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席には限りがございます!  ~トラックに轢かれてチート能力を手に入れた私たちは異世界転移を目指して殺し合います~  作者: LW
プロローグ 仲良し姉妹は異世界でもゆるゆるハッピーに暮らすようです
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第1話:仲良し姉妹は異世界でもゆるゆるハッピーに暮らすようです・1

 四月一日午前零時にトラックに轢かれて死ぬと、チート能力付きで異世界に転移できるらしい。

 この街の片隅できっと誰かが嘯いた。誰も信じないけど誰もが知ってる、そんなよくある噂話。


「はは、馬鹿みたいだよね。高校生にもなって信じる噂じゃないってば」


 廿楽(ツヅラ)花梨(カリン)は自嘲する、大型トラックの前に身を投げ出しながら。

 フロントガラスの向こうでドライバーのおじさんが目を見開いている。今更慌ててハンドルを切ったところで回避はとても間に合わない。

 ルームミラーにかけられた懐中時計が二十三時五十九分五十五秒を指していた。五秒後に迫った死はきっかり時刻通り。

 轢死はもう確定した。まだわからないのは死に至る苦痛だけ。

 最初の接触はフロントバンパーだ。堅い防御パーツが莫大な運動量を乗せて横腹に直撃する。


「だっ」


 鉄球が叩き込まれたかと思った。薄い筋肉が圧し潰され、骨がボキボキボキと景気よく折れて内臓に突き刺さる。指先をカッターで切ったときの閃光が腹の中で弾けた。身体の内側から大破する、未知の苦痛が脳天を貫く。

 めちゃめちゃ痛い。痛みそのものに加えて、痛覚がクリアでスローなことに焦りを覚える。死に際の苦痛なんてほんの一瞬であってほしい、という淡い期待はどうやら裏切られたようだ。

 これは罰なのかもしれない。なにせ今日は四月一日で入学式で入社式で、この自殺はきっとたくさんの人を嫌な気持ちにさせるだろう。新しいスーツや制服を着て家を出た途端、飛び散った肉片を目にする人たちが気の毒だ。

 それでも花梨は死なずにはいられなかった。近隣住民の皆さんのことも、自分が生きていれば歩む未来も、全て考慮して今日死ぬしかなかった。

 チート能力を得て異世界転移でもしなければ叶わない願いがあるから。

 この賭けのオッズが終わっているのはわかっている。こんな馬鹿みたいな噂話、花梨だってコンマゼロゼロイチパーセントくらいしか信じていない。しかしやらなければゼロパーセントなのだ。ゼロかゼロではないか。その二択ならやるしかない。

 苦痛は元より承知の上だ。馬鹿みたいな噂にすがって堂々と死ぬ。自分の意志で死痛を食らって。

 跳ね飛ばされた身体が僅かに宙に浮く。地面にブチ当たり、リバウンド!


「づっ」


 閉じた口から空気が漏れる。声を出したのではない。肺が外側から潰され、押し出された空気が声帯を震わせただけだ。肺と一緒に胃も潰れる。唾液と血と吐瀉物と折れた歯と千切れた唇もまとめて吐き出された。

 軽い身体が激しく地面を擦る。小石交じりの舗装道路が白いシャツと皮膚に大根おろしをかけ、まとめて抉って毟り取った。肉と脂肪が地面に付着する。体幹から末節へ、入念な破壊が進行していく。


「……助けて、お姉ちゃん……」


 無意識に漏れた呼び声。

 しかし「任されました」という優しい声が返ってくるはずもなく、それで初めて涙が出た。

 七歳違いの姉は花梨の全てだった。幼い頃に両親が死に、姉が保護者で親友でパートナーで騎士だった。かっこよく美しく可愛く綺麗で無敵で天才だった。

 「この命尽きるまであなたを絶対に守る」が姉の口癖だった。だから眠れないとき、暑いとき、寒いとき、勉強がわからないとき、お腹が空いたとき、花梨はすぐに「お姉ちゃん」と呼んだ。姉が現れるや否や、「任されました」と胸を叩いて何でもすぐに解決してしまった。

 ちょうど一年前、姉は旅行先で事故に遭った。

 心臓が長時間止まって脳が死んだ。無数のチューブと点滴と酸素マスクに繋がれ、ようやく生命を維持するだけの生ける屍になってしまった。もう二度と目を開くことはないと首を横に振った医者に花梨は掴みかかって羽交い絞めにされた。

 花梨は姉の前で何度も「お姉ちゃん」と叫んだ。朝から晩まで体力が尽きるまでひたすら叫んだ。喉が枯れて声が出なくなるまで叫んだ。看護婦に怒られてつまみ出されても、忍び込んで何度も呼び続けた。花梨の困難を解決する方法は姉を呼ぶことしかないから。

 遂に病院から出入り禁止を食らい、受付を訪れただけで警察を呼ばれるようになった頃、花梨はようやく諦めた。名前を呼べば姉が応えるとか、いつか医学の進歩が姉を回復させるとかいうタイプの奇跡を信じることを諦めた。

 しかし姉を復活させることは全く諦めていなかった。別のタイプの奇跡に賭けることにしただけだ。

 現世の理で無理なら、異世界の理に賭ける。チート能力があれば姉の治療なんていくらでもできるだろう。馬鹿みたいな噂に全てを賭けて、この命をベットする。

 花梨は絶望して死ぬのではない。異世界に取りに行くのだ。姉を回復させるチート能力を!


「…………いづづう」


 仰向けに横たわる身体に最後の拷問が幕を開ける。広がった両手両足の車輪轢き、まずは足からだ。

 直径二十センチもある健康的な太ももが圧倒的な外力で圧し潰されていく。鋭い刃物で切断するのではなく、回転と重量によって力尽くで轢断するのだ。既に骨折で崩壊した上からぺちゃんこになるまで入念に破壊され、あまりの苦痛にもはや呼吸に割く気力すら奪われる。

 一体これがあと何回起こる? 激痛で白く塗り潰された意識の中で、妙に冷えた黒い理性がその数字を教えた。

 大型トラックは四軸八輪、一輪あたり片側の手足を二回潰すから、のべ十六回。今は左足と右足の一回目が終わったところ。

 左手一回目。同時に右手一回目。激痛で意識が飛んだ。

 左足二回目。同時に右足二回目。激痛で意識を取り戻す。

 左手二回目。同時に右手二回目。激痛で意識が点滅し、自分の覚醒状態が判断できない。

 左足三回目。同時に右足三回目。何故か途端に痛みが薄くなってきた。どうしてだろうと考えて、すぐに答えに思い至る。

 もう四肢が全部千切れたから、車輪が通過したところで壊れる身体が残っていないのだ。四肢と共にあらゆる生命力が消失する。

 ようやくほっと息を吐いて意識を閉じた。これでトラック自殺を無事に完遂した。あとは絶対、異世界でお姉ちゃんと一緒に楽しく暮らすんだ!

 それが最期の思考、廿楽花梨の最期の願い。

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