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第53話:車椅子少女は異世界でドラゴンに乗って飛び回るようです・8

「……すごい」


 相対する霙も息を荒くしていた。

 傍から見ていても、切華の動きは人間業とは思えなかった。目にも止まらぬスピードで刀を出し入れし、無理やり姿勢を入れ替えてバグを起こしたような挙動で全てを切り伏せていく。まるでゲームの世界だ。

 霙の身体にも動物たちと同調した興奮が伝わってくる。動物たちは切華と嫌々戦っているわけでは全くない。それどころか、種族を超えた群れの意志は明らかに歓喜していた。


「楽しいね、みんな」


 三日前、女神にチート能力動物使役(テイマー)を願ったときは「動物たちとずっと楽しく暮らしたい」と思っていた。動物が大好きだから、邸宅の狭い庭ではなく異世界のもっと広い森や草原でもっとたくさんの獣と触れ合いたいと思っていた。

 だが、今になってはっきりわかる。その願いは的を外していた。

 本当に疼いていたのは、もっと原始的な闘争本能。霙が動物と心を通わせるのは、生まれついての捕食者だから!

 今動物使役(テイマー)を介して霙に流れ込んでくるのはこの文明化した時代に行き場を失っていた熱量、言語になる前の野生の塊。突然現れた理外の敵を殺したくて仕方がないと誰もが切望していた。もちろん霙も。

 本当に霙の身体に馴染むのは獣との触れ合いではなく獣の殺意だ。それを教えてくれた切華には感謝の念すら覚えている。お返しに今すぐにでも殺してあげたい。

 しかし、一体一体の獣ではもはや切華には敵わない。切華は全ての動物への最適化を完了している。女神の祝福を受けて体力も無尽蔵に近く、このまま続けていても埒が明かない。

 霙も考える。こっちだって、もっともっと出来るはずだ。チート能力動物使役(テイマー)、動物と心を通わせる能力で。

 動物というのはどこまで? 心を通わせるというのはどこまで? 動物とは動く物に過ぎない。生きている動物、いや、まだ死んでいない動物はいくらでもいるはずだ。


「そうだ!」


 思い付いた。森から新しい獣を呼ぶよりもっといい方法がある。

 何も既存の種族にこだわる必要はない。『龍変化(ドラゴナイズ)』のように新たな動物を作り出すことはできなくても、組み合わせなら何とかできる。

 生命の残り香に話しかけるイメージを浮かべ、自分に言い聞かせる。まだ死んでいない肉はそういう動物なのだと。

 切華の背後で切り捨られた肉体の山が動いた。痙攣する臓器、血を垂れ流す肉片、機能を失った器官。まだ息のあるパーツを見つけ出して組み合わせ、めちゃくちゃに繋いでいく。

 切華は振りむき、新たな敵の出現に目を輝かせた。


「美しい!」

「まあ自信作」


 死体合成獣(ネクロキメラ)が断末魔の産声を上げた。

 それは全てであって、同時に何でもなかった。猪の身体、野犬の牙、大鷲の翼、栗鼠の尻尾、エトセトラエトセトラエトセトラ。切断された部位を全て無秩序に繋ぎ集めた生き物以前の、あるいは生き物以降の塊。あらゆる肉片を取り込んだ体長は五メートル以上もあり、大小さまざまな手足がいくつも伸びて地面を撫でた。

 合成獣が咆哮を上げる。無数に取り付いた獣の顔が同時に叫び、凄まじい不協和音を奏でる。ドラゴンの幻想たる美とは対極に位置する、自然そのものの醜悪を。

 獣の殺意を束にした命の冒涜が獣臭を吐き散らし、切華に向かって突進してくる。他の獣よりも圧倒的に速い、巨体のスピードを転がって危うく避ける。

 今までは量で攻めてきていたが、それがまとめて質に転化した。再びの突進をギリギリで避け、今度はすれ違い様に切りつけた。合成獣の結合は緩く、肉を切断することは難しくない。

 だが、合成獣に生命としての致命傷はもはや存在しない。あるとしたら物理的な運動喪失だけだ。しかし厄介なことに動きも不可解。筋肉が無秩序に繋ぎ合わされているせいで作動イメージが作れない。


