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冬の童話祭2025

水槽の中の冒険

作者: 六福亭

 その大きな水槽の中にいるのは、たくさんのめだかたちと、砂の上をしゃこしゃこと歩いているエビ、そしてタニシでした。


 ある時、めだかのお母さんが生んだたくさんの卵が孵りました。ちっちゃな赤ちゃんめだかが、開いたばかりの大きな目をぐりぐりと丸くして、水の中を頼りなげに漂っています。エビが、砂の中を掘る手を止めて、上の方でわいわい騒いでいる赤ちゃんめだかを見上げました。ガラスにはりついてのんびりと過ごしているタニシも、どことなくめだかたちを気にしているようです。


 赤ちゃんめだかたちは、やがて仲良くなった兄弟や、お母さん、めだかのお兄さんお姉さんとともに、まるでずっと前から水槽にいたかのように、縦横無尽に泳ぎ回り始めました。


 トトも、その中の一匹です。生まれた時にとなりにいた兄弟のククと、追いかけっこや水草を使ったかくれんぼで遊びます。


 ある時、ククが、トトに内緒話をしました。

「壁にはりついて、ちっとも動かないタニシって奴がいるだろ。あいつ、ぼくたちめだかを食べちゃうんだって」

「えーっ!」

 トトは怖くなりました。

「だけど、どうやって? タニシは、全然動かないのに」

「それがね、不思議な魔法を使うらしいんだよ」

 ククはしっぽをぱたぱたとゆらしながら言いました。

「タニシに狙われると、なんだかへんてこな気分になって、タニシに近づきたくなっちゃうんだって。それで、待ちかまえていたタニシが、やってきためだかを……ぱくりと……」

 トト、そしてしゃぺっているククも、怖くてぶるぶる震えました。

「ほんとかどうか、たしかめてみない?」

 ククにそう誘われ、トトはびっくり。

「いやだよ。食べられちゃったらどうなるの?」

「だいじょうぶだよ、あぶなくなったら、泳いで逃げればいいんだ」

「それもそうだね」

 トトとククは、仲良く並んでタニシの元へ泳いでいきました。タニシは二匹に気がついていないのか、殻の中で静かにしています。

 タニシにもうちょっとで触れそうなところまで来たけれど、なんともありません。トトとククは顔を見合わせました。

「大したことなかったね」

「もうちょっと、近づいてみようか」

 そう言ってククが、大胆にもタニシの貝殻にのっかった時__


 ぱくん! タニシが、大きな口を開けて、ククを食べようとしました。ククは、あわててよけました。


 タニシは、二匹を目の前にして、にやにや笑っています。トトはすっかり怖くなりました。

「クク、逃げよう!」

 けれど、ククはトトの言葉が聞こえていないみたいに、ふらふらとタニシに近づいていこうとします。タニシも、がばっと口を開けて、待っています。黒い口の中に、鋭い牙がずらりと並んでいました。


「ククったら!」

 トトは、必死にククが前に出て行こうとするのを押さえます。それなのに、ククはトトをひきずってでも、タニシの口の中に入っていこうとするのです。なんと恐ろしい、タニシの力でしょう。


 けれどその時、水槽の蓋ががらっと開いて、めだかたちのごはんがぱらぱらと落ちてきました。タニシはそれにつられて、思わず水面を見上げます。


 ククははっと正気を取り戻し、トトと一緒に逃げだしました。


 それ以来、トトとククは、タニシには近づかないようにしています。けれど、タニシの数がだんだん増えているようなのです。めだかの赤ちゃんが生まれるたびに、二匹はタニシの怖さをしっかりと教え込むのでした。


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― 新着の感想 ―
最近はめだかを見かける機会が少なくなっているような気がしますねー。
2025/01/11 15:18 退会済み
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