14話.博人にドラムを教える事になりました
二分割した方が良いかもと思いましたが、今回少し長いです。
「よぉみっちゃん、おはよ! 拓都はどうし……てぇぇぇっ!? ほ、星美レオナ様!?」
「もぉ、うるさいよひろ君。お兄ちゃんは体調不良で今日はお休み。レオナお姉ちゃんは、金曜のライブでうちの文化祭に来るって公言しちゃったでしょ? だから学校側に許可取りにいかないとらしくて、なら一緒に行こって言ったらOKしてくれたんだよ」
「な、成程。あ、あの、俺、立川博人って言います! その、この間のライブ、改めてありがとうございましたっ!」
そう言って体を90℃曲げてお礼を言う博人。
無言だと伝わらないし、喋るしかないか。
普段やってる事だけど、いざ親友に声を変えてしゃべるのは緊張するな。
「気にするな。私がやりたくてやった事だ、お礼を言われる為にやったわけじゃない。……ライブは特別なものだからな。彼女のトラウマになりでもしたら、残念だと思っただけだ」
「~っ! は、はいっ! ありがとうございますっ! さっちゃんも、じゃなくて、あの時助けてもらった子が佐川皐月って言うですけど、滅茶苦茶感激してました!」
「……そうか」
それは普段の二人から聞いているので、よく知っている。
あの時のレオナ様がめっちゃカッコよくて~って、すでに休み時間に何度も聞かされた。
よもや本人に直接伝えているとは思わないよね。
「ひろ君、今日は一緒に行くのどうする? お兄ちゃん居ないし、私だけだったらなんともないだろうけど……」
「あ、そ、そうだな。レオナ様俺居たら邪魔っスよね!?」
親友にそんな困った顔をさせたくなくて、つい言ってしまった。
「別に構わない。美香と拓都の友人なんだろ」
「!!」
<<もうお姉ちゃん、せっかくフォローしたのに!>>
<<ごめん美香。でも博人にあんな顔させたくなかったんだ>>
<<はぁ、しょうがないなぁもう>>
なんて呆れ顔にさせてしまった。
うう、これについては私が悪いので何も言えない。
「みっちゃん、レオナ様と仲が良いんだなー」
小声で話しているのを見てもそんな事言ってるので、まぁ気にしなくて良さそうだけど。
「お、おいアレ!」
「キャァァァッ! レオナ様だっ!!」
「え、なんでレオナ様が!?」
通学路に人が増えてきて、ざわめきも増えてきた。
ちなみに今の私は私服だけど、ちゃんと学校に事務所からというか姉さんから話は通っている。
まぁ言っちゃえば、世間体の為だけに学校に行く所を見せているので、騒ぎになるのは織り込み済みというか、今回に限っては噂になってくれた方が良いので、何も言うことは無い。
校長室まで行って、お茶でも飲んで帰るっていうミッションだ。
その代わり、姫咲拓都としては今日欠席なんだけどね……まぁ去年からある程度アイドルの仕事で欠席しているし、皆勤賞とは無縁なので一回増えた所でだ。
「……」
「「「「「!?」」」」」
周りを見渡せば、皆がビクッとする。
溜息をつきそうになるけど、ポーカーフェイスで無表情を気取り、美香と博人と共に学校へと歩く。
その間、美香と博人が中心に会話をしてくれるので助かった。
美香とだけだったら、美香が苦しい思いをしたかもしれない。
だって私は基本喋れないからね……。
声を出さないとどうしようもない時以外、極力話さないようにしているから。
特に、博人の場合は注意しないといけない。
いつバレるか分からないしね。
そんな事を考えていたのに……
「はぁ……」
「どしたのひろ君?」
「あっと、ごめんごめん。ちょっと悩んでる事があってさ」
「おー、お兄ちゃんならどうしたの? って聞くだろうけど、私は聞かないよ? 気配りのできる女ですから」
「なんでだよ! そこはどうしたの? って聞いてくれよ!」
「はいはい、ひろ君はめんどくさい男子ですね。それで、どうしたの?」
「くぅぅ、結局聞いてくれる所は好きだけど、なら最初に断らなくても良くない?」
「乙女心は複雑なんです」
「そう言われたら男は何も言えんけどさ! まぁ良いや、悩みってのは他でもない、俺のドラムなんだけどさ……」
「『グローライト』でひろ君はドラムだったねそういえば。ドラムって地味だよね?」
「そうそう……ってそんな事は悩んでねぇから!」
「そうなの?」
「そうなの! 実はギターのペースについていけない時が出てきてさ……調整はやってるんだけどなぁ……」
