第11話:剣の達人は異世界でもモンスターを切りまくるようです・4
「そうだ。私だって諦めないし、誰も諦めない。十二人全員がもう既にラインを踏み越えてしまっている。願いが命より重いことを身をもって知っている。私たちは自分を殺すくらいで転移できるなら殺せる、皆揃ってそういう人種だ。だからこれから三日で殺し合って生き残った三人だけが転移できる。今はそういう状況だ」
理李の言葉には筋が通っている。
花梨だって諦めるつもりはないし、殺して叶えるか殺さずに諦めるかと問われたら、殺して叶える。トラックの前に身を投げ出したときにその覚悟はもう決めてしまっている。
それでも、自分を殺すことと他人を殺すことは決してイコールではないとも思う。それを一番良く知っていたのは、さっき殺されたあの心優しい中学生ではないか。
「でも、月夜ちゃんはそうじゃなかったかもしれない。『即死』を持ってるのに虫も殺せない優しい子だった。もしかしたら、ちゃんと話し合えば月夜ちゃんは殺さずに済んだかもしれない。諦めてくれたかもしれない」
「諦めなかったらどうするんだ? 自分の願いと関係ない虫は殺せなくても、自分の願いを邪魔する人間は殺せるかもしれない」
「それは……都合のいい期待だってわかってるけど、可能性はゼロじゃなかった……かも」
「正直なところ、私だって月夜は人を殺せるような人間ではなかったかもしれないと思っているさ。月夜はお前と同じかそれ以上に馬鹿でお人良しだった。あいつが『即死』を望んだのは実際に人を殺したいからじゃなくて、厨二病の憧れを叶えるためだろう。本当に手に入れたところで使うつもりなんてなくて、脅し文句か名乗り口上にでも使えれば十分だったのかもしれない。そういう願いもあり得るんだ」
理李が肩を強く掴んだ。花梨の肌に爪が食い込む。
「だが、それでも月夜の『即死』はあまりにも危険すぎた。ただ見るだけで相手を殺す魔眼だぞ。もし月夜が私くらい頭が回って切華くらい躊躇しないやつだったら、その場で眼帯を外すだけでもう全部終わっていた。私たちは月夜を殺すしかなかったし、それまでは共闘してもいいくらいだった」
「他の人もそう考えてたってこと?」
「そのはずだ。そこそこ頭が回って戦えるやつなら、まず最初に月夜を排除すべきだと考えるだろう。とはいえ、あの場で一番頭の回転が早いのは私だったらしい。私が場を繋いでいるうちに誰かが不意打ちで殺してくれるのが一番良かったんだが、誰も動こうとしないから焚きつける必要があった。私のチート能力は戦闘向きじゃないしな」
「理李ちゃんと切華ちゃんって仲間なのかと思ってた。頼んで任せろみたいな感じだったから」
「仲間だったら私にまで攻撃するわけないだろ。くそ、私が殴られる裏目を引くとは思わなかった。切華は脳筋タイプかと思っていたが、頭もかなり回るよ」
理李はいきなり咳き込んだ。一気にしゃべり過ぎたのか、軽く胸を叩いて呻く。
「大丈夫? あれ、でも理李ちゃんは殴られるだけで済んだのっておかしくない? 転移候補を減らしたいって理屈で言えば、そのまま切り殺した方が良かったんじゃ」
「確かめたんだよ」
「何を?」
「私のチート能力、『反射』をだ。私を殺そうとした刀が反射して自分が死んだら笑えないだろ。だからとりあえず切らずに殴ってみて、本当にダメージが反射するかどうか確認した。そして無事ダメージは反射しなかった」
「なんで?」
「嘘だからだ。私は『反射』なんて持ってない。恐らく切華は私が『チート能力は使える』と叫んだことで違和感を持ったんだろうな。攻撃も受けていないのに『反射』が使えるなんてわかるわけないから」
「え、だって自分で『反射』って言ってたじゃん」
「お前は本当に察しが悪いな。私はパーティー会場で嘘の能力を申告していたということだ」
「えええ、それって理李ちゃんはこうなるってわかってて嘘を吐いてたってこと? まさか殺し合いに備えて?」
「いや、流石に殺し合うとまでは思っていなかった。まあ、せいぜいレクリエーションかチュートリアルくらいはあってもおかしくないと思っていただけだ。あの女神ならいかにもやりそうだろ。わざわざ交流パーティーを開くくらいだし、実際、灯は『建築』の練習がてらパーティー会場を作ったりしていたしな。そういうとき『反射』を持っていることにしておけば面倒を避けられる。周りに被害を与えるだけの能力だし、自分から使える能力じゃないし。もし嘘がバレたところですぐ異世界でバラバラになる浅い仲だ。どう思われてもどうでもいい」
「だから友達少ないんだよ……」
「何とでも言え。もういい、もう歩ける。このままだと目立つだろ」
理李は花梨の背中からぴょんと下りた。花梨より低い背が平然と隣を歩く。
「大丈夫なの? 折れてるんでしょ、肋骨」
「私の本当のチート能力は『治癒』だよ。どんな外傷も病気もすぐに治る、ただそれだけだ。色々グチャグチャ考えて無駄に保険を張りまくる私らしいだろ?」
理李は口角を上げて自嘲気味に笑ってみせる。それは再会してから初めて見る理李の笑顔だったが、記憶にあるよりもずっと卑屈な作り笑いだった。




