9話.二人と買い物に行きました①
少し長くなりそうだったので分ける事にしました。
「それじゃ行ってくる美香」
「うぅ、良いなぁ。私も行きたいなぁ。後ろからストーカーしても良いお姉ちゃん?」
「ダメに決まってるだろ。そんな許可取る奴が居るか」
「ここに居る!」
「胸を張って言うんじゃないよ」
今日も今日とて、レオナに対しては頭が大分緩くなる妹を制して外に出る。
家バレだけは避けなければならないので、敷地内の専用スペースから車でね。
そうなるとまた後藤さんのお世話になるわけで、土曜日だというのに申し訳なく思う。
一度休みはあるんですか? と聞いたら、交代で取っていますと言っていた。
それにしては、私達の送迎は必ず後藤さんなんだけど……。
「それでは、帰りも連絡をお待ちしております」
「ありがとうございます。後藤さん、今日本当はお休みだったんじゃ?」
「姫咲さんにはもうバレていますよね。そうです、私が好きで勝手にしている事ですので、社長にはどうかご内密に」
そう笑って言う後藤さんには、感謝してもしきれない。
後藤さん以上に信頼できる運転手の人は居ないし、他の人を手配すれば良いなんていう簡単な問題ではないし。
特に、私の問題として。
「それじゃ、行ってきます」
「はい。どうぞ良い休日を」
車の扉を閉めると、走り去っていく。
それを少しの間見つめてから、商店街を歩く。
道行く人が足を止めて振り返ってくるけど、やはり星美レオナの姿は目立つんだろうな。
ステージで立つ衣装とは違うし、スカートではなく長ズボンを履いてるというのに。
そうして歩く事少し、約束の場所に人だかりが出来ている。
「ねぇ良いじゃない。俺と一緒に遊ぼうよ。ね? 絶対楽しいからさ!」
「「……」」
帽子を深く被っていて顔が見えないけど、あれはユリアとユナだろう。
ユリアはともかく、ユナは簡単に追い払いそうなものなのに、どうしたんだろう?
まぁ良いか、助けに行こう。
「おい。私の連れに何か用か?」
「あぁ? 俺は今……えっ!? ほ、ほほほ星美レオナ!?」
「そうだが? で、もう一度聞くが、私の連れに何か用か?」
「レオナちゃんっ!」
「遅いわよレオナ」
そう言って抱きついてくるユリア。衝撃で帽子が地面に落ちてしまった。
「なっ……御剣ユリアに、も、もしかして……」
驚愕している彼をあざ笑うかのように、ユナも帽子を取った。
「フン、愚民の相手をこの私がいちいちするわけがないでしょう」
「水鏡ユナぁ!?」
どうやら二人と認識せずにナンパしていたようだ。
ちなみに、周りの人達は私が来た瞬間から、スマホを構えている人が沢山いる。
絶対これSNSに上げる気だろう。
「す、すみませんでしたっ! 『スターナイツ』の方々だとは知らずにっ……!」
「私達だろうがそうでなかろうが、嫌がる女性に無理強いするな。それがカッコイイ男がする行動か?」
「えっ!? かっ、カッコイイ?」
「ああ。その服装、悩んで決めてきたんだろう? 髪もしっかりとセットしているじゃないか。それだけ一生懸命に時間を掛けた男はカッコイイぞ。見てくれる人は見てくれる。だからダサい事をしてその努力を落とすな」
「~っ!? す、すんませんしたっ! 俺、今後気をつけます! ありがとうございましたレオナ様っ!」
そう言って頭を下げて、彼は走って去って行った。
ふぅ、ようやく二人と買い物に行けるか。
そう思って振り向いたら、ユリアは笑ってるし、ユナはヤレヤレといった表情をしている。
なんでだ。
「……行くぞ」
「うんレオナちゃんっ!」
「ええ。時間に遅れたのはレオナなんだから、何かレオナが奢りなさい」
時間はピッタリであって、二人が私より早く来ていただけだと思うのだけど、それを言っても男側は不利になるだけなのが分かっているので、甘んじて受け入れるしかない。
「わぁ! これレオナちゃんにピッタリ!」
「そうね、クールなレオナには良いんじゃないかしら?」
「……」
何故か着せ替え人形にされている私。
私より二人が色々と着た方が100%良いのだけど、何故私に着せ替えさせる。
「それじゃ次はこれを着て見てレオナちゃん! その次はこれねっ!」
「excellent! もう素敵よレオナ!」
「……」
誰か助けて。
「はぁー、楽しかった! レオナちゃん何を着ても似合うんだもん、羨ましいなぁ!」
「ふふ、本当にね。クール系だけじゃなく、可愛い系まで似合うだなんて、反則だわレオナ」
「……」
数十着と着せ替え人形よろしく着替えさせられた私は、すでに体力がレッドゾーンである。
おかしいな、普段の練習よりしんどいぞ?
