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第34話:百合カップルは異世界でもドロドロ共依存しているようです・6

【4/1 23:46】


 半径十メートルの白く燃える真球。それは森の夜闇を照らす小さな太陽だった。

 内側には眩い閃光が充満しており、飲み込まれた全てを完膚なきまでに燃やし尽くす。草木は即座に塵となり、土でさえも蒸発し、金属は融解して気化した。

 一瞬の無音を経て、ようやく破壊音が森に響き始める。根本の鉄骨が消失して自重を支えきれなくなった塔が体勢を崩す。軌道上の木々を全て折り飛ばしながらゆっくり傾いていく。

 廃電波塔が倒壊する。重い地響きが足元を揺らした。


「これが僕たちのチート能力、『爆発(エクスプロージョン)』と『無敵(インビンシブル)』だ。穏乃の『爆発(エクスプロージョン)』は周囲の半径十メートルに超爆発を起こす能力、僕の『無敵(インビンシブル)』は僕自身と僕に触れている者へのあらゆる攻撃を透過する能力。二つを組み合わせることで爆発圏内に入った相手を一方的に爆死させられる」


 土煙の中から手を繋いだ涼と穏乃が姿を現した。二人とも全くの無傷だ。

 小百合は思わず感嘆の息を吐いた。『爆発(エクスプロージョン)』の威力もさることながら、『無敵(インビンシブル)』の効力も目の前で見ると魔法じみている。攻撃を受けた上でダメージが入らない『身体強化(ストレングス)』とは異なり、『無敵(インビンシブル)』はそもそも攻撃の影響一切を受け付けないらしい。涼と穏乃の髪が全く揺れていないのがその証拠だ。


「僕たちの能力は異世界で二人平和に暮らすために女神に願ったものだ。僕の『無敵(インビンシブル)』が外敵からの攻撃を無効化し、穏乃の『爆発(エクスプロージョン)』が抑止力になる。僕たちに近付くと危ないぞ、ってね」


 涼が饒舌に喋る傍ら、穏乃は憮然とした表情でそっぽを向いていた。小百合の隣で腕を組んでいる龍魅も同じようなものだが。

 時刻は既に深夜。小百合と龍魅は真夜中の深い山中に呼び出されていた。落ち合ってすぐに涼と穏乃は廃電波塔を倒壊させてみせた。チート能力のデモンストレーションとして。


「ただ、これはもともと安全を確保するための能力に過ぎない。こちらから積極的に敵を倒しに行く用途は想定していなかったから『爆発(エクスプロージョン)』の射程はかなり短いんだ」

「つまり狙った相手を倒すためには、爆発が届く十メートル以内にまで近づく必要があるわけですね」

「そうだ。二人で手を繋いでいれば『無敵(インビンシブル)』で安全に接近できるとはいえ、ステルスも高速移動も出来ない。素早く逃げられたり遮蔽物を作られたりするだけで妨害される」

「『無敵(インビンシブル)』で壁をすり抜けたりはできないのですか?」

「『無敵(インビンシブル)』は『透過(トランスパレント)』ではないよ、あくまでも攻撃を受けないだけだ。まあ結局、僕たちの攻撃は手を繋いで相手に向かって走るという情けないものにならざるを得ない。だから素早く近付く部分を君たちに協力してほしいわけだ。ドラゴンなら簡単だろう」

「なるほど。龍魅さんのドラゴンごと無敵化して空から急襲するわけですね」

「その通り。そのまま『爆発(エクスプロージョン)』を起動すれば『無敵(インビンシブル)』がかかっている僕たちは無傷のままで相手だけを倒せる」


 小百合は黙ったままの龍魅をちらと見るが、龍魅は小百合を見て小さく頷くだけだった。この手の交渉は小百合に任せると言っていた通りだ。


「そして倒したいのは撫子くんだ。僕は彼女が最大の脅威だと思っている」

「たしかチート能力は『模倣(コピー)』ですよね?」

「そうだ。実はいま撫子くんと切華くんのペアともやり取りしているのだけど、『模倣(コピー)』は他人がチート能力を使っているところを目視するだけでコピーができるらしい。これ以上戦いが進めば他のチート能力をいくつもコピーしてどんどん強くなっていくだろう。手に負えなくなる前になるべく早く倒すべきだ」

「それなら『無敵(インビンシブル)』と『爆発(エクスプロージョン)』をコピーされたらそれこそ不味いのではないですか?」

「そうなったらお手上げだけれど、『龍変化(ドラゴナイズ)』や『身体強化(ストレングス)』だって同時にコピーされたら終わりだし、そもそもコピーされても大丈夫なチート能力なんて存在しないよ。だから重要なのはとにかく確実に初見殺しを決めることだ。チート能力をコピーさせる暇もなく、会敵した瞬間に殺す。それが出来るのは僕と穏乃の能力しかない。撫子くんの魔王化を避けるためにはここで勝負に出るしかない」

「なるほど。具体的な場所と時刻は決まっているのですか?」

「それとなく聞き出してみたが、撫子くんと切華くんは明日の朝には灯くんを襲撃するらしい。その帰り道で消耗しているところを狙う」

「要塞を、ですか……」


 撫子と切華が灯の要塞を襲うというのは初耳だ。

 小百合はどうしても霰と霙がどうなるのかが気になってしまう。撫子はわからないが、即決で月夜を殺害した切華が子供の殺害を躊躇うとも思えない。

 小百合の動揺を察知し、涼が慰めるように声をかける。


「あちらの戦いがどういう結果に終わるのかはわからない。決行する段階で確認する余裕はないだろうし、撫子くんたちが凱旋しようが敗走しようが襲撃はする。灯くんが撫子くんたちを倒した場合は僕たちが襲撃する必要もなくなるが、灯くんの能力が専守防衛であることを考えると……」

「待てえや。気に入らねえなあ」


 龍魅が初めて口を開いた。腕を組んだままで涼を睨む。『龍変化(ドラゴナイズ)』を発動していないのに、瞳孔は細く爬虫類のように収縮した。


「おめえ、撫子たちとも組んでる振りをしてんだんろ? そっち裏切ってよお、こっちだけ味方するんはおかしくねえか? 平気で仲間あ裏切るやつほど怪しいやつあいねえ。こっちが裏切られる側じゃあねえって言えんのかあ」

「手の内を明かしたことがその証拠だ。僕たちの能力は基本的に初見殺ししかできない。それを開示するリスクがどれほど大きいかはわかるだろう? 君たちを騙すつもりがあれば、それこそ呼び出した瞬間に『爆発(エクスプロージョン)』と『無敵(インビンシブル)』のコンボで瞬殺できた。しかし実際には手の内を全て明かして協力を請うている、君たちより撫子くんを倒すのが先決だと考えたからだ。これで納得できなければ、納得できる方法なんて存在しないだろう。合理的に行こうよ」


 龍魅の恫喝にも全く動じず、涼は平然と答える。相変わらず、立て板に水の如き主張には筋が通っていると小百合は頷かざるを得ない。

 涼の手は既にクーペのドアにかけられていた。穏乃の背中に優しく手を添えて助手席にエスコートし、自らは運転席に向かう。乗り込み際、振り向いて手を振った。


「では翌朝にまた落ち合おう。大して時間もないが、ゆっくり休んでくれ。要塞付近の集合場所はdiscordに貼っておくよ」

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