「……」
思わずつっこみそうになったのをグッと堪える。
ギター、ベース、ドラムはかみ合えば最高の音楽を生み出せる。
そしてそれは、奏者達もとても気持ちよくなれるんだ。
そこに違和感が入ると、音にノイズが混ざった感じになり、楽しくもなくなり不協和音が響いてくる。
それの原因には大体心当たりがある。
それは、誰かが上手すぎる場合。
突出して上手い誰かが居ると音楽は楽しくなくなってしまうからだ。
だから、ソロでやるようになった人を知っている。
私も最初はソロだったけれど、対等の仲間を得られた事で、一緒に音楽を楽しむ事が出来るようになったからだ。
『グローライト』メンバーのギターとベースの人の腕が博人よりも高くなったんだろう。
ドラムは重労働だし、大変な役回りでもある。
それ故に難度が高めだ。
音楽で一番大事なリズムを、ドラムが管理する場合が多いから。
リズムが良ければ音楽はとても気持ちが良くなるんだ。
博人にはアドバイスをしてあげたい、そんな思いがあって。
「体力作りはしているか?」
「「え?」」
だからつい、言ってしまった。
しまったと思ったけど、もう遅い。
言ってしまったからには、最後まで言うしかない。
「ドラムは体力が必要だ。そして一番大切なのは、リズム感だ。これが無ければギターもベースも気持ち良くプレイ出来ない」
「!!」
「良いサウンド(音)は良いリズムから生まれる。メトロノーム並みの完璧なリズムキープが出来るようになれ。後はベースがギターの邪魔をしない勘所をおさえたシンプルなベースライン、だが決して沈む事のない強力な存在感を出せれば、ドラムと交わる事によってリズムマシン(機械)では出せない生きたノリを作り出せるようになる。そしてそれが出来て初めて、一緒にプレイする楽しさが生まれる」
「「……」」
しまった、つい音楽の事だから熱くなってしゃべりすぎた……!
こんな事言われても普通の人には引かれるだけだと言うのに……!
「レオナ様、恥を忍んで頼みます! 今日、俺のドラムの練習を見てもらえませんかっ! この通りですっ!」
と思っていたら、また体を直角に曲げてそう言う博人。
できれば博人の頼みは聞いてあげたいけれど……ええと今日は月曜日だし事務所のスケジュールは昨日話し合って何もなかったはずだから、時間はあると言えばあるわけで。
「……ふぅ、良いだろう。今回だけ特別だ」
「!! マジですか!? あ、ありがとうございますっ!」
本当に私は、博人には甘いなと思う。
でも、拓都である僕にいつも優しい博人には、何かで恩返しをしたいと思っていた。
それが僕からでなくても、私として返せるのであれば……それも良いかと思ってしまったんだよね。
それから博人とは下駄箱で別れて、美香に校長室まで案内してもらった(勿論場所を知らないなんて事はないけれど)
校長先生も話は通ってるので、にこやかに迎え入れてくれた。
まぁ色々と話されたけど、私からは特に何も言うことは無かった。
校長先生も私が基本無口なのは理解してくれているようで、質問を振るようなことは無かったし。
ただ、学校を見て周りませんか? にはどうしようかと思ったけれど。
まぁ周知するのが目的だから、良いかと思い頷いた。
それから授業中の教室を案内される事になってしまった。
全部知ってるクラス割を、順次案内されていく。
「お、おいあれ! なんでレオナ様が!?」
「校長先生に案内されてる!?」
「ちょ、マジかよ!」
授業中だというのに、各クラスを見に(と言っても廊下からだけど)行くと、大体同じような言葉が出てくる。
そんな中で、自分のクラスに辿り着いた。
「あ、レオナちゃん!」
「あらレオナ」
来てるのを知ってる二人だけに、驚いた声ではなく、普通に挨拶してくる。
流石にこのクラスだけは中に入らせてもらった。
とりあえず来る時に言った事を周知させておこうと思って。
場所は知ってるけど、誰かを探しているようにきょろきょろと視線を動かし、見つけたという態度を取る。
「……居た。立川だったな。ドラムを教えるのは良いが、音楽室で良いか?」
「あ、はいっ! そういえばそこまで考えてませんでした、すみませんっ……」
「構わない。ならニ限目が終わった頃にまた来る」
「あ、ありがとうございますっ!」
そう言って博人の傍を離れて、次の教室へと案内される。
後ろから、
「ちょっ、立川君どういう事なの!?」
