第38話:百合カップルは異世界でもドロドロ共依存しているようです・10
脅しではない。純粋な疑問だ。お前は今から殺される身で何を訳のわからないことを悠長に確認しているのだと。
確かにな、と切華は自省する。一方的に優位な状況ばかりが続いていて、自分はこの戦いを殺すか殺さないかの二択だと勘違いしかけていたかもしれない。相手は子供でもチート能力者、常に殺される可能性もあるのが本来の決闘だ。
気を引き締め直し、改めて霙の姿を見据えた。その立ち姿は至って平静、ふと街中で立ち止まったような自然体で切華を見ていた。目も身体も全く力んでいない。刀を構えた人間を前にして高揚も動揺もない。
こういう人間は総じて強い。感情の動きとは無関係にやるべきことをやれるタイプの人間だ。これは後天的に身に付くものではない、先天的な素養であることを切華は知っている。
心臓が脈動する。霙には殺す意志がある。自分も死を覚悟した殺意を持つ。今初めて戦力を備えた者と正面から相対している。まさか最初の殺し合いが子供相手だとは思わなかった。
切華は刀を構え直した。ここから先は決闘だ。
「さあ始めよう」
「あっ、まだ始まってなかった?」
霙は既に立てた腕を振り出していた。チート能力『動物使役』、動物と心を通わせる能力が発動する。
背後の森から三匹の野犬が飛び出してきた。目を血走らせ、涎をまき散らして切華に向かってくる。鋭い牙と爪は明らかに切華の急所を狙っている。
「それはもう見た」
切華は腰を深く落とした。膝と足を曲げて獣に合わせて姿勢を調整する。野犬の動き自体は直線的だ。
目標が動いているのだから、こちらから大きく切りかかる必要は無い。走る軌道を見極めて適切な場所に刀身を置いておくイメージ。先頭の一匹が大きな口を開けて飛びかかってきたタイミングで『創造』を発動する。顎から脳天に刀が突き抜けた。
貫通した瞬間に刀を消して次の一匹に備える。いつでもどこでも刀を出し入れできる『創造』なら、複数匹相手でも刀の取り回しを考えなくていい。二匹目は喉の奥まで突き刺し、三匹目は低くステップしながら腹の横から両断する。血と臓物が地面に垂れた。
野犬の群れを捌いた瞬間、更に巨大な獣が突進してくるのが目に入った。
「大猪!」
犬とは比べ物にならないサイズと速度を兼ね揃えた野獣。
素早い突進を低い姿勢で辛うじて転がりながら避けるが、切り返しが早い。再び走ってくる巨体に対し、腕を前に伸ばして何とか刀を突き刺す。しかし厚い脂肪に阻まれて致命傷を与えられないどころか、刀から衝撃を受けて地面に転がるのは切華の方だ。
手強い相手だ。切華は獣にはそれほど詳しくない、考える時間も足りない。試行錯誤しながら色々な攻撃を試すしかないが、最後まで立っているのが自分かどうかは怪しいところだ。
大猪が三度目の突進を仕掛けてきたとき、眼前を鋭い炎が横切った。猪が急ブレーキで足を止め、切華も火元を見る。
数十メートル向こうで撫子が口から黒煙を吐いていた。『建築』を解除し、代わりに『龍変化』をコピーして発動したのだ。
「こっちは駄目そう。建築合戦に霰ちゃんが参加してきて、二対一になったら押し切られちゃう」
いつの間にか、要塞は膨大な植物群に覆われていた。
霰の『植物使役』、植物と心を通わせる能力が発動している。霰が腕を振るごとに地面から太い蔦やら曲がりくねった豆の木やらが凄まじいスピードで伸びていく。柔軟な生きた素材が鋼鉄に絡み付き、一切の隙間がない堅牢な要塞を再構築する。
灯と霰の二人がかりによる建築。出力に倍の差が付き、撫子一人の『模倣』ではどちらをコピーしたところで木々混じりの築城を止められない。一度にコピーできる能力は一つだけだ。
この森全てが双子の味方だった。『植物使役』が無限の防御を、『動物使役』が無限の攻撃を供給する。
「これは無理ね、いったん撤退。籠城が売りだし深くは追ってはこないでしょう」
「応。こちらもちょっとやそっとで倒せる相手ではない」
「楽しそうね、切華」
「応。霙はいい戦士だ。いずれまた再戦したい」
長らく忘れていた煮え滾る熱を胸に宿し、切華は撫子と共に森に向かって走り出した。




