『春、夜』
今日の日付は3月31日だ。
そして今の時刻は23時48分26秒。
俺は中学3年生、卒業式は終わった。
あと数分で俺は高校生になる。
行く高校は決まっている、とある公立の学校、結構良いところだ。
中学の先生からは、3月31日の24時までは中学生なんだから、気を抜くなよ。
とか言われた。
中学生生活、それは楽しかったとも。
最高だった。
それが、あとちょっとで終わるんだ。
俺は今、学校のに向かっている。
ある奴と会うためだ。
なんというか、彼女といえば分かりやすいかもしれない。
俺の彼女。
今から、会いに行く。
高校は別、だからこれからはもう殆ど会えない。
せめて最後の日ぐらい、思い出を作りたかった。
校門が見えてくる。
そこに彼女は居た。
制服を着て、1人で立っている。
「おぉい」
大声で呼んでみる。
気づいてくれたようだ。
俺は彼女の元へ近づく。
「ねぇ、今日も良い夜だね」
「おう、最後に相応しい感じの夜だ」
「これで、私達も別々になるんだよね」
「まぁな、でもまた会えないわけじゃない、会おうと思ったらいつでも会えるさ」
俺は彼女の額をさわる。
眼が少し赤いのは気にしないでやろう。
時計を見る、時間を確認する。
「あと3分で俺達の中学生生活も終わりだ」
「そっか……あと少しか……」
俺は何を言わず彼女に抱きつく。
季節は春、校庭の桜は少し咲いている。
身体に触れていく風。
心地よい。
心も、身体も温かい。
心の中で思う。
あぁ、あと1分だ。
今までのことを思い出す。
笑ったこと、泣いたこと、怒ったこと……。
なんて楽しい日々だったのだろうか。
思い出すのは一瞬。
そして現実に引き戻される。
あと34秒。
あと33秒。
あと32秒。
「知ってるか」
「何??」
「春、それは終わりの季節である。夜、それは1日の終わりである」
「今の状況にぴったり」
「その通りだな」
「ずっと、ずっと、大好きだよ」
「俺もだ、いつまでも、大好きだ」
あと8秒。
「カウントダウン、してくれ」
「5」
『4』
『3』
『2』
『1』
『0』
俺はゆっくりと彼女から離れる。
12時6秒。
12時7秒。
12時8秒。
そして、俺は言う。
彼女に、大きな声で。
「俺と、付き合ってください」
そして彼女は言う。
「もちろん、喜んで」
俺達は手をつないで、学校から離れていった。
「遠距離になるけど、本当によかったのか??」
「何度も言わせないの」
「んー、まぁ、いっか」
「そうそう、好きであれば別にいいの」
「そうだな」
「ねぇねぇ、さっき、春と夜の話したじゃん」
「あーと、春、それは終わりの季節である。夜、それは1日の終わりである、だっけ??」
「それ、実は続きがあるのよねー」
「え、本当かよ」
「知りたい??」
「是非とも」
「春、それは始まりの季節である。夜、それは1日の始まりでもある。」
「対句かよ」
「そんな感じなんじゃないの??」
「でも、良い言葉だ」
「そうね」
「これからも、ずっと一緒に居れる」
「ずっとは無理かもねー」
「……そんなこと言うなよ」
「もちろん嘘だけどね」
そんな話をしながら、俺達は帰っていった。
今日の日付は4月1日だ。
そして今の時刻は0時13分49秒。
俺は今、高校1年生。
そして、彼女居ます。
そうだ、忘れないでおこう、この言葉を。
春、それは始まりの季節であり、終わりの季節でもある。
夜、それは1日の終わりであり、1日の始まりでもある。
終わりは、1つの始まり。
良い言葉だな。
昔書いた奴って、やっぱり今見返してみると怖い。かなり怖い。