3話.side明野響②(御剣ユリア)
翌朝はSNSで色々とレオナちゃんが話題になっていて驚いちゃった。
金曜日のライブが終わって、別れた後の出来事だったみたい。
警備員のおじさんの行為が信じられないし、姫咲君の名前が出て二重に驚いてしまった。
「レオナちゃんと姫咲君が知り合い……?」
まさか、と思いながらも、妹さんの存在が真実感を加速させる。
「やっぱり、私の勘違いだったのかなぁ」
匂いが似てる人だって、いるのかもしれない。
そう思う事にした。
したけれど……やはり、レオナちゃんかもしれないという疑惑を払拭しきれない私が居た。
なので、学校で一つ試してみようと決意する。
そして学校の昼休み。
私は思い切って声を掛ける。
「ねぇ姫咲君、ちょっと良いかな?」
少し驚いた表情で、姫咲君は応えてくれる。
「えっと、僕?」
「うん。少しお話がしたくて。ついでに、校内を案内してくれたら嬉しいな!」
努めて元気に振舞う。
いつもやっている事だし、大丈夫。
「分かった、案内するよ明野さん。有明さんは……」
「私の事は水鏡様かユナ様と呼びなさい。案内は不要よ」
姫咲君は了承してくれた。
当然のようにユナちゃんも誘ったけれど、ううん、先生に言われてるんだし、姫咲君からしたら当然なんだけど。
ユナちゃんは断った。
基本的にユナちゃんは男の子とは慣れ合わないからなぁ。
「了解。それじゃ明野さんを案内するね。と言っても、うちの学校はそんな見所なんてないと思うよ。普通の進学校だからね」
「あはは、そっか。それでも、お願いしますっ!」
普段より一層気を引き締めて、笑顔を振舞う。
ここで姫咲君に気取られるわけにはいかないからね。
「はは、冗談だよ。ほれ、さっさと行ってきな。明野さん待ってるだろ」
「あ、ああ。それじゃ明野さん、行こうか」
「うん!」
仲の良さそうな彼は、確か立川博人君。彼女さんが居て、とても仲が良いと聞いた。
姫咲君よりとても大きな体をしていて、威圧感があるけれど……姫咲君の事をとても大切にしているような気がした。
前を行く姫咲君に遅れないように近づくと、私の大好きな匂いがした。
もっと嗅ぎたくて、かなり近くに引っ付いてしまった。
「あ、あの。引っ付きすぎじゃないかな……?」
「ご、ごめんね。なんだか姫咲君の隣、安心するんだよね。私の好きな匂いがするの」
「に、匂い?」
困惑しているであろう姫咲君に、私は告げる。
「うん。私ね、人の匂いに敏感なんだ。香水とかでその人本人の匂いが消えちゃう事もあるんだけど……人それぞれに特有の匂いがあって、それを嗅ぎ分けられるの」
「そ、そっか」
「気持ち悪いよね、あはは……変な事言ってごめんね」
「驚きはしたけど、気持ち悪いなんて思わないよ。人それぞれ、色んな特技というか、あって良いんじゃないかな?」
「姫咲君……」
この言葉だけで、私は姫咲君が凄く好きになってしまった。
レオナちゃんであってもなくても、構わないとすら思ってしまった。
「ふふ、不思議だな。姫咲君とは会ったばかりなのに、なんでかなぁ。自然と話せちゃった」
「……」
驚きはしたものの、すぐに優しい表情に変わる姫咲君。
これだけで、もうレオナちゃんと凄く被って見えてしまう。
いつも私達を見る優しい目。
口も注意して見ないと気付かないレベルで口角が上がっていて、優しい笑顔に拍車が掛かってる。
それから音楽室へと向かって、クラスの皆から聞いたという事にして、ダンスの話を振る。
「聞きました! 姫咲君はダンスの講師顔負けなくらい上手なんだって! 私もっと上手くなりたいんですっ! レオナちゃんには及ばなくても、ユナちゃんに置いて行かれないくらいにっ!」
嘘とホントを混ぜた、私の言葉を姫咲君は真摯に聞いてくれた。
私の目を見て、頷いてくれた。
「うーん……とりあえず、庭に出ようか」
「うん!」
そうして、姫咲君の後に続いて校庭に着いた。
多少人が居るけれど、結構広いスペースだと思う。
「とりあえず、僕がここで踊ってみるから。それで習うかどうか決めてみて」
「!! はいっ!」
私は姫咲君を食い入るように見つめる。
周りの皆が姫咲君が踊る事について色々と言っているけれど、聞こえてはいても頭には入ってこない。
