第30話:百合カップルは異世界でもドロドロ共依存しているようです・2
「AA、質問がある」
「はい」
AAはネットカフェにも即座に現れた。狭い個室では少し翼を折り畳んでいる。
「いま私たちが持っているチート能力は、四月四日零時を過ぎた時点で転移しなかった場合は当然全て消滅するんだよな? 異世界転移の線が無くなった時点でもうチート能力を与えておく意味がなくなるから」
「そうです。理由も仰る通りです」
「じゃあチート能力が失効したあと、既に発動したチート能力の影響は残るのか?」
「原則的には全て消滅しますが、一概には言えません。例えばチート能力で壊した家屋などが自動的に修復されるわけではありませんし、破壊の痕跡のような細かい影響が残存することは有り得るでしょう。具体的な残存範囲については、チート能力の内容や使用対象によってケースバイケースです」
「花梨の『蘇生』について聞きたい。蘇らせた人間は『蘇生』が失効したら死体に戻るのか?」
「能力の詳細はプライベートとなりますので、花梨様御自身からの問い合わせで無い限りはお答えできません」
「おい花梨、起きろ!」
花梨を叩き起こすが、片手で擦る目の焦点が合っていない。しかしそんなことを気にしている場合ではない。襟を掴んで揺すりながら呼びかける。
「今お前のチート能力がどのくらい残存するのかをAAに確認している! プライベートだからお前にしか確認要求できないらしい」
「どうでもいいよ、そんなのー……」
「重要なことだ、何としても確認したい。オーケーと言え」
「あー、いいよ、別にどうでも、オーケーオーケー……」
「これは肯定でいいだろ、AA」
「まあいいでしょう」
AAが軽く頷くと同時に花梨は再び気絶して床に転がった。正直倒れていてくれた方がありがたくはある。
「花梨様が『蘇生』で蘇らせた人間は『蘇生』が失効しても生存状態が継続します。死体に戻ることはありません」
「やはりか。『蘇生』はただ姉の魂を蘇らせることだけが願いの要点であり、蘇生した魂を隷属する能力ではないから」
「仰る通りです。蘇生が成功した段階で発動は完結し、死者との間に能力関係は残りません。そのため、『蘇生』自体が失効したあとも蘇生対象者の魂はそのまま現世に留まることになります」
本来であれば、『蘇生』が失効しても姫裏が生存し続けるのは朗報中の朗報だ。
思いもしない抜け道によって、花梨の願いだけは一時的なチート能力でも十分に事足りる。このまま花梨と姫裏でどこか遠くに逃げてしまえば、異世界に行くまでもなく現実世界で願いが叶うはずだった。
だが、姫裏の側はその逃避行に関心がない。姫裏がかつて異世界に転移した人間であることを踏まえるならば、姫裏の願いは花梨の願いとは違うと言った方がいいかもしれない。
だとしたら、今の姫裏の目的は一つしかない。自分の推測が外れていることを祈りつつ、AAに質問を重ねる。
「もう一点確認したい。グラウンドで臨時対応の対象者について質問したとき、『過去に転移条件を満たしてチート能力を獲得した人間が転移対象となる』と言ったはずだ」
「はい」
「では一年前に転移条件を満たし、チート能力『契約』を獲得した姫裏も転移対象に含まれることになるよな?」
「仰る通りです。一度回答した方針を覆すわけにはいきませんので」
悪い予感が的中した。姫裏も条件を満たせばもう一度異世界に転移できてしまう。つまり、転移候補を三人まで減らして四月四日零時にトラックに轢かれれば!
だったら姫裏もそうするだろう。彼女もまた、自分たちと全く同じように自殺してまで異世界転移を望んだ者なのだから。花梨の説明を聞いた姫裏がこの可能性に思い至らなかったとは考えにくく、あえて妹の元を去った意味は限りなく重い。
結局のところ、『蘇生』によってライバルが一人増えてしまったのだ。それもチート能力を持ち、あの切華を軽々と無力化する、異世界帰りの怪物が。
「最悪だ……」
今度こそ頭を抱えて花梨を見た。恨みがましい視線を受けていることも知らず、花梨は涙を流しながら眠っている。
それでもやっぱり理李に花梨を切るという選択肢は無い。どんなに愚かでも無力でも友達は見捨てない。これほど友情を重んじる心があったとは自分でも意外だが、それは少し誇らしくもあった。
溜め息を吐き、再び考え始める。理李の武器は考えることくらいしかない。
幸いにも時間はたっぷりあるのだ。相対的には。