「博人お前! レオナ様とどういう関係なんだよ!? 佐川という彼女がいながらよぉ!?」
「そうだよヒロ! あーしの知らないうちに、どうしてレオナ様と連絡とりあえてんだし!? 教えろし! ズルいし!」
「佐川がレオナ様にじゃなくて立川に嫉妬してんのジワル」
「だー! 説明するから待ってくれ!」
「おーい、今授業中だぞー……」
等々聞こえてきた。
まぁ博人から言ってきたんだし、自分で何とかしてほしい。
そんなこんなで一旦家に帰ってゆっくりした後、今度は後藤さんに車を手配してもらい、授業が終わって文化祭の準備が始まる時間にまた行く事にした。
なんで変装して二回も学校に来ているのか……。
「……」
「「「「「!!」」」」」
クラスの扉を開けると、先程まで聞こえていた喧騒が消えた。
シーンとしたクラスの中に一歩入ると、耳をつんざくような歓声が聞こえだした。
「「「「「レオナ様だぁぁぁぁっ!!」」」」」
「わ、レオナちゃんだ!」
「貴女がこの教室に居ると変な感じがするわねレオナ」
言われ放題だけど、とりあえず無視して博人を探す。
すぐに見つけたので、博人の方へと歩いていく。
「!!」
「約束を果たしに来た。行くぞ」
「あ、はいっ! その、さっちゃん、じゃなくて、同じ『グローライト』のメンバーの子が一人居るんですけど、その、」
「れ、れれレオナ様! あーし、佐川皐月って言います! その、この間のライブで助けてもらって、あーしマジで嬉しくて、」
「落ち着け。分かった、お前も行くんだな? 構わない」
「「ありがとうございますっ!」」
仕方がないとはいえ、友人二人にこんな態度を取るのが凄く申し訳ない気持ちでいっぱいです。
音楽室の鍵は持っているけれど、ちゃんと担当の先生から受け取っているので、鍵を開けて中へと入る。
ドラムの前に行き、私は座ってストロークで軽く音を出す。
「「!!」」
うん、良い感じだ。
それから少しの間だけ音を出し、腕を止める。
「す、すげぇ……」
「マジ凄いし……同じドラムなのに、こんなに音が変わるの……?」
「……これがシャッフルだ。独特のジャンプフィールを出すのは初心者には難しいが、これが出来なければ良いリズムを生み出すのも難しい」
「成程……」
「バスドラのパワーも出せた方が良い。後はスティックの好みの問題もあるが……まずはここにある物で練習してみろ」
「わ、分かりました!」
私は立ち上がって、博人と場所を交代する。
何故だかガチガチの博人に首を傾げながら。
「ヒロ! 気持ちは分かるけど緊張すんなし!」
「お、おう!」
そうして博人がドラムを叩く。
うん、悪くないリズムだ。
だけど……
「どうしてシンバル(金物)を鳴らさない?」
「そ、それは……。えっと、以前壊してしまって……」
うそん。そんな簡単に壊せる物じゃないんだけどな。
スティックが折れるか手首を痛めると思うんだけど……。
「力任せではなく、柔らかいタッチを意識してみろ。特にハイアットの場合叩き方やペダルとのコンビネーションで多彩な表情が出せるようになる。その分テクニックやセンスも要求されるが……先程の腕を見る限り、それは満たしているように思う。私が見ていてやる、やってみろ」
「は、はい!」
それから何度も失敗を繰り返しながら、博人はドラムが上達していった。
「よし。今度は私がベースで演奏する。指揮して見ろ」
「!! や、やってみますっ!」
「あ、ならあーしギターやっても良いですかレオナ様!」
「構わない」
「やった! ヒロ、一緒に楽しもうね!」
「ああ!」
そうして、私と博人、皐月さんの三人でやる演奏は、私にとっても中々に楽しいものになった。
「少しは自信がついたか?」
「はいっ! 俺、あれから音楽を純粋に楽しめてなかったのかもしれません。それが今回、三人でやれて……めっちゃ楽しかったです。あいつらともう一回、やってみます!」
「……そうか。なら、私はこれで帰るぞ」
「ありがとうございましたっ!」
「あーし、レオナ様と一緒にやれたの、マジで嬉しかったし! また文化祭の日に来てくれるんですよね!?」
「まぁ、約束したからな」
「~!! もうめっちゃ楽しみにしてますから! 踊りも公開されたら必死に覚えるし!」
「……そうか。またな」
「「!!」」
そう言って学校から出た私は、家に帰ってから恥ずかしさで悶絶するのだった。
やっぱり友人と他の人じゃ全然違うってば!




