2話.転校生がやってきました
本日2話目になります。
「静かに。今日は転校生を紹介します。あー……いや、本当に静かにな? どうぞ、入ってください」
先生に促され、ドアをガラッと開いて登場した二人に、教室は溢れんばかりの歓声をあげる。
僕は心の中で悲鳴をあげたけど。
「初めまして! 『スターナイツ』メンバー、御剣ユリアこと、明野響ですっ! これからよろしくお願いしますねっ!」
「フン、私はよろしくなんて言わないから。『スターナイツ』メンバー、水鏡ユナよ。本名なんてないわ」
いやあるだろ! お前の名前は有明美沙だろっ!
そう心の中で突っ込んでいたら、流石に先生が言ってくれた。
「ええと……な。ご本人達からの紹介もあったが、明野響さんと有明美沙さんだ。これから一年間、このクラスで一緒に学ぶ事が急遽決まりました。彼女達は仕事の関係で授業に出ない時もあるが、そこら辺は皆も協力してあげて欲しい。以上でホームルームの連絡を終わるが……あー、姫咲!」
「は、はい」
「丁度姫咲の後ろと右側が空いてるから、担当よろしく」
えええええぇぇぇっ!
いや、クラスの皆から男女問わず滅茶苦茶羨ましそうな視線を受けるけど、代われるなら代わりたいよ!?
軽快な足取りでこちらに来る明野は、僕に笑顔で挨拶してきた。
「よろしくね姫咲君!」
「あ、はい……」
明野の知る僕はレオナであって、今の僕じゃない。
そこは気をつけないといけないな。
「……あれ? なんか、姫咲君知ってる匂いがするような……」
ビクーン!? 匂いって、犬か何かなのかな!?
「馬鹿な事言ってないで奥へ行きなさいユリア。この私の前を遮って良いのは、レオナだけなんだから」
「あっ。ごめんね!」
「フン」
俺の後ろの席へと向かう明野に、俺の横の席へとドスンと座る有明。
この二人、『スターナイツ』の時と態度が変わらん!
そりゃ元が男の僕は別としても、一応アイドルとしての自分と使い分けたりはしないんだろうか。
裏表がないと言えば、それまでだけど。
ホームルームが終わると、一気に人が集まる。
噂は秒で流れたらしく、他のクラスからも見物人で廊下がいっぱいだ。
僕はというと、その周りに居れるはずもなく……むなしく廊下へと流されトイレ付近まで来た。
「災難だったなタクト。にしても、同じクラスにトップアイドルが転校してきて、更に席が横とかラノベの主人公かよ」
「その主人公に恋愛要素ゼロでも?」
「……それは読んでてつまらんな」
「良いじゃないか友情でも」
「読者は刺激を求めてるんだよ」
「NTRでも?」
「俺は嫌い」
「僕も」
「まーたアホな会話してるお兄ちゃんにひろ君」
トイレの近くで会話していたら、美香が傍へと来ていた。
「なんで美香が二年の廊下に?」
「そりゃー、話題の二人を見ようと野次馬ですよ」
「ああ、成程……」
そんな人でいっぱいだからね、今。
「やっぱ有名人がガッコに来るとこうなるよなー。しばらくチャイムなっても教室に入れないんじゃないかコレ」
「僕もそう思う」
《本当ならお兄ちゃんもそうなのになー。言いたい、けど言えない。この苦悩をお兄ちゃんは知らないんだよなー、理不尽》
「ん? 何か言ったか美香?」
「別に何もー。あ、チャイム鳴ったから戻るね!」
「おわ、俺らも戻らないとタクト! って動けんぞこれ!?」
「うわー、まるで満員電車だね……」
廊下が人で溢れていて、通れない。
先生の尽力もあり、10分ほどで教室に皆戻る事が出来た。
授業に深刻なダメージである。
生徒の皆は時間が潰れて嬉しそうだけど、それ後で自分に返ってくるんだよ……。
それからも休み時間になる度に二人の周りには人で溢れて、途切れる事が無かった。
うーん、二人はなんでこの学校に転校してきたんだろう?