「それじゃレオナちゃん、ユナちゃん! そろそろマクドナルドいこっか!」
「そうしましょうか。先週頼んでいたセット、まだあるかしらね?」
「……」
ちなみに、着せ替えした服は全てユナが買った。
マンションに置いておくから、好きな時に着替えなさいって。
きっと永遠に着ない服が出ると思う。
丁度お昼時な事もあって、マクドナルドの込み具合は中々にヤバかった。
扉の前くらいまで人が並んでいる。
「うわー、混んでるねぇ」
「愚民共がゴミのようね」
某大佐を思い起こすような事を言わないで欲しい。
ただ、一番後ろに私が並んだ事で事件? が起きた。
「れ、れれレオナ様!? ど、どうぞ前に!」
「……?」
とりあえず首を傾げながら前へと移動する。ちゃんと入れ替わる時に「ありがとう」とは言っておいたけど。
すると、
「ど、どうぞ私達の前に!」
「お、俺も前にどうぞ!」
……いや、助かるけどそれで良いのか。
一番後ろに並んだのに、先頭付近というか、今注文してる人の真後ろについてしまった。
その人も後ろに並んだ私達を見て驚いている。
「あ、あの、私も前どうぞ!?」
「……いや、貴女が最前列だ。気持ちは受け取る。ありがとう」
「ど、どどどどう致しまして!?」
うん、すっごい挙動不審になってるな。
まぁ私もテレビの有名人で、自分がファンの人に突然会えたら同じようになってしまうかもしれないけど。
まぁ誰もファンなんて居ないので単なる想像でしかない。
「い、いらっしゃいませ! こ、こちらで召し上がられますか?」
「ああ」
「っ!?」
普段レオナとして喋ってこなかったので、それを知ってる人達は今日本当に驚いているんだろうなぁ。
「確かあのセットだよねレオナちゃん!」
「私達のフィギュアねぇ。愚民共には勿体ない代物ね」
「あわわわわ……!」
後ろからユリアとユナも会話に加わった為、店員さんがいっぱいいっぱいになりかけている。
「同じものを3セット頼む」
そう言ってから、レジから少し離れて椅子に腰かける。
一気に追い抜いて注文させて貰ったけれど、良かったのだろうか。
そう思ってレジで注文している人達を見ていたら、皆私達と同じセットを注文している。
「あはは、皆同じの注文してるね!」
「この私達と同じ物を食するだなんて、運の良い愚民達ね」
いや、別に普通にいつも売ってるセットだし。
何の特別性もないと思うけど。
「お、お待たせ致しましたっ!」
そう言って先程レジを担当した人がこちらへと持ってきてくれた。
レジは他の人が担当しているようだけど、こちらを見ながらは危ないのでちゃんと客を見て欲しい。
「ありがとう」
「~~~~っ!!」
そう言って受け取ったら、また感激したかのように店員さんが震えている。
「あ、あはは……レオナちゃんてば」
「仕方ないわユリア。レオナには色々と自覚が足りないのよ」
二人が苦笑しているけれど、何のことかさっぱり分からない。
ハンバーガーを一口食べると、ジューシーな味が口の中いっぱいに広がり、とても美味しい。
思わずにんまりしてしまう。
「「「「「!?」」」」」
なんか見られてる気がして顔を上げると、案の定見られていた。
この気まずさよ。
「見てないでお前達も食べろ」
「う、うん! はぐっ……ん~! おいしー!」
「あまりこういった物は食べないのだけれど……悪くはないわね」
そう言いながらパクパクと食べている二人を見ていると、ハンバーガーを食べた時とは違う笑みが零れる。
いかんいかん、今は外なんだから、ポーカーフェイスを維持しなければ。




