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第33話:百合カップルは異世界でもドロドロ共依存しているようです・5

「まずはチート能力『契約(コントラクト)』についてもう少し詳しく説明させてください。改めて言えば『契約(コントラクト)』とは履行の強制を伴う契約を結ぶ能力ですが、契約は自由意志によって偽証なく締結されることが必要です。騙しや脅しによっては『契約(コントラクト)』を発動できません」

「それはそういう内容で女神に申告したから?」

「仰る通りです。誠実に負った責務を確実に遂行すること、それがわたくしのチート能力以前の信条です。そしてこれから提案させて頂くのは『契約(コントラクト)』を用いた信頼できる共闘契約の締結です。ご契約される際の具体的なメリットとしましては……」


 そこで言葉を切り、目を閉じてゆっくりと珈琲を口に運ぶ。その様子を見た撫子が軽く噴き出した。


「ちょっとあなた、本当に保険会社の営業とかやってた? もしくは劇団出身? 間の取り方がどう見ても素人じゃないのだけど」

「いえ、どちらも経験はありません。が、異世界でも『契約(コントラクト)』一本で傭兵じみたことをやってきましたので。ええ確かに、これは重要な話に入る前のテクニックではありますね」

「やっぱり本職なわけね。失礼、続きをどうぞ?」

「『契約(コントラクト)』によって、わたくしは絶対に裏切らない保証付きの仲間となります。あなたたちお二人は家族ですから裏切らない確証があるでしょうが、同じくらい信頼できる三人目を確保することは難しいでしょう」

「うーん、否定はしないけれど、そこまで同意するわけでもないわ。それは確かに契約をしておけば安全だけど、元々三枠までなら共闘するインセンティブがあるわけだし、わざわざチート能力で縛らなくてもいい気もするのよね。あなたのチート能力って却って人間不信気味である印象も受けるのだけれど。私たちのメリットというより、あなた自身が契約しない限りは戦えないタイプの人間なのではなくて?」

「ええ、それは認めましょう。戦えないというよりは、戦いたくないという方が正確ですが」

「それは後ろから刺されるのが不安だから?」

「違います。わたくしにとって、最も力を発揮できる状態は他人から託された責務を背負っている状態だからです。あなたにも覚えはありませんか? 一人で自由にトラックを走っているときより、リレーでバトンを渡されたときの方が力が湧いてくることが。誰だって自分が最大の能力を発揮できる状態で戦いたいものでしょう。切華さんだって、使い慣れた刀の代わりに棍棒で戦えと言われれば良い気分はしないはずです」

「応。わかりやすい喩えだが、比喩でも精神論でもない実際の武器は何だ? 『契約(コントラクト)』そのものは戦闘に使えるチート能力ではないだろう」

「まず、わたくしには異世界帰りの知略と体術があります。覚醒した瞬間に徒手空拳で切華さんを無力化した実績がありますし、特にドラゴンとは異世界で戦い慣れていますから『龍変化(ドラゴナイズ)』の龍魅さんには特攻があります」

「確かに、一度投げられただけで其方の体術が本物であることは理解できた。戦闘能力では最強を誇る龍魅を倒せるリターンも大きい。しかし今聞きたいのは、もっと具体的なあなた自身の戦力だ。いくら狩り慣れているからといって、徒手空拳でドラゴンまで倒せるわけではないだろう。まさか異世界の魔法を使えるのか?」

「多少は使えますが、あまり期待はできません。大気にマナが含まれないこの世界では攻撃魔法(アタックスペル)は使えませんし、体内に残存するマナで強化魔法(ブーストスペル)を使ったところで女神の祝福を受けた者同士の戦いでは誤差程度のものです。驚かないで聞いて頂きたいのですが、メインの戦力としては……」


 そこで言葉を切り、目を閉じてゆっくりと珈琲を口に運ぶ。


「あなたたちのチート能力、『創造(クリエイト)』と『模倣(コピー)』を使います。つまり共闘に際してはチート能力の一時的な委譲を含む全面委任契約を要求します」

「何だと?」


 今度は白磁のミルクカップを持つ切華の手が止まった。


「戦力と戦闘と願いの全てをわたくしに委任して頂きたいということです。当然、そこには願いの結晶であるチート能力も含まれます。もちろん契約が満了すればチート能力は返還されますのでご安心ください」

「そんなことが可能なの?」

「『契約(コントラクト)』による強制履行はチート能力の移譲をも可能にします。あなたの『模倣(コピー)』も他人のチート能力を使えるでしょう」

「それは共闘と呼べるのか? 対等な仲間というよりは、其方だけが一方的に負担を負うものに感じるが」


「先ほどもお伝えした通り、わたくしが最も力を発揮するのは契約によって他人から託された責務を背負っているときです。わたくしを信頼して(・・・・・・・・・)全てを任せて頂くこと(・・・・・・・・・・)こそが、わたくしにとっての幸福なのです」

「なるほどなるほどなるほどね。あなたのことがようやくわかってきたわ。面倒見の良いお姉さんキャラかと思っていたけれど、どうして随分歪んでいるのね。一方的な過保護体質というか、自覚的な英雄気質というか。あなたがそういう性格だから、花梨ちゃんはあなたに頼り切りの重度シスコンになってしまったんでしょう」

