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第37話:百合カップルは異世界でもドロドロ共依存しているようです・9

【4/2 08:20】


 撫子は片膝を立ててしゃがみ、地面に手を付いた。灯の『建築(ビルド)』発動時と同じ体勢だ。

 能力をコピーするにあたって動きを真似ること自体はそれほど重要ではないが、演じるにはとりあえず形から入るのが一番良い。

 昨日見た動画を思い出す。灯はどこにどう力を込めていたか、足はどのくらい開いていたか。灯の動きの一つ一つから執着を読み取る。灯が『建築(ビルド)』に込めた願い、平穏なスローライフを送りたいという気持ち。

 注目すべき点として、灯は壁を広げるよりも閉じる傾向があった。その根底にあるのは世界を広げていくようなポジティブな意志ではなく、どちらかと言えば何かを閉じ込めようとするネガティブな意志。攻めるよりは守るタイプ、橋よりは柵を作るタイプ。その欲望の動きをトレースする。

 そうして作った自分の中でのイメージを、目の前に建つ実際の要塞とすり合わせていく。どこをどの順番で建てたのか、中央の壁は何重になっているのか、直観的に作った部分はどこか、悩みが見て取れる部分はどこか。


「うん、こんな感じかしら」


 理解がすとんと噛み合った。チート能力『模倣(コピー)』が発動し、『建築(ビルド)』をコピーする。

 要塞の外壁が逆再生のようにみるみる地中に戻っていく。『建築(ビルド)』はただ建てるだけではなく、建て替えや解体にも対応している。何事も作るのには手間がかかるが壊すのは一瞬だ。

 『建築(ビルド)』によって作られた建造物や設備の全てが頭に流れ込んでくる。埋まっている地雷の位置、レーザーの方向、要塞の内部構造。その全てを急激に解体していく。地雷は地中で分解されて金属片にまで戻る。レーザー砲台は一気に砕け散った。要塞は外壁をパージして中身が露わになる。

 要塞の中には地面に手を付いている灯の姿があった。撫子の観察眼がその姿をロックオンする。やはり自分の目で相手を直接見るのが一番『模倣(コピー)』の参考になる。

 灯の隣には柱に寄り掛かって立つ姫裏がいた。姫裏が『契約(コントラクト)』を持ちかける営業に来ているのはそれほど不自然ではない。戦う素振りが無いあたり恐らくまだ共闘の契約は結ばれておらず、姫裏はこの戦いには介入しないはずだ。

 念のため、切華が大声で姫裏に呼び掛ける。


「ここにも営業に来ていたのであるな。灯さんとの『契約(コントラクト)』は成立したか?」

「いえ、説明のみ済ませた状態で保留しています。今のわたくしは中立です、AAではありませんが」

「拙らが其方を攻撃しない限りだろう?」

「そうですね、わたくしとて身にかかる火の粉は払いますので。ちなみに、わたくしとしては契約相手はあなた方でも構いませんよ。どちら様方も説明は既に済んでおりますし、戦局不利と見ればいつでも契約を結んで頂いて構いません。ただ、早いもの勝ちになることは御留意くださいませ」

「営業上手なことだ。傭兵は戦場が一番儲かるとでも?」

「全く仰る通り。お褒めに預かり光栄です」


 切華と姫裏が言葉を交わしている間に、撫子と灯の間では無数の建材が交錯していた。お互いに地面に手を付いて『建築(ビルド)』を発動している。

 灯が建てようとし、そのたびに撫子が崩す応酬だ。建設速度と解体速度は完全に拮抗している。お互いにどこで何をしようとしているかが手に取るようにわかる。灯が十センチの壁をせり上げる間に撫子は十センチの壁を解体する。

 しかし初手で撫子が外壁を崩すところまではもう既に通ってしまっている。その状態から拮抗しているということは、要塞は概ね崩壊した状態が保たれているということだ。壁も罠ももう機能していない。

 だから切華はただ進んでいくだけでいい。ただ数十メートルをすたすたと進み、あっという間に灯のそばに到達した。

 切華が来ていることは灯にもわかっているが、そちらに対応する余裕が全くない。撫子との建築合戦から少しでも気を抜けば双子が隠れているシェルターまで破られてしまう。


「一応確認するが、諦める気はあるか?」


 言いながら、切華は軽く溜め息を吐いた。

 相手に交戦意志があるとはいえ、他の戦いに手いっぱいで抵抗できない相手を一方的に殺すのはやはり卑怯だろう。月夜のときといい、どうにも嫌な戦いばかりさせられている。強者との正々堂々とした決闘という理想は思っていたよりも夢物語なのかもしれない。


「拙も無闇に殺したくはない。投降するなら残り二日は拘束するだけで済ませる」


 灯は無言で睨み返すだけだ。それで十分だった。


「悪いな」


 刀を振り上げた。灯は地面に手を付いているために頭を垂れるような格好になっている。このまま振り下ろして首を刎ねればそれで終わり。まるで介錯のように。


「!」


 そのとき、切華は誰かが頭上で刀を掴んだのかと思った。

 巨人か何かが指先で刀を摘まんでいるイメージが頭に走る。振り上げた刀が真上に強く引き上げられるという経験のない事態は、そんなファンタジックな想像を生じさせるほど予想外だった。

 刀から手を放して見上げると、頭上に二羽の大鷲が飛んでいた。太い鉤爪が刀を力強く掴んで奪い取り、手の届かない上空に逃げていく。

 改めて刀を再創造したとき、すぐ目の前に野犬が迫ってきていた。足の隅々にまで太い筋肉が詰まった野生の身体が突進してくる。

 素早く横にステップして避けながら切りつけるが、体表を浅く切るのが精々だ。人間とは高さもスピードも違いすぎる。鳥と獣に対応しているうちに、気付けば灯から何メートルも離されていた。


「やはり来たか」


 切華の目の前に立ち塞がるのは霙だ。大鷲二匹と野犬が小さな身体の傍に舞い戻る。

 双子が参戦してくることは予想の範囲内だ。匿っていることは涼から聞いていたし、最初から戦力として数えている。戦意があるなら子供だからといって容赦はしないつもりだ。


「一応確認するが、諦める気はあるか? 拙も無闇に殺したくは……」

「えっ、なんで殺す側?」


 切華の確認を心底意外そうな霙の声が遮った。

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