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亀蔵としんちゃん ~ちいさくても最強!~

作者: 近藤良英
掲載日:2025/11/19

小さくて飛べなくても、大切な友だちは世界を明るくしてくれます。これは、虫を愛するしんちゃんと、カメムシの幼虫・亀蔵が過ごした、ちょっと変でとても温かい、夏の日の物語です。

 亀蔵は亀ではない。カメムシである。

 しかも、まだ幼虫なので羽が生えていない。だから飛ぶことはできない。

 緑色で、ひし形みたいな体をしていて、よく見ると脚がちょこちょこ短くてかわいらしい。

 そんなどこにでもいそうなカメムシの幼虫が、しんちゃんの手のひらに乗ると、まるで宝物みたいに見えるから不思議だ。

「おまえ、なんかいい顔してるなぁ」

 しんちゃんが目を細めると、亀蔵は照れたように触角をぷるんと揺らす。

 しんちゃんが庭の草むらで亀蔵を見つけたのは、ある初夏の午後だった。

 草の影から、ちょこちょこっと小さな影が動くのが見えた。

「お、なんだろう?」

 しゃがんで覗き込むと、亀蔵はのっそりとしんちゃんの足に向かって歩いてきた。

「よし、きみは今日から亀蔵だ!」

 しんちゃんは迷いなく名前をつけた。

 本当は“亀吉”が良かったのに、しんちゃんの本名が“新吉しんきち”なものだから、

「吉がふたつはちょっと恥ずかしいなぁ」

 という理由で却下した。

 しかし、名前のことはどうでもいい。

 問題は──

 亀蔵はとにかく臭い。

 幼虫でも、その威力は立派なものだった。

 しんちゃんのお母さんは、台所から顔を出してすぐに叫んだ。

「しんちゃん! その子、家に入れないで! ほんとにお願い!」

「ええ〜、かわいいのに」

 するとお母さんは涙目になりながら、

「かわいさとにおいは別問題なの!」

 その後ろでお父さんの勉は新聞をめくりながら、のんきに言う。

「まあ、いいじゃないか」

 その瞬間、おばあちゃんがふり返ってニヤリ。

「勉も子どものころは虫だらけの部屋だったねぇ」

「お、おふくろ…その話は…」

「毎年セミにカブトムシ、ひとつの虫に飽きるとすぐ別の虫。ほら、めんどう見ないからすぐ死んじゃって。あれは罪深いねぇ」

「おばあちゃん、それ今ぜったい言わなくていいよね?」

 亀蔵の家は、しんちゃんが選んだ段ボールの箱。

 ガラス瓶だと、自分のにおいで気絶してしまうと聞いたことがあったからだ。

「ここならにおいが逃げるから大丈夫だろ」

 亀蔵は「ありがたいねぇ」と言いたげに、のそのそと箱の中を探検した。

 しんちゃんはプラモデルのロボットを持ってきて、ロボットの頭に亀蔵をちょこんと乗せた。

「今日からおまえがパイロットだ!」

 亀蔵は揺れながら、少し不安になった。

 ある日、しんちゃんは思いついてしまった。

(そうだ、学校へ連れて行こう! 大作にいじめられても、亀蔵がいれば怖くないぞ!)

 小箱にそっと入れて、ランドセルにしまい、こっそり教室へ持っていった。

 案の定、大作がずかずか近づいてきた。

「おい、しんきち、今日は何持ってきたんだよ?」

 しかし、しんちゃんからただよう“亀蔵の香り”に気づいた瞬間──

「うわっ、なんだこのにおい! やべえ!」

 大作は全速力で退散。子分の寛二も光彦も「ぎゃあああ!」と逃げていく。

(すごいぞ、亀蔵!)

 しんちゃんは思わずガッツポーズ。

 ──が、喜んだのも束の間。

 ゆかこちゃんが鼻をつまみながら、

「しんちゃん、なんか…ごめん、近づけない…」

 と涙目になり、なぎさ先生まで

「しんちゃん、これはさすがに……」

 と遠くから見つめる始末。

(ああ……そうか。ぼくは強くなったけど、友だちは減ったかも)

 しんちゃんは小箱をそっと閉じた。

 その日の帰り道、ランドセルの中で、亀蔵が足をちょこんと動かした。

「ごめんな、しんちゃん……」

 そんな気配がした。

「いいよ。おまえはぼくのボディーガードだもんな」

 しんちゃんが笑うと、亀蔵は触角を小さく震わせた。

 それからは、家で遊ぶだけにした。

 放課後になると、しんちゃんの部屋で亀蔵がロボットの“専属パイロット”として大活躍する。

 飛ばないけど、においは飛ぶ。

 強くないけど、心は強い。

 そして、しんちゃんは気づく。

 どんなに小さくて、どんなに飛べなくても、

 世界でいちばん頼れる友だちが“亀蔵”だということを。   -了-


亀蔵は小さくてにおいも強いけれど、しんちゃんにとっては世界一の味方です。読んでくださったあなたにも、そばに寄り添う小さな存在が見つかりますように。この物語が心に残れば幸いです。

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