「そうかもしれませんね。わたくしの基本スタンスは妹のために尽くす姉の心情と思って頂いても構いません」

「じゃあどこかで伴侶でも見つけて落ち着いたらいいんじゃないかしら。意外とそういう人生計画を描いてるタイプでしょ? 釣り合う相手探しには苦労しそうだけれど」


 わざとらしく胸に手を当てて溜息を吐く撫子のジェスチャーに、姫裏は気を悪くする様子もなく軽く手を叩いて応じた。


「流石の観察眼ですね。わたくしがけっこう結婚に憧れていること、こんなに短い会話で言い当てたのはあなたが初めてです」

「あなたって何でも一人でこなせるようにしか見えないものね。私はそれで本当に困らないから結婚はしなかったけれど。異世界転移の代わりに婚活でもしてみる? 紹介のアテはあるし、仲人くらいは喜んで引き受けるわ」

「申し出には感謝します。しかし結局のところ、わたくしの好みとは異世界転移するような人ですよ。契約の本質とは誠実さであり、とりわけ自分に対して高潔であり続けることは容易ではありません。自分の信条を直視して裏切らず、一片たりとも誤魔化さずに自省できる人がわたくしは好きです。別に婚活ではありませんが、皆さんとの共闘に前向きなのもそういう訳です」

「同類好みなタイプなわけね。あなた、今二十三だったかしら。私もそのくらいの頃は……」


 そこで切華が一つ大きく咳払い。明らかに会話を寸断する意図で発された音に対し、撫子は怒られたように小さく舌を出し、姫裏は溜息のジェスチャーをやり返してみせた。


「もう少し現実的な状況で言えば、あなたの奉仕精神は遺言とかでも適用されそうよね、冠婚葬祭ではないけれど。あなたに全てを託して死んだ仲間の遺志を継いで戦う、そういうシチュエーションでもあなたは燃え上がるのではなくて?」

「それも鋭いですね。『契約(コントラクト)』は相手が故人でも機能します。わたくしが契約相手の願いを人生ごと引き継ぐ命の盟約。もっとも、その場合でも生前の合意は必要です。今回は皆自分自身が転移するために戦っているのですから、そのような状況はまず生まれないでしょうが」


 ふん、と切華が鼻を鳴らした。一気にミルクを飲み干して手を広げる。


「はっきり言って論外だ。戦いとは常に自分自身で背負うもの。たとえ誰を殺すことになろうとも、その罪は自分で贖う。拙は自分の願いを譲り渡したくない」

「同じく。あなたのことは嫌いじゃないし、『契約(コントラクト)』抜きで共闘してほしいと思っているくらいだけど、あなたは『契約(コントラクト)』なしでは共闘したくないのよね?」

「ええ。では残念ですが、この話は無かったことに。わたくしは他の転移候補にも営業に行きますが、いずれ戦うことになっても恨みっこなしでお願いします」

「そうね。もし私たちが最後の三人になったら、一緒に転移してもいいわ」

「楽しみにしておきます」


 姫裏が珈琲カップを置いて手を合わせた。


「御馳走様でした。素敵な夕食を頂いたお返しに皿洗いでもさせて頂こうと思っていたのですが、共闘の線が無くなった以上はあまり長居しない方がいいかもしれませんね。他に何かお返しできることはありますか? わたくしは受けた恩は清算したい性質ですので、希望があれば可能な範囲でお伺いします」

「じゃあいくつか質問があるのだけど。あなたのチート能力って契約者に必ずあなた自身を含める必要があるのかしら?」

「いいえ。正確に言えば、『契約(コントラクト)』は契約を結ぶ能力というよりは契約を作る能力です。わたくし自身を含めない契約を作ることも可能であり、その場合は書面を交付する形式をお勧めします」

「書面ってデジタルでもいいかしら? あと細かい要項を後から記入する形式にはできる?」

「いずれも可です。ただし、もちろん契約者全員が偽証や強迫なく自由意志で合意しなければ効力を発揮しません。ま、ラフに言えば悪い用途にはなかなか使えませんよ」

「問題ないわ。そこのパソコンで一つ作ってほしい契約書があるのだけど」

「お伺いします」

「じゃあ……」


 続く撫子の説明を聞き、姫裏は思わず笑ってしまった。切華も隣で呆れ顔だ。


「失礼しました。作成は全く構いませんが、この契約を使う機会は来るでしょうかね?」

「まあ、念のためにね。使わなかったらそれでもいいわ」


 姫裏の契約作成は手早かった。硬い文面の契約条項をブラインドタッチで頭から入力していき、ページ一枚分の書面が出来上がるには五分もかからなかった。先ほどと同じように軽く手を叩いて『契約(コントラクト)』を発動すると、やはり橙色の輝きがパソコン画面に吸い込まれていく。

 姫裏は立ち上がり、丁寧に椅子を戻すとリビングの窓を開けた。春の夜の生暖かい風が髪を揺らす。


「ちなみに、『契約(コントラクト)』の解約条件は以下のいずれかです。当初に定めた責務が達成されたとき、契約者全員が死亡したとき、契約者全員が解消に合意したとき。今回は最後のケースということで、攻撃不可の契約はわたくしがこの家から出た時点で解約する形で宜しいでしょうか?」

「オーケー」

「異議なし」

「ありがとうございます。それではごきげんよう」


 姫裏は床を蹴り、ひらりと窓から飛び出して去っていった。


「あいつ、窓から脱出するのが好きなのか?」

「異世界ではマナーだったのかもしれないわね」

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