4話.親戚になってしまいました
布団を被って丸まってると、美香のスマホが鳴った。
「お姉ちゃんだっ! はいっ! うん、うん、そうなの! だから今お兄ちゃんを……え? 放っておいて良い? で、でも! え!? 親戚!? ちょ、お姉ちゃん!? 待っ……切れちゃった」
美香の声を布団の中から聞いていると、何やら気になる単語が出た。
布団からもぞもぞと顔だけ出した僕は、美香に尋ねる。
「姉さんから? なんて?」
「えっと、お姉ちゃんに任せておけば良いって。事務所の方で対応するからSNS見ておきなさいだって。あと、レオナお姉ちゃんと私達、親戚になるから覚悟しておきなさいって伝えておいてって」
Oh……どういう事なの。
「と、とりあえずSNS見てみるか」
「そうだね。というかお兄ちゃん、スマホは?」
「それも学校に忘れてて、取りに行こうと思った理由の一つ」
「……。お兄ちゃんてさ、時々すっごく抜けてるよね」
「……面目次第もございません」
「まぁ昨日のは私のわがままのせいもあるけど……それでもちゃんと呼び留めようとしたんだからね? お兄ちゃん身体能力プロのアスリート並みなんだから、私が追いつけるわけないんだよ!」
「はい……」
僕は小・中学生の頃はずっと運動をメインでやってきた。
朝は学校に行くまでにランニング、学校が終わったらジムに行って体を鍛えていた。
小学生の頃は足が速ければモテルかなって不純な動機で始めたランニングだったんだけど、これが自分には合っていた。
走るのが好きで、全身を動かすのが好きで……でも格闘技とかが好きなわけではなくて、ただ体を動かす事が好きだった。
まぁ、筋肉はついたもののマッチョみたいにはならず、細腕のままだったのは悲しかったけど。
そんなこんなで、中学2年生の時に、姉さんからダンス講師を紹介された。
思えばあの時から、アイドルの事を考えていたのではないかと思う。
姉さんは天才だ。弟の贔屓目を抜きにしてもそう思う。
僕と美香は一歳違いだけど、姉さんは僕達と七つ離れている。
齢二十四にして事業会社の副社長をしているし、何人ものスターを輩出してきた。
テレビの有名人達が、こぞって姉さんとの出会いがなければ、今の自分は無かったと言っているくらいだ。
そしてそれは、星美レオナにも言える事だ。
姉さんの影響力もあって、一躍有名になったというのもあるんだから。
「あ……事務所の公式がエックスで発言してる。これだね」
「何々……『すでに名前が挙がっている為、プライバシーの観点から彼を保護する為にも、こちらで公表する事に決めました。件の彼は、星美レオナの親戚であり、知人です。星美レオナからもすでに連絡があり、金曜日のライブの後、彼の妹に会いに家に寄ったとの事です。そしてその際に彼が学校に忘れ物をしていると聞き、なら車のある私が取りに行く方が早いかと思い行動した、今では軽率な事をしたと反省しています。関係者各位の方、またファンの皆さんにはお騒がせをして大変申し訳ありませんでした。ただ、この事で彼らに被害が出る事のないように願います。もし迷惑をかけるような方が居ると知ったら、私はアイドルを辞めます。以上が星美レオナからの言葉となります。そして……』」
まだ続きがあるが、一旦そこで目を止めた。
「姉さん……」
「あれで家族想いだからね、お姉ちゃん。もし何かあったら、アイドル活動辞めて良いよって言ってくれてるんだね」
「そうだな……僕は、アイドル活動をしているっていう自覚が足りなかった」
「お兄ちゃん……」
「気をつけないとな。……だって、姉さんも美香も、星美レオナを好きだって言ってくれてるんだから」
「お兄ちゃん!」
「うわっ!? い、今は僕だぞ!?」
「もう、そんな事分かってるよ! だけどお兄ちゃんがそう言ってくれて、嬉しいからっ!」
「はは……」
満面の笑みでそう言ってくれる美香に感動していると、とんでもない事を言い出した。
「そうと決まれば、早速私とお姉ちゃんで外出しないとだね!」
「え? なんで?」
「親戚って発表しちゃったんだし、お兄ちゃんじゃなくて妹の私に会いに来たって真実を見せないと!」
「あ、ああ、成程……?」
「鉄は熱いうちに打てって言うでしょ!? さ、私も着替えてくるから、お兄ちゃんも着替えてね!」
「わ、分かったよ……」
「くぅ~! これでレオナお姉ちゃんと一緒に堂々と外を歩ける! し、幸せぇ~!」
そんな事を言いながら、部屋を出ていくマイシスター。
図らずも、昨日朝に言っていたお出かけが実現する事になってしまった。
それ絶対に私欲入ってるよね?
まぁ、美香の言う事も一理ある。僕とじゃなくて、妹となら大丈夫だろう。女性アイドルって、男の影が見えたらいきなりアンチ化する男が一定数居るって聞くしなぁ。
やるからには気合を入れて完璧に、着替えるとするか。
姉さんから習ったメイクの仕方、今では姉さんの手助けが無くても出来るようになったけれど、これが大変だった。
世の女性は美に時間を掛けて、努力しているんだよなぁ。
こんな事でもなければ、僕は一生気付けなかったと思う。
思えば、レオナの姿で誰かと外に行く事なんて無かったし、緊張するなぁ……。
早速ブックマークが10を超えていて驚いています、ありがとうございます!
読んでくれている方が居てくださると、書くモチベーションが上がります。
ストックなんてありませんが、書きあがり次第続きを投稿していきますので、お楽しみ頂けたら嬉しいです。
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