だって、姫咲君の表情が、踊りを踊る前のレオナちゃんの表情と、そっくりだったから。
「それじゃ、踊るよ。この踊りを見ても習いたいって言うなら、って事で」
そんな中で、私に向けて放たれた一言で、私の心臓を鷲掴みされたのかと思った。
踊りが始まり、確信した。
私の匂いがどうこうじゃない。
この踊り方、重心の動かし方、踊りのキレ、リズム感。
全てがレオナちゃんと同じだった。
踊りは違っても、癖は変わらないもの。
それもレオナちゃん程の腕前なら、それが顕著に出る。
憧れて、レオナちゃんのようになりたくて、ずっと、ずっと見てきた。
そんな私だから、間違えない。
「あの、姫咲君。ちょっと、良い?」
「え? うん」
移動している間、私の頭は真っ白だった。
どうやってここに着いたのか、記憶になかったくらい。
でも、なんとか声を絞り出した。
「姫咲君、ううん。レオナちゃん、だよね?」
この一言で姫咲君は凄く動揺した。
あのレオナちゃんがこんなに動揺する姿を見たのは初めての事で、少しドキドキしたのは絶対に言えない秘密。
それからどうして分かったかを説明すると、姫咲君は観念して話してくれた。
「……そうだよ。僕が、星美レオナだ」
「!! どうして、教えてくれなかったの?」
「それは……」
姫咲君は、辛そうに黙ってしまう。
違う、私はレオナちゃんを責めたいわけじゃない……!
そうじゃないの! 私は、私はただっ……!
「……」
「気軽に話せる事じゃない、よね。ごめんなさい、レオナちゃんにも事情があるって分かってるから。でも、どうしても……私は、知りたい。姫咲君がレオナちゃんだって知っても、私は仲間だって思ってるから!」
「!!」
「……放課後。付き合ってくれる? 私とユナちゃんのマンションの一室。そこなら、誰にも聞かれないから」
「……」
「ユナちゃんには話さない。私が、知りたいの」
「……分かった」
「うん、ありがとう。レオナちゃん、ううん……姫咲君。私は何があっても、味方だよ?」
「!!」
昔、レオナちゃんから言われた言葉。
私の心が折れそうになった時、助けてくれた魔法の言葉。
それがレオナちゃんの、姫咲君の心を守ってくれると願って。
一足先に教室に戻った私は、昼食を取る気にはなれず、カロリーメイトで済ませる事にした。
少しして戻って来た姫咲君は、誰が見ても分かるような、落ち込んだ表情をしていた。
そんな表情をさせたのは私だ……。
「……姫咲君」
ポツリと誰にも聞かれない声で零してしまう。
立川君が励ましてくれた事で、姫咲君の表情が少し明るくなった。
少しだけ私も救われた気がした。
放課後、私とユナちゃんのマンションに姫咲君を招待した。
と言っても、レオナちゃんとしても来ているので、2度目になるけどね。
部屋に案内をして、姫咲君から理由を聞いた。
「で、本題だけど……私が二人に話さなかったのは事務所の意向も勿論あるけど……それ以上に……私が、怖かったんだ」
私は本当に驚いてしまった。
いつもクールで、怖い物なんて何もなさそうなレオナちゃんが、怖いと言ったから。
「うん……。僕の、私の大好きな二人が……私に幻滅するんじゃないかって。私を……」
それも、私達に幻滅されるかもしれないから、だなんて。
私は思わず叫んでしまった。
「そんなことありえないっ!!」
「っ!?」
「私は、レオナちゃんが男だからって幻滅なんてしない! レオナちゃんはレオナちゃん! 性別でなんて見てない!」
それから、私の事を色々と暴露してしまった。
こんな事言うつもりじゃなかったのに、全部、全部話してしまった。
そしたらレオナちゃんは、ううん姫咲君は、笑ってくれた。
「うん、分かった。そうするよ」
「うん! それじゃ、これからもよろしくね、レオナちゃん!」
「こちらこそ、よろしく」
色々とお互いの事を話して、恥ずかしい思いもしたけれど……レオナちゃんとの壁が無くなった気がして、嬉しかった。
「ふふ、それに……レオナちゃんが女の子じゃなくて男の子なら、結婚だって出来るもんね!」
「……」
つい言ってしまった言葉に姫咲君が唖然としていたけど、私は見ないフリをしたのだった。




