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第42話:異世界帰りの傭兵は現実世界でも無双するようです・3

【4/2 14:38】


 気付いたときには、小百合は龍魅の部屋にいた。

 毛羽立った絨毯の上でうつ伏せに倒れている。荒れた路地から誰かが揉める怒鳴り声が響いてくる。背中に差し込む午後の気怠い日差しが場違いに暖かい。

 どうやって帰ってきたのか思い出せない。涼たちを追いかけることは頭に無かった。切華たちがどうなったのかもわからない。

 部屋からはまだ龍魅の匂いがする。オリエンタルな部屋は家主を失った途端に妙に個性的に見えた。充実した気配と欠落した核心。趣味と人生が詰まった家具が却って本人の不在を声高に主張し、そこでようやく実感が湧いてきた。


「……死んだんだ」


 龍魅が死んだ。

 出会って二日足らずの仲ではあったが、これほど小百合に影響を与えた人間はいなかった。文化圏も考え方も全く違う人種。本来であれば一生交わらなかった相手と自殺した縁でたまたま出会った。

 たぶん龍魅は死なないと勘違いしていたのだと思う。経験豊富な龍魅が乗るのであれば大丈夫だ、危険ではあるが死ぬほどの事態ではない、裏社会はこんなものだ。龍魅の存在を支えにしてそんな安全バイアスを作っていた。きっとそういう担保無しで矢面に立つことに耐えられなかったのだろう。

 今にして思えば、龍魅はリスクを取ることに慣れていただけだ。積極的にリスクを取ることと、安全を妄信していることには天と地ほどの差がある。

 もっとよく考えるべきだったと思う一方、よく考えても自分が正しく判断することはできなかっただろうとも思う。

 後知恵ならぜんぶ簡単な話だ。涼たちと合流して合計四人になった時点でもっと慎重になるべきだった。途中までは協力できるということは、途中からは必ず裏切るということだ。その裏切りが円満である必要は無い。


「……」


 これからどうしよう。自分に残った手札は何だ。

 部屋を見回し、ふと部屋の隅にある小さな棚が目に入る。遺された人のために書き置きを入れておくもの。

 引き出しを開けると、一番上に大きなスマートフォンが置かれていた。龍魅が使っていたものとは違う、型落ちで古びた機種。手に取ってスリープを解除するとすぐに動画ファイルが再生された。

 日付は昨日の夜だ。画面の中の龍魅が話し始める。


「小百合かあ。これ見てるってこたあ、わしは死んだのかもしれんなあ。わしは喧嘩屋だからよお、絶対死なねえって感覚がねんだあ。死ぬの怖くて喧嘩あ出来ねえからよ。今日死ぬかもしれねえし、明日死ぬかもしれねえ。これはもう変わんねえや。でもなあ、あんたまでそうなる必要はねえよ。あんたん戦うんに向いてねえ」


 いつものように怒った口調で捲し立てるように喋る。中庭で撮っているのだろう、その背後で光る星が綺麗だ。

 あっという間にシークバーが半分を過ぎ、小百合は泣きそうな気持ちになる。この動画が全て流れたら、もう龍魅の痕跡がなくなってしまうから。


「あんたん能力つええ割に戦いがぱっとしねえのは、悪いことじゃねえ。良いことなんだあ、それを忘れんなよ。もしわしだけ死んであんたん生きてたら隠れとった方がええ。誰とも戦わねえで待っとけ。あんたんやる必要はねえよ、誰も悪くもねえ、こんな戦いはよお」


 動画はそこで終わった。

 頭を締め付けていた負い目が急速に消えていく。龍魅は自分の責任で戦っていたし、小百合がやるべきことも自分で決めていい。


「ごめんなさい。それは無理です」


 小百合は立ち上がった。

 確かに小百合は戦いに向いていない。そして誰も憎み合っているわけではない。席には限りがある中、皆が同じように転移したいだけだ。騙されたのも自分の力不足でしかない。それはわかっている。

 それでも涼と穏乃は殺す。龍魅を殺した相手を放っておくことはできない。

 迷いはない。感情に突き動かされるでもなく、身体が先走るでもなく、理性と身体が一致している。落ち着いたままで意志が統合されているのがわかる。


「龍魅さん、これが殺意なんですか?」


 答えてくれる住人はもうこの部屋にはいない。

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