第23話:再演
第23話:再演
「……Now Loading…」
暗黒のキャッシュ領域。その中心で、世界そのものの歪みを体現した「魔王」が、無慈悲な光を撒き散らしていた。
カイが固定した「座標」を起点に、レオン、エレナ、そしてアルベールの3人が一斉に踏み込む。
「はあああぁぁ!!」
先陣を切ったのはレオンだった。彼の放つ一撃は、王道RPGの勇者そのものだ。しかし、魔王の周囲に展開された幾何学的な防護障壁が、火花を散らしてその刃を弾き返す。
「カイ! こいつ、物理攻撃が滑るぞ!」
「落ち着け、レオン! 今、当たり判定を『実体化』させる!」
カイは泥臭く地面を這い、魔王の足元に新たな測量杭を叩き込んだ。
指先は震え、視界の端ではLUKのERROR値が激しく点滅している。それでも、カイは脳内に直接流れ込む「世界の設計図」を凝視した。
「【測量スキル:境界定義】! ……あいつの足元、座標402の119! そこだけモデルの厚みが薄い! アルベールさん、盾で固定してください!」
「承知した! 我が魂は折れぬ、この盾こそが不変の理なり!」
アルベールが重厚な大盾を地面に叩きつけ、魔王のドレスの裾を物理的に「固定」した。
瞬間、魔王の無機質な瞳にバグのようなノイズが走る。
「……計算、外……。……NPCによる、物理干渉を……排除……」
「排除させないわ! 聖なる光よ、システムの枷を焼き払え!」
エレナの祈りが光の柱となり、魔王の頭上から降り注ぐ。魔王が展開しようとした「選択肢:絶望」のウィンドウが、光に焼かれてヒビ割れた。
「今だ、レオン! 右斜め38度! そこが唯一の『隙間』だ!」
カイの叫び。
レオンは迷わなかった。一歩踏み込めば消去されるかもしれない。だが、彼はカイの言葉を「信じる」という選択肢を瞬時に選んだ。
「これでおしまいだぁぁぁ!!」
レオンの聖剣が、魔王の胸中央、コアらしき結晶体へと吸い込まれるように突き刺さった。
閃光。
そして、耳を刺すような高周波の異音が響き渡り、魔王だった女性の姿が粒子となって霧散していく。
静寂。
暗黒の空間に、空虚なファンファーレが鳴り響いた。
CONGRATULATIONS!
魔王を討伐しました。
世界に平和が訪れました。
「……やった……のか?」
レオンが肩で息をしながら、剣を鞘に納める。エレナも安堵の表情を浮かべ、カイに歩み寄ろうとした。
だが、カイだけは動けなかった。
測量杭を通じて伝わってくる震動が、まだ止まっていない。
「……おかしい。数値が……落ちていかない……」
カイが呟いた瞬間。
空中に浮かんでいた【CONGRATULATIONS!】の黄金色の文字が、血のような赤色に変色し、ドロドロと溶け落ち始めた。
「……え?」
崩れ落ちたテキストが、再び床の一点に集束していく。
そこに現れたのは、再び完璧な姿勢で、紺色の制服を纏った「ギルドの受付嬢」だった。
「いらっしゃいませ……Cランク、測量士……カイ様……」
ノイズ混じりの、いつもの声。
カイたちが愕然とする中、彼女の頭上に巨大なパラメーター・ウィンドウが表示される。
MA-OH : HP 0 / 999,999
[RE-LOADING...]
MA-OH : HP 999,999 / 999,999
「嘘だろ……。HPが全回復した……!?」
レオンが再び剣を抜くが、その腕はかすかに震えている。
魔王は、何事もなかったかのように微笑んだ。
「戦闘を開始します……。……イベントシーン、再生……」
彼女が手をかざすと、先ほど倒したはずの「魔王の変身」が、1秒の狂いもなく再演され始める。
制服がドレスに変わり、結晶の翼が生える。
全く同じ演出。全く同じ、絶望。
「……待てよ。……これ、さっきと一言一句同じじゃないか……?」
カイは戦慄した。
「無駄ですよ、カイ様……。……この世界は、完璧な……物語を……繰り返すために……」
魔王の周囲に、先ほどよりも巨大な「選択肢」が展開される。
[ 最初からやり直す ]
[ 敗北を受け入れる ]
「……くそっ。……ふざけるな……! 誰が……誰が、同じ結末を何度も見てやるもんか!」
カイは、手のひらに食い込むほどの力で測量杭を握りしめた。
視界の端で、LUKの数値が激しく明滅し、ついに文字化けを起こして消失した。
「レオン、エレナ! ……もう一度だ! 何度でも、こいつの『予定』をぶち壊してやる!」
出口のない再演。
カイたちは、終わらない戦いの中へと、再び身を投じた。
「……Now Saving…」




