第13話:剣の達人は異世界でもモンスターを切りまくるようです・6
元天才子役、撫子が芸能活動を開始したのは三歳のときだ。
初仕事は新進気鋭の若手監督が手掛けるCMで、「デビューしたての子役が実は大女優の生まれ変わりだった」という設定のコメディ風ムービーへの出演だった。あどけない子供が貫禄ある役柄を演じるというギャップの笑いと可愛さを狙った企画だったが、まさか撫子が本当に生まれ変わりにしか見えない演技をこなすとは誰が予想できただろうか。
そのCMはすぐに大きな評判を呼び、翌年にはバラエティ番組に撫子のコーナーが作られた。繋ぎの一分ほどの尺で、撫子が様々な役柄の生まれ変わりという設定で即興の劇を披露するのだ。
撫子は何でも演じた。教師でも剣士でも庭師でも子供でも天使でもライオンでも演じた。放送後には「本当に撫子は自分のペットの生まれ変わりではないか」というような問い合わせが局に何件も来た。その翌年には設定をそのまま引き継いだドラマシリーズが放送され、「生まれ変わり」は流行語大賞にノミネートされるまでになった。
すなわち、撫子の天分とは「どんな役割でも完璧に演じてみせること」にあった。撫子が一度そのように演じれば、誰の目にもそのようにしか見えなくなるのだ。
しかし年季でさえ無視してあらゆる役柄を演じていたせいだろうか、十四歳のときに妊娠が発覚し、日本中に大きな衝撃を与えてそのまま芸能界を電撃引退したのが十七年前。
「ちなみに私を切る選択肢ってある?」
「否。母親を切るほど人の道を踏み外していない」
「同感ね。枠は三つもあるわけだし、わざわざ実の子を殺すのも寝覚めが悪いわ」
そのとき生まれた子供が切華だ。
つまり撫子が切華の生みの親である。養子でも義理でもなく。
切華が物心ついたときから撫子は完璧な母親だった。育児も家事も一人でこなし、成績が良ければ褒め、嘘を吐けば叱る。撫子に白い目を向ける人々も決して少なくなかったが、撫子と一分も会話すれば健気に頑張る若い母親を応援するファンになっていた。
切華の高校入学前日、撫子は床に掃除機をかけながら何気なく言った。「そろそろ切華も大人だし、お母さんはもういいかなって思うから、明日からは女子高生をやろうと思うの」と。
当時の切華は母の他愛もない冗談を生返事で流した。しかし翌日、自分の母親が保護者側ではなく生徒側にいたときの頭の痛さは今でもありありと思い出せる。
驚いたことにというべきか、案の定というべきか、撫子は完璧な女子高生だった。自己紹介では実年齢や経歴を包み隠さず披露したにも関わらず、周囲から撫子への奇異の目は一日も保たなかった。いや、一時間も保たなかった。
撫子は可愛く元気なクラスの人気者として学校に馴染み、部活に励み、彼氏を作った。切華より友達も多く、テストの前日には友達の家に泊まったりもしている。切華との関係も親子からルームシェア中の同級生に切り替わった。
結局、何者かを演じることが撫子の享楽なのだ。観客がいようがいまいが関係ない。母親という演目も、女子高生という演目も、撫子は完璧に演じる。その才能の前では十歳そこらの年齢差など容易に埋められてしまう。
「何にせよ、今すべきは月夜の弔いであろう。すぐ見つかるにせよ、せめて形だけでも埋葬くらいは」
「そうね、了解」
撫子のチート能力『模倣』が発動し、右腕が一気に膨張した。
服の袖から先を引きちぎり、鱗の生えた腕が現れる。腕だけで撫子の全身と同じくらい大きく、設計を間違えたプラモデルのように不自然に身体にくっついている。さっき見た『龍変化』をコピーしたのだ。
龍の爪が地面を深く掘り下げ、月夜の身体を底に優しく下ろして横たえる。
「せめて安らかに眠れよ」
切華は撫子と並んで手を合わせた。異世界転移してもこの罪は忘れない。
「とはいえ、学校のグラウンドに死体が埋まってるのはまずい気もしないではないが」
「むしろ死体の一つでも出てきた方がわかりやすくていいんじゃないかしら。どうせしばらくは閉鎖だろうしね。ミステリアスな演出ってとっても私好みだわ」




