第7話:厨二病少女は最強能力で異世界を支配するようです・5
ソファーには若い女性二人が並んで深く腰掛けている。
二人とも今風の大学生という雰囲気で、揃ってスタイルが良くモデルのように顔立ちが整っている。キャンパスのカップルコンテストでもあれば優勝間違いなしの美形ペアだ。スレンダーでパンツスタイルのやや髪の短い方が涼、胸の開いたフェミニンな服を着ている方が穏乃だとAAが教えてくれた。
手を繋ぎ顔を近付けて何かを語り合い、時折傍らの皿からケーキを食べさせ合っている。見ていて恥ずかしくなるほど完全に二人の世界だ。他の者と交流する気もあまりないらしく、話しかけに行く勇気は花梨にはない。
「あの二人は付き合ってるの?」
「そのようです。チート能力もセットで使う前提で取得しており、引き離すのは得策ではないと判断しました」
「そんなこともできるんだ。二人のチート能力って?」
「それはプライベートとなりますので、私からはお答えできません」
AAに代わり、近くのソファーに座る女性が応えた。
「さっき私が話したときは『無敵』と『爆発』だと言っていましたね。あらゆる攻撃の影響を受けない能力と、高威力の爆発を引き起こす能力だそうです」
「あ、ども」
二人のチート能力を教えてくれたのは、きっちりした正統派の美人OLという印象の女性だった。白いシャツに黒のジャケットがばっちり決まったスーツ姿。膝上のスカート丈が少し短く、下に履いたタイツがセクシーに見える。
「はじめまして、石落灯です。この二人は神庭霰ちゃんと霙ちゃんです」
灯の膝の上には小さな双子二人が並んで眠っていた。子供二人は揃ってモノクロカラーのフォーマルな上下を着用しており、生き写しのようにそっくりだ。
灯はその頭を愛おしそうに撫でる。先ほどのアダルトな雰囲気を漂わせていたペアに比べると、こちらの様子は微笑ましい。
「ども、廿楽花梨です。ひょっとしてこの二人も……」
「自殺しました」
灯は悲し気に目を伏せる。
「小さな子供が死んでしまうほど痛ましいことはありません。せめて異世界では幸せに暮らしてほしいものです」
「この子たちは灯さんの知り合いだったの?」
「いえ。ここで初めて会ったのですが、お世話しているうちに懐かれてしまって。それより、先ほどは失礼しました」
「先ほど?」
「私のチート能力は『建築』、好きな建物を一瞬で組み上げる能力です。この会場も練習がてら私が作ったのですが、もっと周囲の環境も整えておくべきでした。庭を作って整備しておけば虫が入ってくることも無かったでしょうから」
「ああ、そういうこと。別に大丈夫だよ。こんな綺麗な建物でパーティー出来て嬉しいな。もしかして建築家とかだった?」
「不動産会社に勤務していましたが、ただの事務職です。とはいえ仕事柄で色々な物件を見てきているので、思い浮かべるだけで建築できるチート能力を希望しました」
「なるほど。異世界で建築スキルとなると、広い家でスローライフみたいなイメージかな」
「そうですね。私は自分で作った理想の家でゆっくり過ごしたかったんです。何せ仕事ではタワマン最上階を扱ってるのに私の家は八畳ワンルーム、エアコンは二年前から壊れてるのに大家は修理しないし隣のヤンキーはいちいち集まってうるさい割にこっちの音には敏感だし横の中華が杜撰な管理してるせいで風呂にネズミが……」
「あはは……大変だったんだね」
「はっ……失礼しました。だから私のチート能力は戦闘向きではありませんし、この子たちの面倒を見てあげたりするのもいいかなとも思っています。きっと私と同じで辛い人生を送ってきたでしょうから」
「この子たちもチート能力があるの?」
「ええ。『動物使役』と『植物使役』、動物や植物と意志を通わせる能力です」
「へえ、スローライフでゆったり暮らすのにはちょうど良さそうだね。その能力なら食糧にも困らなさそうだし」
「そうですね。この子たちも同じ世界に送る想定のようですが、私も保護者として一緒に転移できるかどうかは女神の判断待ちというところです」
「いいなあ。灯さんが作った超広い家で皆で仲良く暮らせたらいいのに」
「皆というのは、十二人全員ということですか?」
「もちろん。だってこんなに凄い能力を持ってる転移者がたくさんいるんだよ。『蘇生』、『反射』、『身体強化』、『創造』、『模倣』、『即死』、『龍変化』、『無敵』、『爆発』、『建築』、『動物使役』、『植物使役』。これだけいれば何でもできるだろうし、皆で一緒に暮らしたら絶対楽しいと思うんだけど……」
花梨は天井を見上げて夢想する。
まず十二人が住む広い家を灯が『建築』で作って、食料は霰と霙の『植物使役』と『動物使役』で確保する。『龍変化』の龍魅がいれば他の幻想生物とも交流できるかもしれない。
安全面も理李の『反射』や涼の『無敵』があれば当面は大丈夫だろう。もし本格的な戦いになったとしても小百合の『身体強化』や切華の『創造』は白兵戦では敵なしだろうし、穏乃の『爆発』でまとめて吹き飛ばすこともできる。
それでもいざというときは月夜の出番かもしれない。『即死』で誰でも殺してしまえばいいというわけではないにせよ、強力な抑止力にはなるだろう。イレギュラーな能力を持つ敵が現れたとしても撫子の『模倣』でフォローが効く。
そして何より、花梨の隣には『蘇生』で蘇った姉が笑っているのだ。花梨が困っていれば姉は何でも解決してくれる。
しかし、そんな甘い妄想は部屋の中央に扉が開いたことで中断された。
片手を立てて申し訳なさそうな顔をした女神が顔を出す。
「ごっめーん……そのぉ、想定より人数が多すぎてぇ……実は異世界の数もけっこうギリギリでぇ……送れる異世界が一個しかなくなっちゃったっていうか……」
急な変更に会場がざわめく。
しかし世界が一つしかないということは全員が同じ世界で暮らせるということで、花梨にとっては願ったり叶ったりではないか。
一瞬喜びかけたのも束の間、続く言葉はその期待を裏切るものだった。
「あと、転移する権利も三枠しか取れなかったのよね。いや、けっこう粘ったんだけどぉ……あっでも、フォローはちゃんとするから安心してね、損することは絶対無いようにするから。とりあえず巻き戻しと再対応をしようと思うのよね。悪いけどそういうことで、あとは諸々よろしくね、AA!」
一気に早口で喋り切ると女神は手を叩く。あたりが急に暗くなっていき、照明が落ちたのかと思ったが違った。
薄くなっていくのは花梨の意識だった。強制的に眠らされるように意識が遠のいていく。




