第29話:百合カップルは異世界でもドロドロ共依存しているようです・1
【4/1 19:30】
まだ一日も経っていないというのに、御原市の治安もずいぶん悪くなったものだ。
昨日深夜、御原市立鍵比良第三高等学校で猟奇殺人事件が発生。近くの中学校に通う学生が首を切断された上で遺体をグラウンド深くに遺棄され、重機でも持ち込んだかのように地面が荒らされていた。
付近の住宅街では身元不明の焼死体が二つも見つかった。犯行推定時刻には近隣の住民が揉めるような声を聞いているが、不審人物は目撃されていない。人体を一瞬で焼き尽くす火力を持つ凶器は未だ不明。
更に近くの病院からは植物状態で入院していた女性が病室の窓から誘拐された。直前に凄まじいスピードで院内を走る女子高生たちが目撃されているが関連は不明。
警察は暴力団関係グループによる大規模抗争の線を有力視して捜査を進めているらしい。まあ、頭のおかしい集団による戦いが勃発しているという意味ではあながち間違ってもいない。
「……もうこんな時間か」
理李はネットニュースやまちBBSが映るPC画面から目を外した。もうとうに太陽が落ちる時刻だが、窓が無い部屋では時間間隔は曖昧だ。
狂っていく街に呼応してか、花梨と理李の状況もどんどん悪くなる一方だ。いや、別に最初から状況は良くなかった。流れで何となく花梨と組んだツケを支払い続けているだけだ。
隣で寝ている花梨がうめき声の寝言を漏らす。その目の淵には涙の痕が残っている。
「……お姉ちゃん……」
ここはネットカフェの個室だ。
帰ってきた花梨はカラオケルームでしばらく歌い倒すと、山盛りのポテトを一気に口に放り込んで倒れ込むように寝てしまった。精神に限界が来たのだろう。
しかしそれでも辛うじて会話が成り立った分だけ、高校での荒れっぷりに比べればまだかなりましな方だ。つくづく花梨のシスコンぶりは常軌を逸している。
花梨の要領を得ない説明によると、花梨は姉の蘇生には成功したが、姉は協力を拒否して逃走したらしい。
元から戦力としてアテにしていたわけではないが、これでいよいよ花梨には何の戦略価値もなくなった。今の花梨はちょっと運動神経がいいだけの一般人だ。チート能力『蘇生』は姉しか蘇生できず、その姉が特に何の戦力にもならないのだから。
だが、チート能力の使えなさは理李も大して変わらない。
花梨には「二人ともサポート系であるところを活かしたい」などと気休めを言ったが、攻撃能力が無い時点で終わっているのだ。活かす活かさないどころの問題ではない。そもそもチームとして機能していない。この転移争奪戦は生き残るだけではなく、転移候補を三人以下にまで減らさなければならないからだ。
更に言えば、攻撃できないからといって別に防御力に秀でているわけでもない。花梨の『蘇生』は姉しか蘇生できないし、理李だって回復できるのは時間経過で自然治癒できる程度の傷病に限られている。首を刎ねられればそれで終わりだ。
だから正しい行動は決まっている。
花梨を切るべきだ。そして他の、まだ三人組を組んでいない人を探して接触する。交渉材料は花梨の首が一番手頃だろう。転移候補を一人減らすのと引き換えに他の誰かの仲間に入れてもらうのがいい。
理李のチート能力は貧弱だが、花梨とは違って口先がよく回る。相手の利害を見極めて交渉をしくじらない自信があるし、頭脳周りで貢献できるという価値もある。それが綱渡りだとしても、ここで燻ぶっているよりはだいぶましだろう。
「……なんてな」
それが出来ない自分の浅はかさに笑いが漏れる。理李は花梨を切らない。切りたくないから。
こんな感情を抱いたのは何年ぶりだろうか。絆とか友情とか、そんなものを信じていた年齢が自分にもあったことを久しぶりに思い出した。
そもそも理李が異世界転移を望んだのは友達が欲しかったからだ。その癖「能力で作った友達なんて友達ではない」という青臭いこだわりがあって友達を作るチート能力は望まなかった。 『洗脳』みたいなチート能力で友達もどきを作っても仕方がない。チート能力は自分を成長させるものにする。自信が持てる自分になって本当の友達を作る。そういう転移計画なのだ。
花梨は何の躊躇いも打算もなく理李のことを友達だと言ってくれた。これはチート能力以前の友情だ。友達を切り捨てて生き延びても、この先胸を張って生きられない。
だから理李に花梨を切る選択肢はない。組んだままの前提で考える。この頭があればなんとかなるはずだ。
「……」
改めて、ドリンクバーからファンタグレープを注いできて考える。
とりあえず基本は潜伏だ。しばらくはここから動かない方がいい。
幸いにも探索系のチート能力者は一人もいない。どうせ勝算が薄いのであれば、何人か同士討ちで死んだあとに動き出す方がいい。待つだけ待って漁夫の利を取る。
例えば組んでいる相手が死亡して一人になった誰かを取り込むことはできるかもしれない。極端なことを言えば、他が同士討ちで一人まで減ることがあれば、そこに理李と花梨を加えて自動的に勝ち上がりだ。
チート能力についても無理やりポジティブに考え直してみよう。
『蘇生』という能力自体は割と強力なのだ。もし姫裏が花梨に協力しない理由が姉妹喧嘩くらいの些細なものなら、何とかして仲直りして味方になってもらえれば、むしろ『蘇生』によってバックアップできる最強の仲間になり得る。花梨の弁によれば姫裏は異世界帰りであり、『契約』とかいうチート能力を持ち、切華を軽く捌いてみせたらしい。
姫裏が味方になればリターンは大きい。しかし逆に言えば、もし姫裏が他の誰かと組んで敵に回ってしまったらもっと悪いことになる。
いや……他の誰かと組んで敵に回る? そんなことはあり得るか? そもそも姫裏はどういう行動原理で動くのだ?
「……んん?」
軽く眉間を抓る。いま頭に走った違和感をもう一度掴み直し、閃きをリフレインする。
スマホを開き、AAサーバーをスワイプして遡る。グラウンドで確認した条件。あの段階では単なる確認に過ぎなかったが、いまや違う意味合いを持ってしまっている回答が一つある。




