第20話:剣の達人は異世界でもモンスターを切りまくるようです・13
ちょうど霰と霙の二人が起きてきたところだった。目を擦りながら灯を見上げてくる。薄いパジャマを着た二人が目に入り、灯の心拍数が一気に上がる。
二人のすらりとした手足と腰。白い肌はうっすらと赤みがかって潤っている。まだ第二次性徴期が来ていないが幼児体型でもない、幼い膨らみと子供の薄さが両立した奇跡的なシルエット。もう少し成熟が進んで身体が骨ばってくれば失われてしまう、滑らかな子供の肉体。ちょうどこのくらいの成長度合いが灯のストライクゾーンだ。
そして起き抜けの二人からはうっすらと甘い香りが漂っている。まだ未発達な汗腺からは皮脂の分泌が少なく、それが子供特有の高い体温で温められて立ち上る。全身が果実で出来ているようなその香りが灯は大好きだった。
双子は昨晩出会ったばかりでもう灯を保護者と認識している。当たり前に庇護者を求めている、子供の賢しさや背伸びのない素直な子供たち。何度も夢に見ていたものが今まさに手に入ってしまっている。
「今できたところだからね」
恐る恐る二人の手を取ってテーブルに付けた。灯よりもずっと温かい体温がじんわりと染みてくる。この温度を試験管か何かに入れて保存できればどんなにいいか、いや、今は本人たちが目の前にいるのだからその必要さえない。
「いただきます」
三人分の食器と食事を並べて朝食を開始する。
霰がスプーンを持つ繊細な手、霙が人参を運ぶ小さな口。二人の愛嬌溢れる仕草を見て恍惚としながらも、灯は努めて冷静に考える。
まず前提として、灯が涼たちと組む選択肢は最初から存在しない。灯と霰と霙でもう三枠、他の人が入る余地はどこにもない。
なるべく攻撃される可能性を下げるために態度を保留する振りをしているだけだ。あわよくば二人からチート能力の情報を引き出したいという思惑もあったが、それは綺麗にかわされてしまった。
涼と穏乃はチート能力が最も不明瞭な転移候補だ。能力名以外の情報が少ない。チート能力をまだ一度も人前で発動していないし、パーティー会場でもほとんど会話していなかった。
さっきAAに確認してみたが、個々人のチート能力の詳細はプライベートとして能力者本人以外には説明しない方針らしい。そういえば、パーティー会場で明らかに能力を虚偽申告していた理李に対してもAAはわざわざ訂正しなかった。大枠は答えても個々人の事情までは管轄外、だからあとは手元の情報から推測していくしかない。
まず涼の『無敵』とはどういう意味で無敵になる能力なのか。物理的なものか概念的なものか。常時発動しているタイプの能力なのか、何か発動条件があるのか。
穏乃の『爆発』も何が爆発するのか不明だ。爆発物を生み出す能力なのか、それとも爆発魔法的なものを使用するのか。威力は自在にコントロールできるのか。対人兵器程度のものか、それともこの建物を吹き飛ばせるのか。要塞を初手から爆破しようとはしなかったということは、それほどは威力や射程が無いのかもしれない。
だが、目立つのを嫌ったという線もある。例えばもし仮に穏乃の『爆発』がこの山ごと要塞全てを吹き飛ばすほどのチート能力だったとして、それだけ大きい爆発は他の転移候補の目にも触れる可能性が高い。となれば、皆が一時的に手を組んで穏乃を排除しようとするかもしれない。
迂闊にチート能力の強力さが露見するリスクは最強のチート能力『即死』を持つ月夜の死亡によって認識されている。灯は月夜の殺害をスルーしたし、横目で見た限りは涼や穏乃も同じ判断をしていたと思う。灯がやむを得ず『建築』で介入したのは、あの傍若無人の龍魅による『龍変化』で霰と霙に被害が及ぶのを避けたかったからだ。
いずれにせよ、最終的に灯がやることはただ一つだ。霰と霙を眺めながら呟く。
「私があなたたちを絶対に守るから」
自分の言葉が自分の頭を揺らす。声を通じて甘い快感が突き抜ける。
こんなセーフハウスではなく、異世界の大きな家で三人揃って暮らすことが灯の望み。それは責任ある大人として弱い立場の子供を守ろうという正義の心などでは全くない。
もっと甘美な欲の味だ。




