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【現代】ショートショート

二十年後も幸せだよ

作者: 夏灯みかん
掲載日:2026/01/08

「政治家ってのは、何やってんのや」


 休日の朝、ニュースを見ながら、ソファに座った夫が怒ったようにニュースにコメントする。


 次は野球ニュース。夫の応援しているチームが負けたシーン。


「次はウチが勝つからな!」


 画面に一人吠える夫を、対面キッチンの洗い場から眺めながら、私は既視感を感じた。

 ニュースにやたらと独り言で突っ込む、この姿。

 私の父親、親戚、テレビや漫画で見る典型的な――、


「おじさんや」


「なんて?」


「いやね、『おじさん』ってなんでみんな、テレビに独り言で突っ込むん?」


 手を拭きながら隣に座ると、夫は怪訝そうに眉を寄せた。


「俺が『おじさん』ってこと? まだ四十ちょっとやで」


「四十過ぎたら『おじさん』やろ」


 私は首を傾げた。


「だって、ケンくん、昔はニュースに独り言で突っ込んだりしてなかったもん」


「昔って、いつや」


「大学の時とか?」


 夫の健司とは、大学の同級生だった。

 当時を振り返りながら、私はうなずいた。


「いつの話をしとんねん」


 ニュースが音楽情報に変わる。海外の人気男性グループが来日して、スタジオで歌を生披露するらしい。


「あ! これ、優香の好きな”GPS”や! 録画しとこかな」


 まだ寝ている中学生の娘の好きなグループだった。

 録画しといてあげようかと、リモコンをとろうとすると、夫が眉をひそめて私を見ていることに気がついた。


「何て? お前、それじゃ、位置情報やないか」


「そやっけ? したら――”BBS”やっけ?」


「それ、掲示板――」


 夫は吹き出した。


「俺が『おじさん』なら、お前も『おばさん』やんか。『おばさん』て、何で、微妙に物の名前を間違えるんや」


 私はふと思い立って、スマホを開いた。

 ネットの写真アプリを開く。ここには大学時代の写真も入ってる。

 当時はスマホはなかったから、デジカメで撮ったやつ。

 その中に、夫と自撮りした、付き合いたてのころの写真があった。


「うわ、若っ」


 のぞき込んだ夫が、驚いたように言う。私はそんな夫に寄りかかると、スマホで自撮りをした。


 ――カシャ!


「何や急に……」


 夫はびっくりしたように身を引くと、顔を赤くした。

 ――照れた時の顔は、大学生の時のままやんね。

 私は思わず笑ってしまう。


「お母さん、お父さん、朝から何騒いでんの?」


 その時、娘が起きてきて、目を擦りながら私たちを見た。


「優香、”TBC”これから、生出演やて!」


「最終的に、全部違うやんけ……」


 呆れ顔の夫が娘をソファに手招きした。

 私はさっきの自撮り写真をアプリに追加し、昔の自撮り写真に向かって微笑んだ。


 ――ねえ、二十年後も幸せにやってるよ。

 


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