第35話:百合カップルは異世界でもドロドロ共依存しているようです・7
【4/2 08:06】
「怪我はありませんか?」
「ない」
「二人とも?」
「そう」
「要塞は無事ですか?」
「無事じゃないけど直した」
小百合たちの襲撃以降も、霰と霙のSwitchにはメッセージが送られ続けている。匿名のメッセージはしきりに双子を心配していたが、二人は特に傷ついていない。破壊された要塞も灯がすぐに修繕した。
昨日までの二人ならこれで一件落着とスプラトゥーンに戻ったところだが、今日は違う。
灯一人では全然大丈夫ではないことを認識したからだ。小百合と龍魅が攻めてきて、灯がギリギリまで追い詰められているところを目撃した。小百合と龍魅も勝手に帰っただけで撃退に成功したわけではない。昨日のような襲撃はきっとこれからもあるだろう。何か対策を講じなければ同じことが繰り返される。
二人は「どうすればいいと思うか」と匿名アカウントに聞いてみた。身を案じている割には「共に戦いなさい」というメッセージが返ってくる。やっぱりそうだよね、と二人は頷いた。
結局のところは戦うしかない。これは応援するだけでどうにかなるような話ではないから。戦わなければ死ぬが、戦えばチャンスがある。一度そう確信すれば、縮こまって怯えるほど子供ではない。
霰と霙だって自らトラックの前に身体を投げ出せる人種なのだ。根本的に。
だから双子は朝から灯に付き纏い続けていた。
「私たちも戦えるよ」
「灯さん一人じゃ危ない」
「鷲も犬も森にいるし」
「蔓も茨も伸びてた」
ぐいぐい迫ってくる双子に対して灯は頭を抱えていた。
霰と霙は朝からずっとこの調子だ。灯と要塞の危機を認識し、共に戦おうとしてくれている。
しかし灯にとってそれは嬉しいどころか頭の痛い事態でしかない。怯えて引きこもって恐怖に震えてくれた方がまだ良かった。
「ダメ。危ないから、そっちでゲームしててね」
「できないよ。灯さん一人じゃダメなのに」
「ごめんね、昨日はちょっと失敗しちゃったけど次は大丈夫だから」
「またドラゴンが来ても?」
「うん。ちゃんと言うこと聞いてくれたら今日の夕食は美味しいもの作るから」
灯は努めて笑顔を作ってなんとか押しとどめようとするが、大人らしい説得も叱責もどうにも出来ずに困り果てる。
実際のところ、二人の認識は何も間違っていないからだ。危機を招いた原因は灯の力不足でしかないし、別に全然大丈夫ではない。そして双子が協力すれば多少なりとも状況が好転するのも間違いない。
『植物使役』『動物使役』の発動を灯が初めて見たのは要塞を建て直しているときだった。灯が作業する傍ら二人をその辺で遊ばせていると、双子は森の動植物を相手にチート能力を発動していた。
霰が『植物使役』を発動すると地面から丸太のように太い幹や蔦がボコボコといくつも伸び、霙が『動物使役』を発動すると大小何匹もの動物が集まってきた。小さいものはリスから、大きなものは猪まで。間近で見ると二人のチート能力は想像していたよりも強力だった。単純に動員できる生物の質と量がずば抜けている。
そして自然と笑顔で戯れる二人の姿は天使のように愛らしく、灯はしばし手を止めて見惚れてしまった。それは灯に向けるものとはまた違う満面の笑み。あの表情を見てしまうと、チート能力を使えない環境に戻そうとしていることへの罪悪感も浮かんでくる。
「わたくしもおりますから、戦力は心配しなくても大丈夫ですよ」
助け舟を出したのは姫裏だ。姫裏は灯の背後でハンモックに乗って揺れている。
彼女がここを訪れたのは昨晩深夜のことだ。ようやく要塞の再建を終えて就寝しようというとき、姫裏が現れて今夜は泊めてくれないかという。
もちろん灯は最大の警戒を伴って応じたが、結局は「要塞の敷地内では誰も攻撃できない」という契約を四者で結んで一晩泊めることになった。姫裏はちょっとした合間に双子たちと軽く打ち解け、灯に対しては共闘時の契約内容について詳細な説明を済ませた。
つまり、今は回答を保留している状態だ。灯がチート能力『建築』の移譲を含む全面委任契約に応じるか否か。
「今はわたくしたちに協力して安全なところで待っていてくれると嬉しいです」
それでもまだ双子は不服そうにしていたが、相手が大人二人となると子供二人では分が悪い。渋々ではあるが、一旦は要塞内部に新しく作ったシェルターの中になんとか帰っていった。
二人の背中を見送り、溜め息を吐く灯。姫裏が仰向けのままで揶揄うようにハンモックを揺らした。
「子供が好きな割には扱いが素人ですね。妹や弟はいなかったのですか?」
「残念ながら」
「十歳はもう物につられて騙される年齢ではないですよ。逆に大人に排除されることにはとても敏感ですから、対等な関係で協力してもらうふりをした方が動かしやすいです」
「一応感謝します。助かりました」
「しかし承知とは思いますが、現状でわたくしがあなたに手を貸すことはありません。まだ未契約の状態ですから。子供には嘘も方便でも、大人同士の契約には偽証も誇張もありません」
「わかっています。このままでは私一人で戦うしかないということは」
「それでどうにかする方法は思い付きましたか?」
「……いえ、全く……」




