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ミートボールとの遭遇2

ハロー、地球の人。私たちもミートボール探してます。』


「……は?」


 その言葉と同時に、店内の明かりが一斉に点滅した。

 蛍光灯がジジッと鳴り、グラスがカタカタと震える。

 地鳴りのような低音が足元から響き、

 次の瞬間、まばゆい光がダイナー全体を包み込んだ。


 トオルは思わず目をつぶった。

 熱を感じるほどの白い光――。

 やがてそれが収まったとき、

 目の前の風景は、わずかに“違っていた”。


 カズマが目を細め、向かいの席を見る。

 そこにいたのは――

 金魚鉢のようなヘルメットを被り、タコのような触手をうねらせる奇っ怪な生物。


 銀色の体表がぬらぬらと光り、

 その目(らしき部分)がトオルとカズマを順番に見つめた。


「……ハロー、地球人」


 泡のような声が空気を震わせる。


「私たちも、ミートボールを探しているのです」


ダイナーの中に、しばし沈黙が落ちた。


 金魚鉢を被ったような奇妙なタコ――いや、“それに似た何か”が、

 ぬるりとした光沢をまといながら椅子に腰かけている。

 その姿を見たウエイトレスが、

 「ひ、ひぃっ……!」と声を上げたかと思うと、

 ガムを吐き出す間もなく、コーヒーポットを落として床に倒れた。


 ――ガシャン!


 割れたガラスとこぼれたコーヒーの匂いが、

 熱を帯びたまま床に広がる。

 その音に気づいた他の客たちは、一斉に椅子を引き、

 悲鳴を上げながら外へ飛び出していった。


 駐車場からタイヤの焦げた匂いが立ちのぼる。

 数台の車が急発進し、夜の闇へと消えていく。

 ――残されたのは、トオルとカズマ、そして二体の“それ”。


 トオルは口を半開きにしたまま、動けなかった。

 頭の中では同じ言葉がリフレインしている。


 なにこれ、なにこれ、タコ? いや違う……生きてる? 喋った? 喋ったよな今?


 一方のカズマは、まるで子どものように目を輝かせていた。


「すげぇ……タコが喋ってる! てか金魚鉢被ってる!」


 その温度差が、夜の静寂の中に異様に響いた。



 タコのような一体――金魚鉢の中の水泡をプクプクと揺らしながら、

 テーブルの上のミートボールスパゲッティに目を留めた。

 丸い瞳が、皿を真剣に見つめている。


「これ……食べてもいいですか?」


 その問いは、やけに丁寧な発音だった。

 トオルは完全に思考停止していて、

 焦りと混乱のまま、変な甲高い声を出した。


「は、はいっ!」


 “金魚鉢タコ”は嬉しそうに「ありがとう」と言い、

 ゆっくりと頭の金魚鉢を外した。


 ――その瞬間、ジャバァッ!と水があふれ出し、

 トオルとカズマのシャツをびしょぬれにした。


「うわっ、つめてっ!」

「ちょっ、お前水圧どうなってんだよ!?」


 そんな抗議などお構いなしに、タコたちはフォーク――のような器具で

 ズルズルとスパゲッティを巻き取り、

 もぐもぐ、もぐもぐ、と幸せそうに食べ始めた。


 皿の上のスパゲッティーが、一瞬で消えていく。



 トオルとカズマは、顔を近づけて小声で囁き合った。


「……おい、カズマ。あれ、なんなんだ?」

「見りゃわかるだろ、宇宙人だよ!」

「こんな漫画みたいな見た目の宇宙人、いてたまるか!」

「いやでも、喋ってるし、浮いてるし、水出てるし……宇宙人以外の何なんだよ!」


 トオルが口を開こうとしたその瞬間――

 ぬるり、と何かがカズマの肩を叩いた。


 冷たく、弾力のある感触。

 振り向くと、触手がちょこんと乗っている。


「これ……」

 タコのような宇宙人が、ミートボールを指さしていた。


「……これ、何?」


 トオルとカズマは、互いに顔を見合わせた。

 その顔には、同じ言葉が浮かんでいた。


 ――“やばいのに巻き込まれた”。



 「……これ、何?」


 タコのような生物が、ぷるぷると触手を震わせながらミートボールを指している。

 トオルは喉がひゅっと鳴った。

 カズマが代わりに答える。


「え、えっと……ミートボール、です」

「ミート……ボール?」


 もう一体の方が、まるで神聖な儀式でも見守るように、その言葉を復唱した。

 二体のうち、金魚鉢を外した方は体色が赤みがかっており、

 もう一体は青白く、透明なヒレのような器官がゆらゆらと揺れている。


 赤いほうが、トオルとカズマに向かってゆっくりと身体を傾けた。

 そして、ぷくりと泡を吐き出しながら言った。


「私の名は――ボロネ。

 こちらは相棒の――アルミガーです」


 青白い方が、にこり(のような表情)を浮かべ、器用に触手を振った。


「どうもどうも! 地球のヒューマンのみなさん!」


 そのテンションの高さに、トオルは反射的に引いた。

 ボロネは淡々と続ける。


「我々は、銀河調理文化交流連合 第三探索班に所属しておりまして……」

「……どこの組織だよそれ」トオルが小声でぼやく。

「簡単に言えば、銀河の“食”を探求する旅をしているのです」


 アルミガーがすかさず補足するように前のめりになった。


「そうそう! 私たちはね、宇宙でもっとも美味しいミートボールのレシピを探してるんだ!」


「ミートボール……を?」

 カズマが目を瞬かせた。


「はい!」アルミガーの目が輝く。

「我々の母星〈ソース=プラネット〉では、かつて“至高の球体料理”をめぐる大論争が起きまして――」

「……球体料理?」

「そう、球体であることこそが、食の完全なる形だと信じられているのです!」


 トオルは口を半開きにした。

 カズマは笑いを堪えきれず、鼻で息を漏らす。


「お前ら……球体至上主義かよ」

「はい、その通り!」アルミガーは胸(のような部分)を張った。

「だが、今やその信仰も分裂し、銀河各地で“ミートボール”の定義をめぐる争いが絶えない……」


 ボロネが静かに頷く。

「だからこそ、我々は原点を探している。

 ――“真のミートボール”が生まれた星を」


 トオルとカズマは顔を見合わせた。

 カズマが小声で囁く。


「……おい、まさか」

「まさか、だな」


 二人の視線が皿の上――わずかに残ったソースの海に落ちる。

 アルミガーが、そこに触手をつっこんで、ペロリと舐めた。


「……間違いない。これは“本物”だ」


「……は?」

「地球こそ、ミートボールの発祥地!」アルミガーが断言した。


 ボロネは落ち着いた声で告げる。


「我々は、あなた方に協力をお願いしたい。

 “究極のミートボール”のレシピを――共に探すのです」


 トオルとカズマは、しばらく固まっていた。

 次の瞬間、二人の口から同時に声が漏れた。


「……いやいやいやいや!」


 カズマが両手を振り回す。

「俺らただのサラリーマンとフリーターだぞ!?」

「料理番組とか出たことねぇし!」


 アルミガーは真剣な目で言った。

「でも、あなたたちが食べていた。その“奇跡のミートボール”を!」


 ボロネが静かに続ける。

「あなた方の舌こそ、我々が求めていた“地球の記憶”なのです」



ダイナーの蛍光灯が、再びチカチカと点滅した。

 どこかで低いエンジン音のような振動が響き始める。


 トオルが顔を上げると、

 店の窓の外――夜空に、銀色の光がゆっくりと降りてきていた。

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