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第60話:根暗陰キャは異世界で友達を増やしたいようです・7

「何が起きている?」


 理李は川に水没したトラックに駆け寄った。

 協力者がいたのかと思ったが、運転席は空だ。となると無人トラックがいきなり宙を舞って切華を轢き殺し、勢いのまま川に突っ込んだとしか考えられない。それもアクセルを踏んだだけで到達するスピードを遥かに越えて。

 常識を超える事態、ならばチート能力しかない。恐らくは撫子が『模倣(コピー)』でコピーした何か。だが、まさか二十五分前と全く同じ問いを再び発するとは思わなかった。


「これはいったい誰の能力だ?」


 念動力系のチート能力者は故人を含めて一人もいなかったはずだ。

 結局のところ、この争奪戦は最終的にはトラックに轢かれて死ぬことが勝利条件となる。もしトラックを自由に操るようなチート能力があれば最大の脅威になるが、そんなものは存在しないと高を括っていた。

 その前提が崩れた。何か見落としている。

 思い出せ。撫子が把握していて理李が把握していない情報などあるはずがない。必要な情報は全てAAが共有しているからだ。AAサーバーの内容を全て頭から正確に思い出す。


「あ」


 ようやく答えに思い至り、理李は膝を打った。

 思考の死角だ。これはAAが共有した情報というよりは、むしろその前提条件。ただ一つだけ転移候補以外が持つチート能力、そして最初からずっと発動していたために却って意識から抜けていたもの。


「AAの『操作(マニピュレート)』かよ!」

「正解。AAがdiscordの管理に使っていたチート能力、『操作(マニピュレート)』をコピーしたわ。機械や機構全般を(・・・・・・・・)任意に操作する能力(・・・・・・・・・)はトラックの内部機構も対象に入ってる」


 撫子が指先をくるくると回した。コピーした『操作(マニピュレート)』が発動し、堤防上の国道から立て続けに爆発音が響く。

 AAが万天時計の上から河川敷に飛び降りてきた。僅かに目を見開き、あのAAが驚きを顔に浮かべている。


「いかにチート能力『模倣(コピー)』でも天使の能力はコピー出来ないはずです。認識も概念も違う別種族の模倣など出来るはずがありません」

「確かに天使の権能は全くコピーできなかったわ、概念翼とか聴域展開とか万天時計はね。でも『操作(マニピュレート)』だけは、あなたじゃなくてかつて転移者の一人に付与されたチート能力でしょう。私が模倣したのはもともと『操作(マニピュレート)』を望んだ名前も知らない転移者」

「見たことも聞いたこともない相手の内面を完全に把握できるというのですか?」

「意外と人類の理解が浅いのね、それが出来るから私は天才子役だったわけよ。幸い、discordで『操作(マニピュレート)』の動作を見る機会は何度もあったし、総当たりで演技してみればいいだけだわ。人の思いの痕跡を示すものなんていくらでもあるもの、タップから更新までのラグ時間とか箇条書きを出すときの空白の位置とかね」


 撫子がこの策を思い付いたのは自然公園の駐車場で檻を解体したときだ。

 あのときは姫裏が『契約(コントラクト)』を経由して発動した『建築(ビルド)』の痕跡から灯の願いを抽出した。それが出来るなら、AAが発動した『操作(マニピュレート)』の痕跡から『操作(マニピュレート)』を欲した願いをシミュレートすることも不可能ではない。撫子は『操作(マニピュレート)』を欲したのが時計職人の家に生まれた少女であることまで正しく看破していた。


「だからこれでもう終わり」


 撫子が指を鳴らすたびに街に響く爆発音は大きくなる一方だ。

 この河川敷どころではない。遥か遠く向こうまで、夜の静寂を全て吹き飛ばして悲鳴と轟音が響き渡る。


「半径五キロ以内にあるトラックのエンジンを全て爆破したわ。残り八分でトラックに轢かれる方法はもう無い」

「それじゃあお前も……」

「私も異世界転移は諦めたわ。この三日間はすごく楽しかったし、まだこっちの世界で色々やってもいいかなって。正直二枠も余ってるのは勿体ないと思っているし、あなたたちのことも嫌いじゃないから二人くらい轢いてあげたいのは山々なんだけど……でも変に親切心を出して四人以上を轢いちゃったら本末転倒だものね」


 撫子は小さく呻き、その場に大の字になって倒れた。

 これで全て終わった。安堵で気が緩むと共に体力と疲労の限界が襲い来る。今まで気力で抑え込んでいた、小百合に撃ち抜かれた足の痛みがいよいよ鋭く響き始める。

 理李は片膝を立てて撫子の前に座った。


「やられたよ、完敗だ。トラックが走らないんじゃ仕方ない。あっけない気もするが、これで終わりか。まあ別にこれはデスゲームじゃないし、転移しなくても死ぬわけでもない。明日はまたここでお疲れ様のバーベキューでもするか」

「そうね……ところで悪いんだけど、救急車を呼んで貰えるかしら? 足が痛くて動けないわ」

「もっと確実に治す方法がある。私のチート能力をコピーして使うといい、あと七分くらいは使えるはずだから」

「ありがとう。親切ね」

「別に恨みがあるわけじゃないんだ、お互いに。もう決着が付いてしまった以上、チート能力の余りで人助けでもした方が寝覚めもいいさ。それで『模倣(コピー)』で能力をコピーするためには私が能力内容を説明すればいいのか?」

「そうね。嫌じゃなければ、チート能力を願った理由とかエピソードとかあると嬉しいわ。私の『模倣(コピー)』は他人を能力ごと模倣して演じる能力だから」

「わかった。恥の多い身の上を話してやるからよく聞けよ。まず、私の本当のチート能力は『反射(カウンター)』ではない」

「それは知ってるわ。本当は『治癒(ヒール)』あたりでしょう?」

「違う」


 理李は鋭く尖った小石を握り、自らの手の平に当てて素早く引いた。肌を裂いた赤い線から血が滲み出す。


「私の本当のチート能力は『加速(アクセル)』、体内時計を加速させる能力だ。とにかくクロックを上げること、それが私の願いの全てだった」

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