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八百万荘の神様候補  作者: 脇汗ベリッシマ
9/9

八百万荘、塩化物泉大乱闘

「あらあら、子供達がなんでこんなボロボロなんだい? 祭、どういうことだい?」


八百万荘の廊下に、食の声が響く。


子供達、と呼ばれた瞬間、勇者と魔王はほんの一瞬だけ顔をしかめ――そして、なぜか悪い気はしなかった。


食は二人の傷だらけの姿を見ると、眉を寄せる。


その視線が、ゆっくりと祭へ向いた。


冷たい。


「おいおい勘違いすんなよ!こいつらが勝手に神に喧嘩売ったんだ。俺は助けただけだぜ?」


「なんでそんなことをしたんだい?」


食が静かに問う。


足元で、白黒の犬が尻尾を振りながら「わん」と鳴いた。


食はそれを見下ろし、くすりと笑う。


「あぁ、なるほどね」


すべて理解した顔だった。


「この犬はあたしが手当てする。あんた達は風呂に入って傷を治しておいで」


「臭いからやだ」

「同意」


即答。


食のこめかみがぴくりと動く。


「今日は泉質が違うはずだよ。湯の神が入れるお風呂はね、どんな傷も治すんだ。さっさと行っといで」


逆らう勇気は、ない。


二人はぶつぶつ文句を言いながら廊下を歩く。


風呂場の前で立ち止まり、同時にため息。


「お前が先行けよ」

「貴様が先だ」


「はぁ?元はと言えば――」


「なにしてんだよ!早く入れ!」


なぜか祭が背後から現れ、どん、と押した。


「うおっ!」


脱衣所へ雪崩れ込む二人。


理不尽である。



服を脱ぎ、恐る恐る風呂場へ足を踏み入れる。


昨日とは違う匂いが立ち込めていた。


塩気を含んだ、海のような香り。


「……臭くはないが、やはり独特だな」

「同意」


ぼんやり突っ立っていると――


ざばぁっ!


突然、頭から熱い湯が降り注いだ。


「ぐあああああ!」

「染みる!!」


傷に直撃。


じんじんと焼けるような痛み。


振り向くと、木桶を掲げた祭が腹を抱えて笑っている。


「だはははは!お前らのせいで食さんに怒られてばっかなんだよ!ざまぁみろ!」


「ふざけんじゃねー!」

「大概にしろ!」


その横で、湯の神が深々とため息をつく。


「今日の湯は塩化物泉だ。傷に染みて当然であろう」


「先に言え!」


勇者と魔王は同時に木桶を掴み、湯をすくう。


「おらぁっ!」


ざばっ。


しかし祭はひらりと避ける。


「ははは!どこ見て投げてんだよ!全然当たらねー!」


「逃げんな!」

「止まれ!」


風呂場を全力疾走する三人。


湯気が渦巻き、足元が滑る。


どてんっ。


盛大に転ぶ勇者と魔王。


「貴様!わざと転ばしたな!」

「勝手に転んだんだろ!」


「神聖な場で走り回るでない!!」


湯の神が怒鳴る。


しかし誰も聞いていない。


ばしゃん。

どしゃ。

ぎゃあ。

うおっ。


湯気の中で三人がもつれ合う。


その時――


ガラガラ。


襖が開いた。


「いい加減にしなさーい!!」


風呂場の空気が、一瞬で凍る。


三人はぴたりと止まり、正座の姿勢のまま固まった。


食が腕を組んで立っている。


目が、まったく笑っていない。


「神界行く前に、八百万荘を壊す気かい?」


沈黙。


「返事は?」


「「……すみません」」


祭も小声で。


「……すみません」


湯気の中、三人はしょんぼりと肩を落とした。


塩化物泉の湯気が、静かに立ち上る。


湯気の向こうで食がため息をつく。

三人が正座のまま小さくなる。

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