「どこをどう切ったら死ぬんだ?」

「私にもわからない」


 何にせよ、やれることは切ることだけだ。

 動かなくなるまでひたすら切り続ける。シンプルでいい。相手の自由な肉体を、こちらも肉体を自由に使って切り刻む。

 切華は考える。まだまだ柔軟に切れるはずだ。今までは手にせよ足にせよ、刀を握るイメージしか持っていなかった。

 しかし実は握る必要すらないのではないか。「身体から刀を出す」という能力に「握る」という指定は含まれていない。実際、足先からでも出せた。遠隔では不可能だが、身体に接している限りはどこからでも出せる。

 合成獣に裏拳を撃ちながら手の甲から刀を繰り出した。拳骨で刀をねじ込む。握っていない刀は合成獣に突き刺さって手を離れてしまうが、即座に出し直せば関係ない。

 これだ。自分の身体ならどこからでも出せる。それが手でなくても、足でなくてもいい。例えば背中から出し、後ろ手に肘から打ち込む。肩から出して頭突きで打ち込む。刀を全身でコントロールするイメージで扱う。

 切華の身体は刀と融合し始めていた。もう刀を見てもいない。握る必要さえない。周囲全方位、どこからでも刀を出して叩き込める。もはや刀を振る剣術ではなく、『創造(クリエイト)』に最適化した切華だけの技術が完成しつつあった。

 遂に死体合成獣が倒れ伏したとき、血に染まった切華の全身はその一部のように見えた。


「ようやく完成した。これが拙の新世界だ」


 切華が霙に向き直ったとき、二羽の大鷲が霙の身体を掴んで低空に退避していた。

 戦いを間近で見ながら、霙は『創造(クリエイト)』の弱点を把握していた。切華の『創造(クリエイト)』で創造する刀は出現時点では常に身体に触れている必要がある。離れた空中に遠隔で出すことはできない。

 切華は霙を目がけて刀を投げ付けるが、大鷲が素早く動いて避ける。無限に供給できるとはいえ、直線にしか飛ばない刀の軌道予測は容易い。

 切華の背後で死体合成獣が再び産声を上げた。死の化身は一度退けたところで繋ぎ直せば再生する。この森では殺意も肉体もいくらでも供給できる。このまま空中に退避して死体合成獣を作り続ける。パッチワークで拡大を繰り返せば、いつかは押し潰せるときが来る。


「もう詰んでるけど、死ぬまでやるね。決闘だから」

「確かに飛ばれたら詰みであった。完成する前ならば」


 切華が手を打ち、『創造(クリエイト)』を発動する。

 霙の細い身体が刀に刺し貫かれた。注意していた正面からではない。背後に現れた刀が背中から腹へ貫通する。不可解な死角からの一撃。


「これで一本(・・)だ」


 刀の根元には切断された小指。

 この小指は切華自身のものだ。自分で自分の小指を切断し、刀の柄に留めて宙に投げ上げた。

 確かに『創造(クリエイト)』では刀は自分の身体からしか出せない。だったら身体の方を切り離せばいいだけだ。指一本を捨てれば遠隔で攻撃する飛び道具にできる。

 何本目かわからない刀を再創造し、地面に落下した霙に刀を突きつける。


「ありがとう。今までで君が一番強かった!」

「私も楽しかった。もう終わるの残念」


 霙も笑って見上げ、その首を一刀で飛ばした。

 能力者の死亡によって『動物使役(テイマー)』が失効し、合成獣が崩れ落ちる。繋ぎ合わされる根拠を失い、今度こそ肉塊でしかなくなる。余った肉片は大量の血を滴らせながらゲル状にのっぺりと広がった。

 背後から悲鳴が上がり、振り返ると花梨たち三人がいた。決闘の余韻を噛み締める暇もなく、撫子が切華に向かって駆け出していく。


「一時撤退! またあとで!」


 『模倣(コピー)』を発動し、今見たばかりの『動物使役(テイマー)』をコピーする。森から現れた大猪が撫子と切華を乗せて運び去っていった。

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