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第3話:厨二病少女は最強能力で異世界を支配するようです・1

「おめでっとーございまーっす!」


 景気の良いクラッカー音。そして花梨の頭に降り注ぐ花びらと色とりどりのリボン。

 絶世の美女が満面の笑みで万歳していた。優しくウェーブがかかった輝く金髪、そして胸もお尻も大きく豊満な体型を覆う白いシースルー。傷一つない白く滑らかな肌を惜しげもなく晒して全身が輝いているように見える、と思ったら本当に白い光を放っていた。

 その背後には、クラッカーの紐を引いた状態で静止した仏頂面の女性が控えている。こちらは打って変わって露出の少ない格好だ。パリッとした黒いジャケットにネクタイを締めて手袋まで着用している。長い銀髪が神々しく、整った睫毛の下には切れ長の目が光る男装の麗人。頭には丸く輝くリングが浮き、背中には大きく白い柔らかそうな羽根が生えていた。


「あー、ひょっとして女神様と天使様だ?」

「イエース、アイアム女神様。こっちは補佐役の天使、AA。そしてここは天国、英語でヘブン」


 女神はその場でくるりと回ってウィンクを飛ばした。嗅いだこともない香しい花の芳香が薄くふわりと漂う。AAと呼ばれた天使は黙ったままで微動だにしない。

 天国と言われて思わず周りを見渡す。とても広々とした空間だ。壁も床も天井も一様に白いのでどこに境界があるのかよくわからない。ところどころに白く四角いキューブが浮遊し、時折回転して無機質な空間にトポロジカルな彩りを添えていた。


「そしてあなたが異世界転移者、改めておめでとーう」

「おおお……ひょっとしてこれって超ラッキーなやつ? 抽選で引き当てた感じ?」

「いいえ? 四月一日零時にトラックに轢かれて死んだ人は誰でも漏れなく異世界転移できるわ。そういう噂だったでしょ」

「あ、あの噂って本当だったんだ」

「そう、あれを流したのは私。運も実力のうちっていう見方もなくはないけれど、やっぱり異世界転移は立派な主人公体質の人にしてほしいものね」

「立派な主人公体質って、トラックに轢かれて死ぬことが?」

「もちろん。だって、あなたは自分の願いを救うために道路に向かって一歩踏み出したんでしょう。それって溺れた子供を救うために川に飛び込むのと何か違う? あなたは強い意志でやるべきことをやれる人間、勇気とガッツに溢れた素晴らしい存在。もし現世で上手くいかないことがあったとしたら、たまたま星の巡りが悪かっただけ。だから異世界で仕切り直して今度こそあなたらしい素敵な人生を送るべきだわ、あなたに合ったチート能力と一緒にね。例の噂はそんな立派で強い人間を集めるリクルート告知みたいなものね。細かい説明はよろしくね、AA」

「承知しました」


 AAが初めて口を開いた。その口調は見た目通りに堅く、声も低くてハスキーだ。

 AAは背中に手を伸ばし、羽根のあたりからタブレットを取り出した。モニターには宇宙に浮かぶ星々のような画像が映っている。


「私たちの仕事は無数の異世界を管理して発展させることです。しかし全ての異世界に私たちがいちいち介入していては、手間がかかりすぎるしバリエーションにも乏しくなってしまいます。そこで、チート能力を持った人物を送り込んで活躍して頂くことにしているのです」

「活躍って、悪の魔王を倒して英雄になるみたいなこと?」

「もちろんそれでも構いませんし、他の活躍でも構いません。世界を支配しても良し、お金を稼いでも良し、ハーレムを築いても良し。結局のところ、世界を最も大きく動かすのは誰か一人の強い欲望なのです。内容はそれほど重要ではありません。チート能力を持った人間が周囲に大きな影響を及ぼすことで、世界の技術や文化や制度も大きく発展します」

「そう、異世界転移者は世界の種火なの。本当に何をしてもいいのよ。一人だけサブマシンガンや対人戦車を持ち込んで棍棒とか松明を振り回してる雑魚を木端微塵に粉砕してもいいし、○×ゲームの必勝法を知ってるだけで世界を支配できるレベルの薄っぺらい頭脳戦を繰り広げてもいいし、飛び抜けて容姿が良い割には何故かちょっと助けられたくらいで猛烈な好意を寄せるヒロインたちを集めて洗脳まがいのハーレムを作ってもいいし、複雑な利害関係は何一つ考慮せずに表面的な正義感だけで練り上げた幼稚なお説教で畜生にも劣る倫理観の敵を気持ちよく論破してもいいのよ。あなたが何をしてもお人形遊びとか精神年齢小学生とか陰キャの妄想とか馬鹿にする人は誰もいないし、批評家も高二病患者も冷笑主義者も気にしなくていいわ。あなたの願いを叶えるチート能力を私が何でもあげるから、あなたの意志でそれを使いまくってほしいの」