最初の挨拶以降、一度も会話出来なかったので聞く事も出来なかった。
ってそうだ、レオナとして聞けば良いのか。
いやダメだ。なんでレオナが知ってるのかって話だ。
同じ学校に居るのでなければ、知りようがない話なんだから。
そもそもレオナは無口キャラなので、話しかけられない。
別にコミュ障ってわけじゃないよ? 男バレしないように極力話さないようにしてるだけで、陰キャなわけでもないんだよ(早口
ああそうさ! どうせ話しかけられないよ!
よし、僕と私も話しかけられないから、この件はおしまいだ。
二人がどうしてこの学校に転校してきたのかは分からないけど、僕は当然として私にも関係のない話なはずだ。
あったら姉さんから話が来るはずだし。
……来るよね? 流石に私としての関係があれば、言うよね姉さん。
ダメだ、考えれば考える程ネガティブ思考に陥ってしまう。
こんな時は好きな音楽を流して気分転換するに限る。
スマホにイヤホンを接続し、音楽を流して目を瞑る。
「♪~♪~」
「「!?」」
「♪~~♪~~」
気分良く鼻歌交じりに頭を揺らす。
やっぱり音楽が良い。
そうして音楽が切れて、目を開けると目の前に二人が居た。
「うわぁっ!?」
「……やっぱり違う、よね?」
「……ええ、違う、はずよ。でも……この私がレオナの音程を聞き間違うはず……」
あっぶなぁっ!? この二人が近くに居るのに、鼻歌なんて歌ったら駄目に決まってた!
普段のボイトレや音程合わせ等、常に一緒にやってきたんだ。
こんなひょんな事でもバレる可能性がある事を考えられてなかった!
「ど、どうしたの?」
できるだけ平静を装って聞くと、『なんでもない』と言って二人は苦笑しながら、自分の席へと戻って行った。
ふぅ……これからは気をつけないと。
そうして放課後になり、『スターナイツ』の活動の時間が来る。
僕は急いで家に帰り、星美レオナへと変装し、車へと乗る。
メイクは叩き込まれたので自分でも可能だ。プロの方のお墨付きも貰っている。
まぁ、大体やってくれるけどね。
学校が終わった後の時間が無い時は自分でするようにしている。
「レオナさん、今日はいつもと違う場所でお二人を乗せる事になっております」
運転手の方がそう言い、進路を変える。
なんと、僕が急いで帰ったのに学校へと戻るではないか。
「着きました。レオナさん、一度外に出てお二人を出迎えるようにと社長から」
「……」
僕は……私は無言で外へと出る。
「お、おいっ! あれ! 星美レオナじゃないか!?」
「おおおおおっ! マジだっ!」
「きゃぁぁぁぁっ!? レオナ様ぁぁぁぁっ!」
凄まじい歓声が耳を襲う。
ドームで集まった時とかで大声には慣れているけれど、静かな場所からいきなりだと結構耳に響くんだよね。
「レオナちゃんっ!」
「フン、貴女がこの学校に居ると聞いて転校したのに、とんだ無駄骨だったわ」
明かされる転校の理由に心では愕然としつつ、私は片手を上げて親指を車へと指す。
「分かった!」
「相変わらずね。分かったわレオナ」
二人が車に乗ったのを確認して、私は周りを見渡す。
男女様々な視線を受けつつ、二人はこんな中今日一日過ごしたんだなぁと実感した。
そんな中で博人を見かけたので、少しだけ笑みを零してしまう。
「「「「「!?」」」」」
あ、やべ。クールなレオナが微笑むのは駄目だ。
すぐに表情を作り、車へと乗り込む。
「い、今、レオナ様笑った!?」
「鉄仮面、氷の女王のレオナ様が!?」
「超激レアじゃねぇか! だ、誰か映像、写真でも良い、撮ってねぇの!?」
そんな騒ぎになっている事などつゆ知らず、私達は今日の公演場所へと向かう。
「それでねレオナちゃん! 今日ずっと質問攻めにあって大変だったんだぁ!」
「まったくよ。愚民共が五月蠅いったらなかったわ」
「……」
話は聞いて相槌を打ちはするけど、私は基本喋らない。
悪いなと思うし罪悪感は感じているんだけど……こればかりは仕方ない。
歌声と普段話す声はまったくの別物だけど、普段話していたら、男の時の僕に気付くかもしれない。
特に、この二人は。
次は21時頃に3話目を投稿致します。
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