水槽の中の冒険
その大きな水槽の中にいるのは、たくさんのめだかたちと、砂の上をしゃこしゃこと歩いているエビ、そしてタニシでした。
ある時、めだかのお母さんが生んだたくさんの卵が孵りました。ちっちゃな赤ちゃんめだかが、開いたばかりの大きな目をぐりぐりと丸くして、水の中を頼りなげに漂っています。エビが、砂の中を掘る手を止めて、上の方でわいわい騒いでいる赤ちゃんめだかを見上げました。ガラスにはりついてのんびりと過ごしているタニシも、どことなくめだかたちを気にしているようです。
赤ちゃんめだかたちは、やがて仲良くなった兄弟や、お母さん、めだかのお兄さんお姉さんとともに、まるでずっと前から水槽にいたかのように、縦横無尽に泳ぎ回り始めました。
トトも、その中の一匹です。生まれた時にとなりにいた兄弟のククと、追いかけっこや水草を使ったかくれんぼで遊びます。
ある時、ククが、トトに内緒話をしました。
「壁にはりついて、ちっとも動かないタニシって奴がいるだろ。あいつ、ぼくたちめだかを食べちゃうんだって」
「えーっ!」
トトは怖くなりました。
「だけど、どうやって? タニシは、全然動かないのに」
「それがね、不思議な魔法を使うらしいんだよ」
ククはしっぽをぱたぱたとゆらしながら言いました。
「タニシに狙われると、なんだかへんてこな気分になって、タニシに近づきたくなっちゃうんだって。それで、待ちかまえていたタニシが、やってきためだかを……ぱくりと……」
トト、そしてしゃぺっているククも、怖くてぶるぶる震えました。
「ほんとかどうか、たしかめてみない?」
ククにそう誘われ、トトはびっくり。
「いやだよ。食べられちゃったらどうなるの?」
「だいじょうぶだよ、あぶなくなったら、泳いで逃げればいいんだ」
「それもそうだね」
トトとククは、仲良く並んでタニシの元へ泳いでいきました。タニシは二匹に気がついていないのか、殻の中で静かにしています。
タニシにもうちょっとで触れそうなところまで来たけれど、なんともありません。トトとククは顔を見合わせました。
「大したことなかったね」
「もうちょっと、近づいてみようか」
そう言ってククが、大胆にもタニシの貝殻にのっかった時__
ぱくん! タニシが、大きな口を開けて、ククを食べようとしました。ククは、あわててよけました。
タニシは、二匹を目の前にして、にやにや笑っています。トトはすっかり怖くなりました。
「クク、逃げよう!」
けれど、ククはトトの言葉が聞こえていないみたいに、ふらふらとタニシに近づいていこうとします。タニシも、がばっと口を開けて、待っています。黒い口の中に、鋭い牙がずらりと並んでいました。
「ククったら!」
トトは、必死にククが前に出て行こうとするのを押さえます。それなのに、ククはトトをひきずってでも、タニシの口の中に入っていこうとするのです。なんと恐ろしい、タニシの力でしょう。
けれどその時、水槽の蓋ががらっと開いて、めだかたちのごはんがぱらぱらと落ちてきました。タニシはそれにつられて、思わず水面を見上げます。
ククははっと正気を取り戻し、トトと一緒に逃げだしました。
それ以来、トトとククは、タニシには近づかないようにしています。けれど、タニシの数がだんだん増えているようなのです。めだかの赤ちゃんが生まれるたびに、二匹はタニシの怖さをしっかりと教え込むのでした。




