8話.御剣ユリアにバレちゃいました
「えっと、僕?」
「うん。少しお話がしたくて。ついでに、校内を案内してくれたら嬉しいな!」
そういえば、先生に担当を任されていたのを思い出した。
それなら、しょうがない。
「分かった、案内するよ明野さん。有明さんは……」
「私の事は水鏡様かユナ様と呼びなさい。案内は不要よ」
そうですか。クラスメイトに遮られて顔どころか姿も見えないけれど、その声はよく届く。
澄んだ声というのもあるけど、耳に入ってきやすい声なんだよね。
ざわめきの中でも、彼女が声を発すると聞こえる。
「了解。それじゃ明野さんを案内するね。と言っても、うちの学校はそんな見所なんてないと思うよ。普通の進学校だからね」
「あはは、そっか。それでも、お願いしますっ!」
人好きのしそうな笑顔でそう言う彼女に、そりゃファンが増えるわけだと思った。
「博人、悪いけど……」
「おう。飯の事なら心配するな。俺が全部食っとくからよ!」
「そこは置いておいてくれるかな!?」
僕が昼から持たないだろ!
「はは、冗談だよ。ほれ、さっさと行ってきな。明野さん待ってるだろ」
「あ、ああ。それじゃ明野さん、行こうか」
「うん!」
そう言って僕が廊下に出ると横にピタッとくっついてくる明野さん。
「あ、あの。引っ付きすぎじゃないかな……?」
「ご、ごめんね。なんだか姫咲君の隣、安心するんだよね。私の好きな匂いがするの」
「に、匂い?」
そういえば、転校してきた日もそんな事を言っていたような?
「うん。私ね、人の匂いに敏感なんだ。香水とかでその人本人の匂いが消えちゃう事もあるんだけど……人それぞれに特有の匂いがあって、それを嗅ぎ分けられるの」
犬かな? 猫も匂いには敏感と聞いた事があるけど。
「そ、そっか」
「気持ち悪いよね、あはは……変な事言ってごめんね」
「驚きはしたけど、気持ち悪いなんて思わないよ。人それぞれ、色んな特技というか、あって良いんじゃないかな?」
「姫咲君……」
これは本心だ。僕がユリアの事を知っているからというのもあるかもしれないけれど、気持ち悪いなんて思わない。
「ふふ、不思議だな。姫咲君とは会ったばかりなのに、なんでかなぁ。自然と話せちゃった」
「……」
ぐぅっ。この子、自分の可愛さを理解していないのか?
男の子はピュアなんですよ。チョロいんですよ。僕の事好きなのかと結婚までシミュレーションしちゃう生き物なんですよ!
「姫咲君?」
「はっ!? あ、えっと、この先は三年生の教室になるから。で、こっち側が音楽室だよ」
「ここが音楽室なんだぁ」
うちの学校は吹奏楽部が全国に出ている為、音楽室には金が掛かっていたりする。
なので、他の部室より広く楽器も多々揃っている。
「入ってみたい?」
「入れるの?」
「じゃーん、鍵」
「なんで姫咲君が鍵を持ってるの!?」
「楽器のチューニングを時々してるからね。先生が合鍵を貸してくれてるんだ」
「ほぇぇっ! 姫咲君って多才なんだね! ダンスも出来るんでしょう!?」
「え? なんでそれを?」
「あっ」
しまった、という顔で、顔を逸らすユリア。
それから息を吸って、真面目な顔を真っすぐに向けてきた。
「ダンスの事、クラスの皆から聞いたの。お願い、姫咲君。私にダンスの指導をしてくれませんか!?」
「えぇっ!? いや、ちょっと待って! 僕なんて……」
「聞きました! 姫咲君はダンスの講師顔負けなくらい上手なんだって! 私もっと上手くなりたいんですっ! レオナちゃんには及ばなくても、ユナちゃんに置いて行かれないくらいにっ!」
その瞳は、真剣だった。
そういえば、昨日の練習の時も言っていたな。
「レオナちゃんもユナちゃんも、本当に踊りがカッコイイ。私、どうしたら二人のように踊れるのかな……」
「あら、ユリアはそれで良いのよ? 私とレオナに合わせる必要は無いの」
「でも……!」
「……Harmonics」
「レオナちゃん……はーも、にくす?」
「そうよユリア。Harmonicsとは調和音の事。私とレオナ、それにユリアの歌とダンスが合わさってこそのスターナイツなのよ」
「……」
「二人共……うん、ありがとう」
納得したように思っていたけれど、納得しきれていなかったのか。
「うーん……とりあえず、庭に出ようか」
「うん!」
そうして来たのは校庭。
中央に校長の銅像がある以外は、広い場所だ。
弁当を食べにくるグループが少し居たりするけど、基本スペースは空いている。
ユリア見たさに人は集まってくるけど、これはもう有名税と思って諦めるしかない。
「とりあえず、僕がここで踊ってみるから。それで習うかどうか決めてみて」
「!! はいっ!」
というわけで、スマホの音量を最大にして、音楽を流す事にする。
流石にスターナイツの歌を踊るわけにはいかないので、SNSでよく流れている踊ってみたっていうのを流す事にする。
僕も他の人の踊りをよく見るので、同じ踊りをするのは苦じゃないからね。
「おいっ! 姫咲が踊るみてぇだぞ!?」
「マジで!? これは見にいかねぇと!」
「やった! 姫咲君の踊り文化祭じゃなく見れるなんてラッキーじゃない!?」
噂を聞きつけたのか、話が流れるのが物凄く速い。
去年の文化祭でダンスをしたのがきっかけで、高校でもダンスが上手いと評判になったんだよね。
中学の時からの知り合いは知ってた為、それで推されたせい。
「それじゃ、踊るよ。この踊りを見ても習いたいって言うなら、って事で」
そう言って動画の再生ボタンを押す。
流れてくる音楽に合わせて、動画通りに踊る。
まぁ多少アレンジを加えても構わないだろう。
そうして踊り終えたら、周りから凄い拍手をされた。
けれどそんな中で、ユリアはマジマジと僕を見る。
どうかしたのかな?
「あの、姫咲君。ちょっと、良い?」
「え? うん」
皆に囲まれている中、ユリアに腕を引かれて移動する。
人気のない場所に連れてこられて、この状況はまさか告白ではという脳内ピンク色に染まりつつあった脳が、
「姫咲君、ううん。レオナちゃん、だよね?」
この一言で真っ白になったのは言うまでもない。
「な、え、い、ち、違」
「ううん、間違いない。私はずっと、ずっとレオナちゃんの動きを見てきたもん。匂いだけだと私の気のせいの可能性もあった。だけど、踊りは、踊りだけは勘違いじゃない。あの動きのキレ、身体の動かし方、筋肉の動き方、身体の軟らかさ。他の人ならまだしも、私の目はごまかせないよレオナちゃん」
「……」
別の意味で無言になってしまった。
僕はまた、やらかしてしまったようだ。
一番、知られたくなかった人の一人に、バレてしまった。
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