璧だ。完璧すぎて反吐が出る」


カイが測量杭を石畳の隙間に差し込む。


精密測量――発動。

[SKILL: 精密測量]

対象:ログス中央広場・通行密度

観測結果:全NPCの移動ルートが24パターンのループで構成されていることを確認。

警告:これ以上の過度な観測は、システムの「負荷」として処理される可能性があります。


「……ふん、脅しかよ」


カイは皮肉げに口角を上げた。

視界の端で、通行人の一人が一瞬だけ「カクッ」とフリーズし、次の瞬間には何事もなかったかのように歩き出す。世界の処理が追いついていない証拠だ。


「さあ、カイ! 立ち止まってないでギルドへ行こう! 最高の仲間が見つかるはずだ!」


「はいはい。最高の『初期装備』を持った、都合のいい仲間ね」


レオンに背中を猛プッシュされながら、カイは街の北側にそびえ立つ巨大な建物――冒険者ギルド本部へと足を踏み入れた。


ギルドの内部は、外の喧騒を凝縮したような熱気に包まれていた。

壁一面に貼られた依頼書クエスト。装備を自慢し合う戦士たち。

そして、その中央にある受付カウンターには、数人の女性職員が並んでいた。

レオンが迷わず、最も長い列ができている窓口へ向かう。

そこにいたのは、落ち着いた雰囲気の、どこにでもいそうな――それでいて、妙に記憶に残る顔立ちをした女性だった。


「【 こんにちは。冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか? 】」


彼女は、絵に描いたようなプロフェッショナルな笑顔でレオンを迎えた。


「新規のパーティ登録をお願いしたい! 僕はレオン。こっちは相棒の測量士、カイだ!」


「【 かしこまりました、レオン様。では、お連れ様のステータスカードをこちらへ。 】」


カイは黙って、自分のカードをカウンターに置いた。

彼女がそれに触れた瞬間。


「…………」


彼女の動きが、止まった。

数ミリ秒ではない。明確に1秒以上、彼女の瞳から光が消え、深い「沈黙」がギルドの一角を支配した。


(なんだ……? バグか?)


カイが身構えたその時、彼女がゆっくりと顔を上げた。

貼り付けたような笑顔ではない。どこか、悲しげで、懐かしむような――プログラムには存在しないはずの「表情」が、彼女の頬をかすめた。


「……Cランク……測量士……。……やっと、会えた……?」


消え入りそうな声。

それは台本にはない、彼女自身の「ログ」が漏れ出したような響きだった。


「え……? 今、なんて」


カイが問い返そうとした直後。

(システム音:キィィィィィン!)

耳を劈くような高周波のノイズが、カイの脳内だけで鳴り響いた。


[SYSTEM MESSAGE]

不正なメモリ参照を検出。

NPC ID:10028 [Receptionist] の思考プロセスを再初期化します。


「あっ――」


彼女の瞳が、一瞬だけ白濁した。

そして次の瞬間には、元の「完璧な受付嬢」の笑顔に戻っていた。


「【 大変失礼いたしました。カイ様、Cランク測量士ですね。登録を完了しました。 】」


「おい、ちょっと待て。さっき、僕に何か言おうとしただろ?」


「【 冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか? 】」


「……っ。ループに入ったか」


カイは拳を握りしめた。

彼女は、かつてカイと出会っていた。あるいは、この「物語」の以前の周回で、重要な役割を担っていたのかもしれない。

だが、システムはそれを許さない。

彼女が「個体」としての記憶を持とうとするたびに、無慈悲な初期化が走るのだ。


「カイ? どうしたんだ、そんなに彼女の顔を覗き込んで。……もしかして、一目惚れ?」


「バカ言え。……ただ、少しだけ『測り間違い』をしただけだよ」


カイは力なく笑い、レオンと共にカウンターを離れた。

背後で、彼女が次の中年戦士に向かって「【 本日はどのようなご用件でしょうか? 】」と繰り返す声が聞こえる。


「よし! 登録も済んだし、次は装備の補充だ! カイ、ここの武器屋は有名なんだぞ」


「……レオン。君、さっきの彼女に違和感を持たなかったのか?」


「違和感? とっても親切で、素敵な受付嬢さんだったじゃないか」


レオンは本気でそう言っている。


システムによる「認識の修正」。レオンにとって、今の彼女のフリーズは「なかったこと」として処理されているのだ。


「……そうか。そうだよな。覚えてるのは、僕だけでいいんだ」


カイは、自分の右手に刻まれた巻尺の感触を確かめた。

誰にも気づかれない。誰にも共有されない。

この世界の「歪み」をログとして蓄積し続けること。それがどれほど孤独で、泥臭い戦いであるかを、カイはログスの喧騒の中で噛み締めていた。


(見てろよ、管理者……。全部測ってやる。この世界のインチキも、あの子から奪った記憶の量も、全部だ)


皮肉屋の測量士の瞳に、静かな、だが決して消えない「拒絶」の火が灯った。

その時、カイの視界に再びウィンドウが浮かぶ。


[AUTO SAVE COMPLETE]

NEW QUEST: [運命の再配置] が開始されました。

LUK: 999 (Fixed)


「……ケッ。運がいいのも、考えものだな」

カイは独り言を吐き捨て、勇者の背中を追って、偽りの活気に満ちた街へと踏み出した。


[Now Saving...]

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