 女神は一息に語ると真面目な顔で花梨に向き直った。くすみ一つなく鮮やかに輝く瞳が花梨の目を捉える。


「あなたは何を望むの? あなたの幸福の形は何? それを叶えるために必要なチート能力はどんなもの? よく考えて教えてね。私が何でも叶えてあげる」


 聞かれるまでもなかった。花梨の答えは既に決まっている。


「元気なお姉ちゃんにもう一度会いたい! お姉ちゃんと一緒に幸せに暮らしたい、それが私の願い。そのために必要なチート能力は……えーっと、なんか超回復魔法とか?」

「それでいけそうかどうか、きちんと確認しておきましょう。とりあえずお姉さんについて調べてみるから、ちょっと貸して、AA?」


 女神はAAから受け取ったタブレットを三回ほどタップして顎を抑える。


「ふんふん、ちょうど一年前から植物状態なのね。死んではいないみたいだけど」

「病院の先生が言うにはもう回復の見込みは無いらしくて」

「確かにそうみたいねえ。身体にもう魂が残っていないし、治療してどうこうなるものじゃないわ」

「そんな、だってチート能力で何でも叶えてあげるって、さっき」

「あら、勘違いされたら困るわ。私に出来ないことは無いのよ。このケースだと魂自体を入れ直す必要があるから、治療じゃなくて蘇生の管轄になるってだけ。じゃ、あなたのチート能力は『蘇生(リザレクション)』でいいかしらね」

「それでお姉ちゃんが復活するなら!」

「きちんとあなたの口から言ってみて。あなたの願いを聞いて私が叶える、それが一番大事なことなの。さあ、あなたが欲しいチート能力は何?」

「私は……『お姉ちゃんを(・・・・・・)蘇生する能力(・・・・・・)』が欲しい」

「わかったわ」


 女神の指先が花梨の額に軽く触れた。

 細くてしなやかなのに、タッチするだけで言葉にできない圧倒が身体を包む。重くも熱くもなく、ただひたすらに崇高。神の威光を身体で感じる。


「女神の名において、チート能力『蘇生(リザレクション)』を与えます」


 指を通じて女神の力が流れ込んでくる。

 それは異物ではあるが、身体が拒否するものではない。頭を中心に内側から暖かく全身を包み込むように自然に浸透していく。まるで額からごくごくと甘い珈琲を飲んでいるような。

 僅かに視界が光る。その輝きが収まった頃には、確かにチート能力『蘇生(リザレクション)』がその身に宿ったことを理解していた。いまや手足を動かすのと同じくらい当たり前にそういう能力を行使できることがわかる。


「ありがとう。……夢みたい、本当に願いが叶うなんて」

「どういたしまして。さっきも言った通り、私にとってもウィンウィンなのよ。あなたがチート能力を使って異世界でお姉さんと楽しく暮らしてくれればそれでオッケー」

「楽しく暮らすだけでいいの? その、さっき言ってたみたいな、文明を進めたりとか、技術を発展させるつもりって正直あんまり無いんだけど」

「全然いいわ。別に物質的なものばかりが発展でもないしね。あなたって明るくて太陽みたいな顔をしてるもの、きっとどこかのどかな村でお姉さんと一緒にゆるふわ暮らしてるうちに色々な人が集まってきて大きな村になるわ。幸せな人はそこにいるだけで周りを幸せにするものだから」

「えへ」

「そうそう、あと体力とか健康状態もめちゃめちゃバフしておくわね。せっかくチート能力があってもすぐ病気とか怪我で死んじゃったら悲しいものね。地球で一番強くて元気な人くらいのステータスにしておいてあげる」


 再び女神の指先が両肩を撫でた。今度は暖かい奔流が四肢の隅々にまで流れて力がみなぎっていく。

 試しに軽くジャンプしてみると優に一メートルは飛び上がる。身体全体の調子がすこぶる良く、全身を思ったように動かせる確信がある。三回も飛ぶ頃にはその場でバク宙まで出来てしまった。


「うわ、すごい」

「気に入ってくれたみたいで良かったわ。さて、あなたで最後だから、これで全員ね」

「全員?」

「ああ、言ってなかったかしら。あなたと同じように噂を信じて自殺した人が全部で十二人いるのよ。もちろん全員に願いを叶えるためのチート能力も与えてあるわ」

「そんなにいるんだ。多くない?」

「毎年場所を変えてやってるけど、確かにふつうは一人か二人くらいよね。まあでも、別に全然問題ないわ。私はまとめて確認と手続きをしてくるから、パーティールームでゆっくり休んでて。他の皆もいるし、能力とか今後の抱負とか色々話しておくといいかもね。異世界で活躍する参考になるだろうし。それじゃ後はよろしく、AA」

「承知しました」


 女神が背を向けて一歩踏み出す。

 眼前の空間がいきなり四角く切り取られ、引き戸のように横にスライドして開いた。そのままどこか別の空間へと歩き去っていく足取りは素早い。話している限りはほわほわした印象だったが、女神ともなるとけっこう忙しかったりするのかもしれない。

 代わりにAAが花梨に向き直った。AAの手が宙を弾いて横に払うと、やはり空間がスライドして扉が現れる。


「どうぞこちらへ」

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