2話.side明野響①(御剣ユリア)
私は『スターナイツ』のメンバーの一人、御剣ユリアこと、明野響です。
クールなレオナちゃん、ツンとしたユナちゃん、元気な私と個性溢れるグループだと思ってます。
ファンの皆は皆そう思っているだろうけど……本当は違うんです。
あっ、悪い意味じゃなくって。
レオナちゃんはクールで笑わないって思われてるけど、本当は違って。
いつも優しい表情で私やユナちゃんを見ていてくれて。
私がレオナちゃんの方を向くと、表情を変えちゃうけれどね。
奇麗でクールなだけじゃなくて、とっても優しい事を知ってる。
ユナちゃんはいつも言動は厳しい事をわざと言っているけれど、本当は面倒見が凄く良いの。
困っている時はすぐに声を掛けてくれるし、一緒に解決してくれる。
レオナちゃんとタイプは違うけど、優しい所は凄く似ていて。
二人共お互いの事を認め合っていて、羨ましくもあり、憧れでもあり、二人の仲間で居る自分が誇らしくもあり。
だからこそ、二人の足を引っ張らないように、もっと成長したかった。
そんな時だった。
事務所の社長から、私立鶴見川高等学校に転校しないかと持ち掛けられた。
詳しくは言えないけれどと前置きされて。
レオナちゃんが毎回練習に数時間かけて来ていると初めて知った。
けれどこの学校の近くに住むなら、レオナちゃんの負担が減るのだと。
私は一も二も無くOKした。
だって、知らなかった。
私とユナちゃんは、練習ステージまで10分も掛からなかったから。
てっきり、レオナちゃんもそうだと思っていた。
昼から開始なのも、ユナちゃんは練習をしたがっていたから、レオナちゃんが朝は起きられないのかなって思ってた。
違った。レオナちゃんは、私達に合わせてくれていた。
車で数時間かけて……お昼から開始なのは、朝を移動だけに使っていた事になる。
つまり、私やユナちゃんよりももっと早く、家を出ていて。
でもそれに文句ひとつ言わずに、私達に合わせてくれていた。
『スターナイツ』は、元はレオナちゃん一人だったって聞いた。
それから、ユナちゃんが入って、私が入った。
それなのに、一番の古株のレオナちゃんが、一番負担を負ってくれていた。
そんなレオナちゃんの優しさが嬉しくもあり、悔しくもあった。
だからユナちゃんに相談しようと思ったら、何も言うまでもなくユナちゃんもOKしていた。
『あの社長がそう言うという事は、もしかしたらレオナも同じ学校かもしれないわね?』
『!! そっか! それじゃ、レオナちゃんには秘密にしようよ!』
『ふふ、そうしましょうか。レオナの驚く顔が楽しみね』
『うんっ!』
そうして社長と副社長、事務所の皆にも共有してもらい、私達の転校は秘密裏に行われた。
同じ学校の人達からは、かなりお別れを惜しまれたけれど……。
ユナちゃんは違う学校だったけれど、同じように惜しまれたんじゃないかなと思う。
仮にレオナちゃんと同じ学校じゃなくても、ユナちゃんと同じ学校に通えるのは嬉しいし。
そう考えていたら、どうやらレオナちゃんは同じ学校に居なかったみたい。
がっくし。
でも、ユナちゃんと同じクラスになれたのは凄く嬉しかった。
そうして先生の声でクラスへと入り、自己紹介をした後。
「ええと……な。ご本人達からの紹介もあったが、明野響さんと有明美沙さんだ。これから一年間、このクラスで一緒に学ぶ事が急遽決まりました。彼女達は仕事の関係で授業に出ない時もあるが、そこら辺は皆も協力してあげて欲しい。以上でホームルームの連絡を終わるが……あー、姫咲!」
「は、はい」
「丁度姫咲の後ろと右側が空いてるから、担当よろしく」
言われた先を見ると、端正な顔立ちをした、一目で美少年という感じのする男の子が居た。
なんというか、男の子なはずなのに、どことなく女の子に見えるような、中性的な顔立ち。
これは凄くモテてるだろうなぁと思った。
そうして席の前についたので、元気よく挨拶をする。
「よろしくね姫咲君!」
「あ、はい……」
そこで漂う、いつも嗅ぎ慣れた、大好きな匂い。
「……あれ? なんか、姫咲君知ってる匂いがするような……」
つい、口に出して言ってしまった。
あぁぁぁ。大失敗してしまったぁぁぁっ!
姫咲君驚いて固まっちゃってるよ!
「馬鹿な事言ってないで奥へ行きなさいユリア。この私の前を遮って良いのは、レオナだけなんだから」
「あっ。ごめんね!」
「フン」
また、さりげなくユナちゃんに助けられてしまった。
それから休み時間になると、凄く沢山のクラスメイト達に囲まれちゃって、姫咲君を見る事が出来なくなってしまった。
でも、担任の先生が私達転校生の担当って言ってくれたので、チャンスはあるはず。
そんな事を考えていたのに、もうお昼休み。
一向に人の波が減らない。
うわーん、姫咲君に話しかけたいのにー!
「♪~♪~」
「「!?」」
「♪~~♪~~」
急に聴き慣れた音が聞こえてきて、私は立ち上がる。
周りの皆が驚いたけど、ユナちゃんも同時に立ち上がっていた。
私とユナちゃんは、音のする方へと近づく。
発生源は姫咲君だった。
「うわぁっ!?」
音が終わると同時に目を開けた姫咲君は、私達を見て驚いた声を上げた。
「……やっぱり違う、よね?」
「……ええ、違う、はずよ。でも……この私がレオナの音程を聞き間違うはず……」
ユナちゃんも疑っているみたいだけど……私も疑っている。
この人はもしかして……。
「ど、どうしたの?」
と聞かれたので、まだ確証の持てない私は『なんでもない』と言って、席に戻った。
ユナちゃんも同じように、席に戻った。
でもあのユナちゃんまで思ったなら……もしかしたら、もしかするのかもしれないとこの時の私は思った。
そして、この後に疑惑はほぼ確信に近くなる。
「お、おいっ! あれ! 星美レオナじゃないか!?」
「おおおおおっ! マジだっ!」
「きゃぁぁぁぁっ!? レオナ様ぁぁぁぁっ!」
レオナちゃんが学校に私達を迎えに来てくれた。
「レオナちゃんっ!」
「フン、貴女がこの学校に居ると聞いて転校したのに、とんだ無駄骨だったわ」
私達が喜んでレオナちゃんに近づくと、片手を車の方へ指さすレオナちゃん。
「分かった!」
「相変わらずね。分かったわレオナ」
すれ違いざまに嗅いだ匂いが、完全に姫咲君と同じだった。
「それでねレオナちゃん! 今日ずっと質問攻めにあって大変だったんだぁ!」
「まったくよ。愚民共が五月蠅いったらなかったわ」
「……」
私達の話を、頷きながら聞いてくれるレオナちゃん。
レオナちゃんは無口なだけで、きちんと話を聞いてくれる。
それに、大切な場面では一生懸命に話してくれる事だって、私は知ってる。
そんなレオナちゃんが私は大好きだから。
だから、私に隠し事をしているんじゃないかと思った時、心に棘が刺さったかのように、痛かった。




